
歳を重ねるほど頑固になる人、一方で歳を重ねるほど温厚で優しくなる人がいます。それは老人脳になっているかいないかの差だということが分かっています。また脳が若々しく保つような生活習慣を送っている人は人の気持ちを読む能力がいつまでも衰えないことが分かっています。
この生きる上で非常に重要な「相手の気持ちを読む能力」は、10代で低く、20代で急激に伸び、48歳でピークを迎えます。そして50代ぐらいから周りのことを徐々に気にしなくなる人が出てきます。例えば家族に横暴な態度になったり、店員さんに乱暴な言葉を使うようになったり、自分の思い通りにならないことに憤慨するようになります。それは悪気があってそうなるのではなく、脳の機能が低下して自然とそうなるのです。
また、脳の老化は自分では気付くことができず、通常30代から少しずつ萎縮が始まり、60代半ばになると明らかに萎縮が起き、放置するとどんどん老人脳になっていきます。
特に「相手の気持ちを読む能力」は、人によって振れ幅が大きく、40代でピークを迎える人、70代や80代までそのピークが持続する人もいます。いつまでも脳が老化しない人は、脳の老化を緩やかにする、もしくは積極的に若返る工夫をしています。
人はマインドから老化する
脳を老化させないためには、健康的に運動する、頭を使う、コミュニケーションを取るなどの脳活のようなものを意識するかもしれませんが、それ以上に大きな影響を及ぼすものが私たちのマインドです。
研究では「自分が若い」と本気で思っている人は、実際に脳も体も若くなることが分かっています。実年齢が60代であっても、自分は40代であると思うことを主観年齢と言い、そう思うと40代のような行動をとるようになります。
韓国で行われた研究によると、59歳から81歳の被験者68人の主観年齢と脳の状態を調べたところ、主観年齢を実年齢より若いと答えた被験者には、灰白質の密度が高く、記憶力が良く、うつの傾向が低いことが明らかになっています。
また、ハーバード大学で行われた実験では、70代になる8人の被験者を、22年前のテレビ、ラジオ、本を配置して、さらに当時の内装に仕上げた建物の中で5日間共同生活を送ってもらいました。22年前の自分を意識することのみをルール(主観年齢を22年前と思う)として決めたところ、5日間で手先の器用さが向上、姿勢が良くなる、視力がアップ、見た目が若くなり、考え方が柔らかくなったことが分かっています。つまり自分は若いと思い込んで行動するだけで脳に変化が生まれたことになります。さらに第三者に見た目の年齢を実験前後で判断してもらったところ、たった5日間で3歳も若くなっていました。つまりもっと長い期間過ごせば、さらに若く見られるということが推測されます。
このように自分は若いと思うマインドだけで、脳内のイメージが変化し、生理的反応にまで影響して、健康状態がより良くなっていくことが明らかになっています。
その他の研究でも、オシャレに気を配り、外見が若い人は介護を受けるリスクが低くボケにくいことも示されています。さらに脳のMRI画像の若々しさと見た目年齢には明らかに相関関係があります。つまり重要なのは見た目に気を配る心持ちやオシャレをしようとするマインドが脳の活性化に効果的であり、逆に脳が活性化した結果、若々しい外見が身についてくるということです。
欲は悪いものではない
一般的に欲は悪いものであるというイメージがありますが、若々しく脳を保つためには欲は非常に重要なものです。一般的には食欲などの生理的欲求は、年齢を重ねるごとに減少していきます。その理由は、やる気を生み出す脳内ホルモンであるドーパミンが加齢とともに減少するからです。
さらに欲があった方が長生きできるという研究があります。例えば食欲が旺盛な高齢者の方が長生きする傾向にあり、食の細い高齢者は死亡リスクが2倍以上高まるということが明らかになっています。長生きするためにも欲の原動力であるドーパミンを増やすことが大変重要になります。
このドーパミンを増やすことは実は簡単です。例えば笑顔を作る、体を動かす、好きな音楽を聴く、好きな人の写真を見る、スポーツなど予想外の嬉しいことが起きることに参加する、新しいことに参加するなどの習慣によってやる気が衰えず脳がいつまでも若い可能性があります。
一方で年齢を重ねることに増える欲が幸せに対する欲です。この欲に関係しているホルモンが、別名愛情ホルモンと言われるオキシトシンです。オキシトシンは、人や動物などと繋がった瞬間に出るホルモンです。そして2022年の最新研究では加齢とともにオキシトシンは増えることが明らかになっています。
加齢とともに生理的な欲求は減りますが、人とつながることや人に貢献することでオキシトシン的な幸せを追求するようになります。
生きがいがある人生
脳を若々しく保つために生きがいを持っている人の方が脳の認知機能が高いことが分かっています。生きがいというと大層に聞こえるかも知れませんが、それは旅行するのが生きがい、写真を極めるのが生きがいなど、何でも良いです。喜びや幸せ、楽しく思うポジティブな気持ちが心身にかかるストレスを減らし、様々な病気のリスクを下げ、その好循環が長寿をもたらすと考えられています。
このような主観的な幸福度を上げるためにも生きがいを持つことで、ドーパミンが分泌され快感や幸福感を得たり、意欲が湧いてきたりします。
脳老化をチェックする
脳の老化度がすぐにわかる方法があります。目を閉じた状態で何秒間片足で立っていられるかを測ることで脳の老化度を診断することができます。目安は30秒以上で立っていられればまだまだ脳は若い状態です。バランス感覚が脳の状態と比例しており、30秒以下であれば脳老化が進行しているかも知れません。
ただし30秒以上立てるようにトレーニングすることで、脳を鍛えることが可能です。片足立ちの練習によって、バンランス能力を鍛えることで、短時間でも効果が期待できる方法です。
糖質でボケる
認知症には、脳の糖尿病という異名があることをご存知でしょうか。最近の研究で砂糖の摂取と認知症発症の間には無視できない関係があるということも明らかになっています。UCLAが行った研究によって、砂糖をたくさん摂取することと体内の炎症レベルの上昇との間に関連性があることが明らかになりました。この炎症が脳のもつれやプラークの形成につながり、認知症になりやすくなると考えられています。また脳で炎症が起きてしまうことによって、認知機能が低下してしまったり、認知症のリスクが上がると考えられています。また UCLAの研究に加え、米国精神医学会が行った別の研究でも、砂糖の摂取量が多い人は認知症の低下や記憶障害などを経験する可能性が高いことが判明しています。
ボケたくないとか、認知症を防ぎたいと思うのであれば糖質の取り方には注意しなければいけません。特に糖質の中で避けるべきものは、精製した糖質であり、白米、パン、麺、砂糖と小麦粉で作ったお菓子、じゃがいもです。
この5つには「糖毒性」があり、例えば白米やジャガイモで鍋を焦がしてしまうと洗ってもその焦げは中々取れません。この頑固すぎる焦げをAGEと言い、糖質とタンパク質が結合して二度と分解されることがない物質です。この頑固な焦げは、これらを取ることで血管内に生まれ、血管内のタンパク質であるコラーゲンと結びついて糖コラーゲンというAGEができ、これは動脈硬化の原因になるだけでなく、脳にダメージを与えて認知機能を低下させます。
問題は精製された糖なので、例えば白米ではなく精製されていない玄米や雑穀米を選びましょう。また同様にパンならば全粒粉のパン、麺ならばうどんよりも十割そば、じゃがいもよりは皮付きのさつまいもなど選択するということが非常に重要です。
最強の脳トレは音読
加齢とともに物忘れやうっかりミスが多くなるのは脳からSOSサインです。認知症の予防や脳の老化の予防には毎日の生活習慣が極めて重要です。しかし1分の脳活でも脳を活性化して、老化を防止し認知症を予防する効果があることが示されています。
特に40代ぐらいから衰えが始まるのがワーキングメモリーネットワークです。その衰えを防ぐ方法が、利き手と逆の手を使うことです。脳は新しいことにチャレンジすると活性化するという性質があります。例えば歯磨きをいつもと違う反対の手で行うだけで1分脳活になります。
そしてもっと簡単な脳活が本や新聞を音読することです。実は文章を読む時に様々な脳の領域が活性化しており、特に音読は一度に沢山の脳の領域を使います。目で黙読することで視覚部位を、読んで理解することで前頭前野を、発語して声に出す部位や自分の声を聞く聴覚部位を使うため、一石四鳥の最強の脳活です。さらに音読している時に、脳内ではセロトニンというストレスを和らげてくれるホルモンが分泌されています。また前頭前野の働きが活発化し、アイデアが閃いたり、考えをまとめる能力が高くなります。さらに同時に感情をコントロールしやすくなりイライラしにくくなるとも言われています。
「運動」と「脳」の仕組み
「運動」に様々な病気の予防効果があると言われても、なかなか「運動」を習慣化するのは難しいのが現状です。しかし私たちの身体は本来動くように設計されており、身体を動かすことが生存の可能性を増やすという遺伝子が組み込まれています。
私たちの祖先は、常に飢えとの戦いの中で生き、毎日食べ物を探し、獲物を捕まえ動き回って生きるための食料を探していました。その他、必死に身体を動かして危険な猛獣から逃げたり、住みやすい場所を探したりすること生き延びるために必要でした。
例えば食べ物を食べて美味しいと快楽を感じるのも食べることが生存につながるからであり、つまり生存の可能性を増やすことが快楽やメリットが伴うように脳が設計されているのです。そして運動も生存の可能性を高めるため、脳内神経伝達物質である幸せホルモンの「セロトニン」、やる気、集中力の「ノルアドレナリン」、覚醒物質の「ドーパミン」が分泌されるのです。
脳は1万年前からほとんど進化していないと言われ、そのため生存の可能性を増やした行為と同じことをすれば、脳はそれを繰り返させようと私たちに快楽を与えてくれる仕組みがあります。
一方で現代人は座っている時間が長く、脳の仕組みから考えれば生き残れない状況を作り出していることになります。多くの人が身体に不調を感じるのは、脳と私たちの環境の矛盾にあります。身体を動かすことで生存の可能性が増え、脳から報酬が与えられる、その報酬によって前向きになったり、健康になったりします。
こう考えれば運動によって他の様々な機能を強化できることにもなります。例えば獲物を仕留めるには集中力が必要であり、素早く行動する必要があります。つまり運動が集中力を高め、新しい経験をすることが記憶力を高めることにつながります。
どんな「運動」をすればよいかは重要ではなく、どんな運動でも良いからとにかく身体を動かすことが大切です。まずは楽しいと思える運動からスタートして、そして慣れてより高い効果を期待するのであれば30分程度のウォーキングをしましょう。ポイントは、適度な負荷で心拍数を増やし有酸素運動を心がけることです。また脳が再構築されて構造が変化するまでには時間がかかるため、根気よく、決して諦めずにとにかく続けてみましょう。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。