夫婦で不妊鍼灸治療

    夫婦で不妊鍼灸治療

    不妊の原因は女性側だけにあるだけでなく、男性側にあります。夫婦での妊活が大切であり、話し合い、協力しながら妊活をしましょう。最近では男性の妊活意識も変わり、妊娠だけでなく出産も子育ても夫婦で行う方が増えてきています。

    不妊症の原因(WHO)を男女別に見ると、男性のみに原因は約24%、女性のみに原因は約41%と高くなっていますが、男女両方に原因は約24%となっており、男性が関係する不妊の原因は半数近くあることが分かります。日本においては5.5組に1組が不妊に悩まれていると言われています。

    ストレスと体温低下

    ストレスは妊娠にも影響し、過剰なストレスによって女性ホルモンの働きが鈍くなると考えられています。排卵は、視床下部→下垂体→卵巣という流れでホルモンがバランスよく働くことで正常に起こります。しかし過剰なストレスは、視床下部→下垂体→副腎皮質というホルモン伝達の流れで作用し、副腎皮質ではコルチゾール(ストレスホルモン)と呼ばれるホルモンが分泌されます。つまり過剰にストレスがかかると,より多量のコルチゾールの産生が必要となるため、視床下部→下垂体→卵巣という女性ホルモンの働きが鈍くなってしまい、月経の乱れや排卵障害などが起こり、不妊症となると考えられています。

    そのため心と体をケアしてストレスを緩和することが、女性ホルモンの伝達を正常に近づけることになります。

    またストレスが心身の不調の原因になることはよく知られていますが、体温の低下にもつながることが分かっています。ストレスによって交感神経が優位になると脈拍が速くなり、血管を収縮させて血圧が上昇します。さらに自律神経が乱れることで温度センサーとしての役割が働かなくなり低体温状態になることが知られています。

    自律神経には、日中活発になる交感神経と、夜にリラックさせる副交感神経がありますが、ストレスで交換神経が優位になるとストレスホルモンである「コルチゾール」と「アドレナリン」が分泌します。これらの一時的に分泌されるホルモンは、ストレスから身体を守る役割がありますが、慢性的に分泌が増えると心身の不調を引き起こします。このような状態になるとだるさ、めまい、動悸、頭痛など「自律神経失調症」と呼ばれる不調症状が起こり、さらに体温の低下により冷えを引き起こし、さらに症状を悪化させてしまいます。

    体温を上げる

    体温を上げるためには、血流を改善して新陳代謝を活発にさせることが大切です。血液やリンパ液は、全身に張り巡らされた血管とリンパ管を通り、酸素や栄養、熱を運び、老廃物の回収をしています。

    血管には、動脈、静脈、毛細血管がありますが、冷えの原因と関係するのが毛細血管です。体の血管の99%は毛細血管が占めていると言われ、毛細血管の血流が減ることで、酸素や栄養が行き渡らず、さらに老廃物も回収できないため、冷えをはじめとした体の不調の原因になります。また毛細血管は最も細く、毛細血管がもろくなり血液が滞れば、ゴースト血管となり体の末端から冷えが生じます。

    毛細血管は、体と同じように衰えますが「Tie2(血管の接着剤)」という酵素を活性化することで、毛細血管の老化を遅らせることができます。このTie2を活性化させる働きがある植物エキスが、ルイボスティー、シナモン、ヒハツ(ピパーチ)などです。ルイボスティーには、腸内環境を整える効果があり、シナモンには代謝を高める効果があります。

    子宮と卵巣の冷え

    「妊娠に冷えは大敵」と言われるのは、冷えによって血流が滞り妊娠しやすさだけでなく、婦人科系疾患(生理痛、生理不順、月経前困難症など)などの不調を起こすからです。また子宮や卵巣の冷えによって自律神経のバランスが乱れ、免疫力や代謝機能が低下し、さらに不安やイライラなどの心の不調も起こりやすくなります。子宮や卵巣は常に血液や体の状態に影響を受けており、妊娠のしやすさ、卵子の質にもその影響が及びます。妊娠のしやすさには、子宮と卵巣が温まっている状態が大事であり、血液を十分に届けることで、子宮筋肉は本来の機能が発揮できます。

    特に慢性的に冷え、むくみ、肩こり、頭痛、だるさなどの症状がある場合は、血流を改善して、体を十分に温めていく日常的なケアが大事です。ストレスを緩和し、十分な睡眠を取り、適度な運動、体を温める食事を心がけましょう。そして体の血流を良くして冷えを改善していくことが妊活に大切なことです。

    内臓を温めるヒハツ

    お腹を温める最強の食材は「ヒハツ」です。日本では馴染みのないヒハツは、ロングペッパー、ピパーチ、ヒバーチとも呼ばれるコショウの一種で香辛料として使われています。インドでは紀元前から食生活に欠かせない香辛料で薬としても使われている効能の高い香辛料です。日本では沖縄で生産されており、琉球料理では島コショウと呼ばれています。

    実際にも、2週間の間に内臓を温める他の方法を一切せずに、ヒハツを1日1g食べ続ける生活をした60歳女性の内臓温度が0.4度上昇した結果があります。同じ条件で50歳男性の内臓温度が0.9度も上昇した結果が出ています。

    また、ヒハツの効能は熱を作り出すだけでなく、血管を強くする作用があると考えられています。内臓の温度は体の中で作られた熱エネルギーが血液と一緒に全身に行き渡ることで一定に保たれています。血液が通る道は、動脈、静脈、毛細血管があり、この中で99%を占めているのが毛細血管と言われています。そのため体中に張り巡らされた毛細血管が健康でないと全ての細胞にしっかりと熱が行き渡りませんが、毛細血管は極細のために劣化しやすく壊れやすい特徴があります。また毛細血管は加齢とともに減少し、健康的な人でも60代には20代と比べて約4割も減少すると言われています。さらにストレスや悪い生活習慣も同じく毛細血管を減少させてしまいます。

    ヒハツに含まれる「ピペリン」は、この毛細血管を補強してくれる働きがあります。また私たちの体には、機能不全に陥った毛細血管から枝分かれするように新しい毛細血管が作られて再び栄養を細胞に届けることが可能となる「血管新生」と言う働きがあります。ヒハツはこの血管新生の働きを促進する効果があります。

    男性不妊の原因

    男性不妊の原因は、精子の数の低下、運動性の低下、DNAの損傷です。これらは加齢やストレスなどの要因に影響され、特に加齢によって精巣の大きさが小さくなり、徐々に精子を作る力も弱まります。

    男性不妊の原因として、ストレス以外で特に注意すべきなのが飲酒と喫煙です。アルコールは肝臓だけでなく、実は精巣にもアルコールを分解する酵素があり、過度の飲酒は精子を作る力を下げることになります。また喫煙者は精子量の減少や運動率の低下することが分かっています。

    男性への不妊鍼灸治療

    妊娠には受精してから着床する必要がありますが、その過程で重要な要因の1つに、受精卵の分割速さがあります。受精後約6日かけて分裂し孵化して着床するプロセスの中で、この受精卵の分割に精子の質が関係していることが明らかになっています。受精卵の質だけでなく、精子の質を上げる必要があるため男性側の精巣への血流量を高めていく必要があります。

    不妊鍼灸治療では、恥骨上にある「中極(ちゅうきょく)」、背中にある「命門(めいもん)」「腰陽関(こしようかん)」などを刺激し、精巣への血流量を高めることができます。


    中極(ちゅうきょく):指幅5本をそろえて、親指をおへそにおき小指があたっているところ

    命門(めいもん):ちょうどおヘソの裏側

    腰陽関(こしようかん):丁度ベルトの高さに当たる部分と脊柱が交わる点の下

    不妊ツボ

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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