不妊鍼灸治療のアプローチ

    不妊鍼灸治療の科学的根拠

    鍼灸治療は多くの研究が進み、人の身体に及ぼす様々な作用が科学的に証明されてきています。不妊に対する鍼灸の効果を研究した論文も多く発表されており、特に自律神経を介した子宮や卵巣に対する効果が多く掲載されています。

    不妊鍼灸治療のメカニズム

    鍼灸のメカニズムの解明が進み、代替医療として様々な疾患や症状に有効であることが分かっており、特に不妊治療については、大きく分けて3つのアプローチがあります。

    自律神経のバランスを整える

    現代人はストレスなどによって、交感神経が優位になっており、身体が常に緊張している状態になっています。このように自律神経のバランスが崩れることで、眠れない、暴飲暴食、冷え、身体のこわばりなど様々な症状が現れます。また子宮や卵巣の血管も自律神経によって調節されており、自律神経が乱れると、これら臓器の働きや血流、ホルモンの分泌、免疫バランスにも不具合が生じます。

    自律神経に大きく関わるのが血管です。血管は血液を運ぶ役割がありますが、実は血管自体もポンプのような役割(トーヌス)があります。それを担うのが血管を構成する細胞や組織であり、その中でも血管平滑筋は自律神経の影響を大きく受けます。そのため過緊張状態が起こると、血管が収縮して血流が悪くなります。

    鍼灸治療が自律神経に良い影響を及ぼし、血管を拡張させることは沢山の研究で既に明らかにされています。例えば鍼の通電刺激が自律神経(交感神経)を介して卵巣の血流を増加させることを明らかにした研究もあります。つまりストレスによって交感神経が優位になり、機能が低下した卵巣に鍼灸が働き、その状態を改善することが明らかになっています。

    局所的な血流改善 

    鍼灸には自律神経のバランスを整え、さらに局所の血流量を増やせることが明らかになっています。不妊鍼灸治療では、骨盤内の臓器、子宮・卵巣動脈の神経支配に働きかけることで血流量を増やし、卵胞の発育、卵の質のアップ、内膜の養生につなげることができます。また鍼通電刺激が一定の強さと頻度によって行うことで、卵巣への血流量を増すことが実験で確認されています。

    また妊活にはお腹を温める温活も大事だと言われていますが、実際卵巣はお腹の表面から深さ8cmにあり、外部から温めることは容易でなく、表面を多少温めて血管の拡張を起こすことは難しいと考えられます。しかし局所的な血流を増加させる方法として鍼灸や高周波温熱療法などの手技手法が確立されています。

    リラックス効果

    妊活中は、様々なストレスを抱えることは容易に想像できます。特に専門の病院に通院中であればなおさらです。また体外受精を希望するのであれば、仕事の調整や金銭面での負担など様々なストレスに晒され、その影響を特に受けやすいのが自律神経です。ストレスにより交感神経が常に刺激されると血管を収縮させてしまい、卵巣や子宮の血流も悪化させてしまいます。そのため不妊鍼灸治療が妊活のストレスにならず、リラックスにつながることがとても大切なことです。

    鍼灸治療を継続的に行うことでストレスによる症状を軽減することが数多くの研究で明らかになっており、ストレスによる身体的な不調だけでなく、メンタルの不調にも効果が期待できます。また心身をリラックスさせることで、抹消の血液循環を改善することが可能です。

    鍼灸で子宮・卵巣の血流を改善

    血管の大切な役割

    血管の大切な役割は、酸素や栄養を末端の細胞まで届けることです。この血管は大人になるころには道筋ができて、ただ1つ例外を除いてはその後に大きく変わることはありません。その1つの例外が子宮です。

    子宮の血管は、毎周期ごとに伸びたり破綻したりを繰り返す組織で、たった2週間で血管が1cm伸びると言われています。それを毎月繰り返すため極めて多くの栄養や血液が必要になります。

    一方で卵巣の表面はびっしりと血管で覆われており、それは卵子の成長、卵胞の成熟にたくさんの栄養が必要になるからです。また排卵時に起こる卵巣表面の傷を修復するためにも多くの栄養を必要とします。

    血液からの栄養補給

    卵子は約120日から180日かけて栄養を補給して排卵を迎えます。つまり卵巣の血流が良くなれば、当然ながら卵子の質も良くなります。卵子には「ピノサイトーシス」と「ギャップジャンクション」と呼ばれる栄養補給の仕方があります。

    ピノサイトーシス卵巣の微小血管から漏出した血漿成分を取り込み、卵子の中で分解して栄養とします。
    ギャップジャンクション卵子と接触している顆粒膜細胞との間での栄養のやり取り(細胞結合)です。

    卵巣への血流の改善が卵子の質に影響すると考えられますが、実際にどれほどの効果を及ぼすかははっきりと解明されていません。

    AMH(卵巣年齢)

    AMH(アンチミュラー管ホルモン)、卵巣の中に排卵にむけて発育する卵胞がどのくらいあるかを知るための指標です。ただし、AMHは卵子の質を表しているものではなく、AMHが低くても、卵子の質を上げることは可能です。つまりAMHが低い場合は、より残っている卵子の質を上げることが重要になります。

    卵巣の中にある原始卵胞は、一次卵胞→二次卵胞(前胞状卵胞→胞状卵胞)→成熟卵胞(グラーフ卵胞)と発育して排卵に至ります。この中で一次から前胞状卵胞になるまでに120日、前胞状卵胞から胞状卵胞になるまでに60日かかります。つまり卵子の質を上げるには最低半年が必要になります。

    東洋医学には「養生」という言葉があり、この期間に生活改善、ストレス解消、運動などで血流を促進し、鍼灸を組合せることで、より妊娠しやすい身体をつくることができます。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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