頭の鍼でメンタルヘルスケア

    多忙な毎日を過ごす中、気づかぬうちに心の中に疲労が蓄積していきます。その疲労がある一定量を超えてしまうと心が壊れてしまいます。厚生労働省の患者調査によれば、日本人のうつ病を含む気分障害の患者数は年間130万人を超えています。うつ病患者数は30年前の1996年は僅か40万人程度だったことから、この30年で3倍以上に増えています。さらに日本の自殺者数は 世界第3位で自殺大国として知られています。

    昨今では50代以上の中高年のうつ病も問題となっており、中年以上でうつ病やうつ状態に陥ることをミッドライフクライシスや10年の危機などと呼ばれています。このようなうつ状態になってしまう人の多くは真面目で頑張り屋さんの人が多いため、そのためメンタル的に辛いことがあったとしても我慢して頑張ってしまい、ある日急に限界を超えて心がポキッと折れてしまいます。そのため今すぐ休むべき心の限界サインを見逃がさないようにして下さい。

    心の限界を知らせるサイン

    • 味が感じられなくなり食欲が減る
    • 片方のまぶたや目の下がピクピク動く
    • 朝目覚めても起き上がれない
    • 好きだったことが楽しめなくなる
    • 金使いが荒くなる
    • 自然と涙があふれ出す

    味が感じられなくなり食欲が減る

    うつ状態になると食欲が減退する原因として、味覚の異常、意欲の低下、ストレスによる副交感神経の抑制の3つが挙げられます。実はうつ状態やうつ病に罹ると味覚異常により味を感じづらくなることが知られています。この理由は、うつ病によって味覚を脳に伝える神経そのものの感度が下がってしまうからではないかと考えられています。当然、元気がないときは喜びを感じにくくなります。つまり脳に信号を伝える神経も元気がなくなることで感度が悪くなります。同じように味も感じられなくなります。

    さらに、うつ病の典型的な症状として意欲の低下が挙げられます。例えば好きだった趣味などが楽しめなくなる症状がありますが、このような症状は意欲の低下が原因であると考えられており、食べることを楽しめなくなるのもその症状の一つであると言えます。

    楽しいことが楽しくなくなったというのは自分では気づきにくいです。このような症状に気づくためには、毎日日記を書き、毎日何にどのくらい時間を使っているかが定量的に分かります。日記を見返して好きだったことにかける時間が減っているのであれば、それはうつ病の初期症状かもしれません。

    また友達やパートナーの方に最近、趣味をしなくなったねと言われて「余計なお世話、ほっといてくれ」と思ってしまった方、実はうつ病になると気分が安定せずイライラしがちになるので、アドバイスや提案を拒否してしまいがちになります。

    ストレスによる副交感神経の抑制

    自律神経には興奮時に働く交感神経とリラックスした時に働く副交感神経の2つがあります。このうち食べ物の消化吸収に働いているのは副交感神経です。なぜなら消化吸収は寝ている時などのリラックスしている時に働くためです。うつ病やうつ状態になると終始緊張状態になり、交換神経が優位になって副交感神経が抑制されることで消化管の消化吸収作用が弱まります。これによって食欲が無くなります。

    一方で、うつ状態になると暴飲暴速をしてしまうこともあります。これはうつ病の原因であるストレスによって、それを発散させるために自己破壊的な行動に至ると考えられています。またうつ病の中でも、特に冬場に起きやすい冬季うつは、典型的なうつ病の症状とは異なり暴飲暴食をしてしまうケースがよく見られます。

    片方のまぶたや目の下がピクピク動く

    疲れた時や徹夜した時などにまぶたや目の下が勝手にピクピク動く症状を「眼瞼ミオキニア」と言います。この症状の直接的な原因は未解明であり、眼瞼ミオキニアには目の周りにある眼輪筋を動かす神経に異常が起こるため生じると考えられています。眼輪筋を動かす神経は非常に細い末梢神経であることが知られており、疲労やストレスの影響を受けやすいと言われています。

    このような眼瞼ミオキニアが現れた場合には、神経に相当疲労がたまっている証拠であるため、必ず無理せずしっかり休息や睡眠を取るようにしましょう。

    因みに、眼瞼ミオキニアと非常によく似た別の病気に「眼瞼痙攣」があります。眼瞼痙攣は眼瞼病気にあとは違い、両目に症状が現れるというのが特徴です。眼瞼痙攣は症状が長引くと自分自身で瞼を開けられなくなり、失明してしまう恐れがあるため神経内科のお医者さんを受診しましょう。

    朝目覚めてしまうのに起き上がれない

    うつ病の患者さんは朝起き上がれない人が多いですが、それは朝目を覚ますことができないのではなく目は覚めているのに極度の疲労によって起き上がることができないケースがほとんどです。

    朝早く目覚めてしまうことを「早朝覚醒」と言いますが、これはうつ病に典型的な症状の一つです。早朝覚醒は眠りたいのに眠れなくなるため、辛い不眠症状の一つであるとも言えます。

    さらに早朝覚醒以外にもうつ病の典型的な症状として、夜の寝つきが悪いという点も挙げられます。このように夜の寝つきが悪い上に、朝すぐに目覚めてしまうため全く睡眠が足りず極度の疲労が蓄積しており、朝目が覚めているにも関わらず立ち上がれないという状態になります。

    金使いが荒くなる

    うつ病によって金遣いが荒くなる原因には2つあると考えられています。一つはストレスです。食べ物によってストレスを発散するのと同じように、心が折れかけるとお金を使いまくってストレスを発散しようとします。

    二つ目が躁うつ状態です。気分障害の中にはうつ病に並べる代表的な病気として躁うつ病があります。躁うつは、うつ状態とそれとは真逆のめちゃくちゃな元気な状態を繰り返すという病気です。このような躁うつ病の方は、特にうつから移行する躁転期フェーズでお金を使い切ってしまうという特徴があります。また同状態になるとものすごく気分が高揚し、いわゆる全能感というものを感じる人が多いと言われています。

    自然と涙が溢れ出す

    訳もなく涙が出てくるのも、好きなことに興味がなくなったのと同じようにうつ病の典型的な症状の一つです。うつ病によって涙が出てしまう原因には諸説ありますが、一つにはセロトニン不足が考えられています。セロトニンは幸福ホルモンの一つで、うつ病ではこのセロトニンが減少することが知られています。そのため精神科ではうつ病の治療薬としてセロトニンを増やしたり、脳内にセロトニンを留める薬が使われます。

    一方で、私たちは涙を流すことでセロトニンが分泌されることが分かっています。悲しいことや辛いことがあった時に涙を流すとすっきりするのは、セロトニンが分泌されることで脳が幸福な気分になるからと考えられています。うつ病では脳が慢性的なセロトニン不足になるため、涙を流すことでセロトニンを分泌させようとする体の防衛反応であると考えられています。

    ストレスを解消する

    多くの人は長期的で慢性的なストレスを抱えていますが、一刻も早くストレスを解消する時間を作るべきです。長期的なストレスは、血圧の上昇や心拍数の増加など血管に負担をかけることで、血管の老化だけでなく全身の老化につながります。またストレスを長期間放置するとうつ病や不安障害などのメンタル疾患が発生するリスクが高まります。

    さらには長期的なストレスは、糖尿病や消化器系の疾患などの慢性病のリスクを高めるということが報告されています。またストレスが原因で睡眠の質の低下、睡眠のトラブルが発生することもあります。さらに長期的にストレスがかかり続けていると免疫機能が低下することが分かっています。その結果感染症や自己免疾患のリスクが高まります。

    作り笑顔でメンタルケア

    近年の研究では、楽観主義が不安を軽減してくれる効果があることが分かっています。楽観的な人の脳内は、感情を司る眼窩前頭皮質と呼ばれる部分が大きいと言われています。逆にトラウマになるような出来事を経験し、楽観的に物事を見られなくなると眼窩前頭皮質が小さくなって重量が減るといいます。

    また慢性的なストレスを感じることで、脳細胞が不安症状を引き起こす回路を 作り出してしまうとも言われています。さらに楽観主義でいるとストレスホルモンのコルチゾールが減少することも研究で示されています。

    実は、作り笑顔でも笑顔を浮かべると脳は自分が幸せであると騙されることが分かっています。つまり笑顔でいるだけで脳は憂鬱なことを考えるのをやめて、身の回りのポジティブな側面に目を向けるようになると言われています。直ぐにできる最も簡単な脳活が笑顔を浮かべることなのです。

    メンタルヘルスケアの鍼灸治療

    イギリスも日本と同じく鍼灸大国の一つで、その中で注目を集めているのが「うつ病」に対する鍼治療です。うつ病の方の3割は薬が合わずに止めたり、使用しても効果が認められないケースがあると言われています。そのような中、うつ病患者755人に対してカウンセリングと鍼灸治療の効果を比較した大規模研究がイギリスで行われました。その結果、カウンセリングと鍼灸治療は同等の効果があることが分かりました(ヨーク大学)。

    鍼でなぜ、うつ病の症状が改善するのかのメカニズムはまだ研究途上ですが、鍼によって脳にも変化が起き、鍼治療の前後で脳の血流量が変化し、特に前頭葉で大きく改善していることが分かっています。その結果、脳活動が活発になり、炎症物質を減らすことが脳の神経細胞の活動を活性化して、うつ病の症状が改善したのではないかと考えられています。

    セロトニンの分泌を促す「頭の鍼」

    頭の鍼は、その刺激により脳内へ働きかけ、セロトニンの分泌を増加させることができると考えられています。刺鍼後の脳の変化を調べた研究では、ラット脳内の脳報酬系の心地良さを感じる部分で変化が現れ、セロトニンが改善することで心を安定し、それが脳報酬系の神経経路に影響を及ぼすことが示唆されています。

    さらに研究では、鍼通電刺激(鍼に低周波の電気を流す治療法)はストレスによって変化した神経伝達物質を正常化させることで、ストレス緩和を図っている可能性があることが明らかになっています。結果として自律神経のバランスが整い、交感神経と副交感神経の働きがスムーズに行なわれ、体内時計が正常化し、スムーズな入眠につながります。

    心に効くツボ

    うつ病治療に使われるツボは、脳の活性化に繋がり、心をスッキリさせることが期待できます。

    合谷(ごうこく):手の親指と人差し指の間くらい

    心に効くツボ1

    百会(ひゃくえ):頭のてっぺんにあるツボ

    心に効くツボ2

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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