ヘッドスパやヘッドマッサージで頭のこりを揉み解してもらうと、頭だけでなく、身体や気持ちのリフレッシュを実感したことがある方も多いと思います。ただ、ヘッドスパ(マッサージ)の効果はそれほど長く続きません。 例えば肩のマッサージ後、しばらくは調子が良いですが、すぐに元に戻ってしまうと感じている方がほとんどでしょう。
一方で、症状の根本的な改善する鍼治療は、多くの人は肩や腰の痛みやこりを感じる場所に鍼を打つことをイメージします。ですが、極細の鍼を軽く頭に打つことで頭のこりをほぐし、精神系の疾患、免疫系の疾患などの様々な症状を改善することはあまり知られていません。
「頭の鍼」は、日本ではまだまだ認知されていませんが、アメリカやヨーロッパを中心に国際的に認められています。鍼の本場である中国では特に脳血管疾患の後遺症や精神疾患、脳神経疾患、高齢者の認知症予防や進行抑制、アルツハイマーなどによく用いられています。
頭の鍼の効果
その「頭の鍼」の基本的な概念は「身体の中で痛みやこり、異常を感じているのは脳にある」ということです。そのため頭部に存在する脳神経のポイント(ツボや特定のエリア)を刺激して、脳が感じている違和感を取り除くことが「頭の鍼」の効果です。
この脳が感じている違和感のひとつが「血流の流れ」の悪さです。血流の流れが悪くなると以下のような症状が起きると言われています。
頭皮の場合 | 自律神経の乱れ(頭痛、不眠、イライラなど)、ホルモンバランスの乱れ(更年期障害に似た、冷え、のぼせなど)、抜け毛や髪の毛の質の低下(頭頂部など血管が細い箇所に現れる)、眼精疲労(顔や目のくま、首などの血流の悪化と同時に起きる)など |
脳の場合 | 頭痛、脳梗塞、くも膜下出血、認知症など |
「頭の鍼」の効果として知られているものに、大脳皮質の血流が活発化し、毛細血管を広げる作用があることが確認されています。つまり、頭の血流の改善することによって、上記のような症状の改善を促すことが科学的に明らかにされています。
施術ではひととおり頭の鍼を打ち終えたら、約15分程度、頭の鍼を付けたままにします(究極のヘッドスパでは、この間にパルス(低周波電流)を流します)。これを「置鍼」言い、頭の鍼で「良い状態」を脳がきちんと認識し、定着できるようにしばらくそのままにする必要があるからです。そうすることで、エンドルフィンやドーパミンなどの脳内物質の分泌が促されて、さらに「良い状態」を保つように、身体の治癒力が引き出されます。
頭の鍼は「究極のヘッドスパ」
ストレス解消、自律神経調整、疼痛緩和などで、頭部のツボや特定の領域を中心に鍼施術を行うことを特に「頭皮鍼(とうひばり)」あるいは「頭鍼(とうしん)」と呼ぶことがあります。
頭の鍼のメリットは、以下が挙げられます。
- 無駄な残痛感が生じにくい
- 他の部位では得られない独特のスッキリ感
- 着替えも必要なく気軽に施術を受けられる
あまり知られていませんが、人の頭には、前と横、後ろの部分に筋肉(前頭筋、後頭筋、側頭筋)があり、頭頂部は薄い膜(帽状腱膜)で覆われています。
健康的な頭皮はよく動きますが、血流が滞るとその周囲の筋肉がこり、頭皮はどんどん動かなくなり「こり」としてあらわれます。
頭の鍼にパルス(低周波電流)を流して、皮膚表面ではなく筋や帽状腱膜に直接刺激を与えることで、頭のこりを効果的にほぐし、短時間で大きなリラクゼーション効果が期待できます。また筋膜でつながっている首や肩のこりの改善にも効果的です。さらに、鍼とパルスで筋を緩めた後にハンドマッサージをすることで、リフレッシュ効果、こりの解消、症状の改善を促進させることができます。
鍼灸のアプローチとは
鍼灸は東洋医学の一分野で、体の特定のツボに鍼や灸を使って刺激を与えることで痛みや不調を軽減するアプローチです。鍼灸は西洋医学の薬や手術とは異なるメカニズムで有効性を発揮します。具体的には以下のような機序が考えられています。
下行性痛覚抑制機構
脳の中には痛みを感じる前に痛みの信号を抑える仕組みがあります。これは体を守るための反応です。この仕組みにはノルアドレナリンやセロトニンという神経伝達物質が関係しおり、鍼をするとこれらの物質が増えて痛みを伝える神経の働きを抑えます。これによって鍼による鎮痛作用が生まれます。
内因性痛覚抑制機構
脳の中には、オピオイドという自然の鎮痛物質があります。これはモルヒネなどの麻薬と同じように痛みを和らげる働きがあり、鍼をするとこのオピオイドが放出されて痛みを感じる部分に作用します。これによって鍼による鎮痛作用が生まれます。また鍼の刺激の強さや頻度によってオピオイドの種類や量が変わります。
脊髄後角に関与した分節性の機序について
脊髄は脳と体を繋げる神経の通り道ですが、脊髄の中には痛みを伝える神経と触覚や温度を伝える神経があります。鍼をすると触覚や温度の神経が刺激されて脊髄の中で痛みの神経を抑える働きをします。これによって鍼による鎮痛作用が生まれます。例えばこれは痛いところをさすったり冷やしたりすると痛みが和らぐのと同じ原理です。
軸索反射について
神経は電気信号を伝える細い線のようなものであり、神経の一部は刺激を受けると逆方向にも信号を送ります。これを軸索反射と言います。鍼をするとこの軸索反射が起こり血管を広げて血流を良くします。これによって筋肉の緊張や炎症を軽減し、痛みを和らげます。
慢性疼痛に及ぼす機序について
慢性疼痛とは、長期間に渡って続く痛みのことです。慢性疼痛になると痛みだけでなくストレスや不安うつなどの心の問題も起こります。これは痛みと心の状態が互に影響し合うからです。慢性疼痛になると脳や脊髄の痛みを抑える仕組みがうまく働かなくなり、また痛みの部分の血管や筋肉も異常になり、これらによって痛みが悪化する悪循環ができます。
鍼灸ではこの悪循環を断ち切ることを目指し、脳や脊髄の痛みを抑える仕組みを活性化し、脳の機能を正常化します。また鍼灸は血流を整え、筋肉の緊張や炎症を緩和し、さらに自律神経や内分泌、免疫などの体の調整機能を整えます。これらのことで慢性疼痛を和らげる働きが期待できます。
このように鍼灸は西洋医学とは異なる視点から人間の心と体のバランスを取ることで痛みや不調を軽減することができるため、鍼灸は全人的医療や統合医療の一環として注目されています。
症状が慢性化している場合の「好転反応」
「頭の鍼」は、大きな効果と即効性を発揮しますが、症状が慢性化している場合は、何度かの治療が必要になることもあります。
慢性化する前に治療した方が症状の改善スピードが早いですが、その他の要素として、常日頃からスポーツをされている方などは、筋肉量が多く血流も豊富な方が多いため、即効性・持続性ともに高い傾向があります。
ただし、日頃の生活習慣が乱れから、すぐに元通りになってしまうため、毎日の生活習慣を上手くコントロールして、健康な状態を維持することも大切です。
また、慢性化している方、頭のこりが酷い方は、頭の鍼によって身体の状態が改善される過程で、一時的に以下の反応があわわれる場合があります。
頭が重くなる | 頭への血流が急激に良くなることによって頭が重く感じることが起こる場合があります。 |
体がだるくなる | 滞っていた血液の流れが良くなり、細胞に栄養が行き渡りやすくなります。そのため栄養が行き渡った神経細胞が正常に働き出す際は、体がだるくなることがあります。 |
熱が出る | もともと低体温の方や、体内にウィルスがいる方に現れやすい好転反応です。施術によって自然治癒力が高まり、身体が毒素と戦おうとすることによって熱が出ると言われています。 |
筋肉がつる | 頭の筋のこりが正常に戻ろうとする過程で、張りや痛みが現れる場合があります。 |
これら東洋医学では、瞑眩(めんげん)反応とも言い、症状が良い方へ転ずる時に起こる一時的な身体の不調です。特に慢性的に疲労していた筋肉がほぐれることで大量の老廃物が血液やリンパ中に流れることが原因として考えられています。
なお、沈着して間もない毒素は早く排出され、体の深部にたまった古い毒素は後から出てきます。そのため、多くの毒素をため込んでいた方ほど好転反応が長く続きやすいと言えます。好転反応が出た場合には、毒素や老廃物をスムーズに排泄するために、常温の水を多く摂取しましょう!
【本コラムの監修】
・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。