
睡眠には大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があります。レムとは睡眠中に起こる眼球の運動のことで、レム睡眠中は体が休んでいても脳は活発に動いていて、起きている時に得た情報の整理や記憶の定着などを行っています。脳内の情報が整理されることで、ストレス解消効果もあります。夢を見るのはレム睡眠の時だけで、眠りが浅いため光や音などの刺激で目を覚ましやすい状態と言えます。
一方、ノンレム睡眠中は脳と体の両方が休んでいる状態です。ノンレム睡眠は眠りの深さによって4つのステージに分かれています。最も深い眠りのことを 「深睡眠」または「徐波睡眠」と呼びます。この最も深い眠りが睡眠の質を大きく左右しており、眠りについてから4時間以内に深睡眠が取れたかどうか重要です。
眠りに落ちてからレム睡眠とノンレム睡眠は4回から5回ほど繰り返されますが、最も深睡眠が現れやすいのが、眠り始めてから4時間以内に訪れる最初と2番目のノンレム睡眠の時です。この最初の4時間以内に深睡眠がしっかりと取れていれば睡眠の質は上がります。つまり睡眠の質は最初に訪れるノンレム睡眠の時にどれだけ深く眠れているか重要になります。
ただし、ストレスの解消効果があるのはレム睡眠であるため、深く眠れたとしても短時間の睡眠では足りないということになります。レム睡眠は、睡眠の後半になるほど増えていくため、 3時間から4時間の睡眠では十分なレム睡眠を確保することできません。つまり体や脳の疲労回復には、睡眠の最初に訪れるノンレム睡眠中の深睡眠が重要となる一方で、ストレスの処理は睡眠の後半に増えるレム睡眠が重要なります。やはり長期的に見れば7時間から8時間の睡眠時間を確保しましょう。
なぜ人は眠るのか
睡眠は脳や体がメンテナンスモードに入っている状態です。その中で注目されているのが「グリンパティックシステム」です。
脳はエネルギーの約25%を使う、代謝が高い組織であり、そのため老廃物(アミロイドベータやタウ蛋白質など)も沢山出していると考えられています。体中に張り巡らされたリンパは、老廃物を回収し除去する役割がありますが、しかし脳には他の組織と違い、老廃物を排出するためのリンパ機能を担う構造が存在しないとされてきました。
そのため血液がその役割を担っていたと考えられてきましたが、実は神経細胞(ニューロン)をサポートするグリア細胞が管状の構造をつくり、リンパのような役割を果たしているのではないかと考えられています。つまり脳であれば中枢神経系全体を満たしている脳脊髄液がリンパ流のような細胞外での流れを生むことで、脳内で生じた老廃物を効率的に脳外へと除去(脳の洗浄)していると考えられています。
このグリンパティックシステムによって、脳内の老廃物の排泄の働きが明らかになり、アルツハイマー病をはじめとする様々な脳疾患の発症に関わることが報告され注目が集まっています。
このメンテナンスモードは、ノンレム睡眠の時だけ働くということなので、ノンレム睡眠を取らなければ、この老廃物を取り除くシステムが動かないということになります。
睡眠が乱れる理由
深睡眠がうまく取れない理由として、体内時計が狂っていることが一つの大きな原因です。私たちの体には体内時計が備わっており、時間帯に合わせた本能的な行動欲求がある程度決まっています。この約24時間周期のリズムを学術的には「サーカディアンリズム」と言い、2017年にはノーベル生理学医学賞を受賞した研究分野です。
例えば、夜になると眠くなり、朝になると目が覚めるのは、このサーカディアンリズムに起因しています。自律神経の働きや体温の変化、ホルモンの分泌など私たちの体のありとあらゆる働きは体内時計に従っています。そしてこのリズムを毎日リセットしてくれるのが太陽の光です。
サーカディアンリズムの周期は24時間よりもやや長いため、太陽光でリセットしなければ毎日少しずつ就寝時間がズレていきます。特にパソコンやスマホから発せられるブルーライトが、脳の松果体という部位を刺激して、重要な睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を狂わせてしまうことが分かっています。結果的に体内時計が狂い、眠りたくても眠れない状態となってしまいます。
私たちの体は、朝に太陽光を浴びることで、睡眠ホルモンのメラトニンの分泌がストップして眠気が弱くなり、交換神経が活性化して体が目覚めるという仕組みになっています。特に脳は起きてから時間が経過するほど動きが鈍くなるという性質があり、朝のリセットが終わるとほどなくして一気に脳が活性化します。脳の活動のピークが来るのは起床から約4時間後となります。
脳のパフォーマンスが午前中にピークを迎えると、そこからはゆっくりとパフォーマンスが下がって、夜になると自然と眠くなります。このような体の仕組みにはホルモンが関係しています。日中は、自律神経の安定を促すセロトニンが多く分泌されています。このセロトニンは睡眠ホルモンのメラトニンの原料となり、夜になるとメラトニンに変換されて眠気を生み出します。このセロトニンの分泌は、体が太陽光を感じることで増加し、夜は減少します。逆にメラトニンは、太陽光を浴びると減少し、夜は増加します。このセロトニンとメラトニンの分泌サイクルが、太陽光を浴びることをスイッチとして、毎日繰り返します。
睡眠前のNG行動
水分の摂りすぎ
寝る前に一番やってはいけない行為が水分を取りすぎることです。その理由は、睡眠時に尿意で起こされないようにするためです。特に頻尿の自覚がある高齢の方は注意しましょう。また水分の中でも控えたいのがお酒です。アルコールには利尿作用があり、また睡眠中にアルコールが分解されることで交換神経が刺激され、体も脳もリラックスできない状態なります。お酒を飲む場合は就寝する3時間前まで、また就寝1時間前からは、お茶やコーヒーを摂取するのも控えましょう。
寝る前スマホ
自然な眠りを誘う作用を持つメラトニンは、夕方頃から分泌が始まり、暗ければ暗いほど分泌量が多くなります。逆に明るい光はメラトニンの分泌を抑制する働きがあります。特にブルーライトは脳を強く刺激して、メラトニンの分泌を抑制し、体内時計を狂わせてしまいます。例えば中国の研究チームの調査によると、寝る前のスマホの利用を制限するだけで平均12分早く眠ることができ、睡眠時間が18分長くなることが分かっています。
また、光の色と睡眠にも関係があります。一般的にリラックスできる色は、温度の低い暖色系の色で、特に温かみのあるオレンジ色なら心地いい眠りに導いてくれます。
就寝前の歯磨き
就寝前の歯磨きは質の良い睡眠を妨げることが分かっています。歯茎が刺激されるとメラトニンの分泌量が減ると言われており、睡眠ホルモンのメラトニンが抑制されることで睡眠モードが解除されていまいます。理想の歯磨きのタイミングは就寝1時間前くらいです。逆に朝食後に歯磨きすることで目覚めが良くなることになります。
入浴は就寝の1時間半前
眠気は体の深部体温が低下することで訪れます。深部体温の変化には特徴があり、深部体温が下がる直前に一旦上げると、その分温度が深く下がることが分かっています。つまり睡眠前に一時的に体温を上げることで、その分体温が下がり、通常よりも強い眠気が訪れて深く眠ることが可能となります。言い換えれば就寝時刻に合わせて深部体温を意図的に下げるように調整すれば、眠りやすくなると言えます。そこで就寝時刻から逆算して1時間半前か2時間前に入浴をすることが大切です。
また、熱々のお湯に短時間つかるよりも、ぬるめのお湯にゆっくりと浸かる方が効果があり、熱いお湯に短時間浸かるだけでは、体の表面温度が熱くなるだけで体の深部まで温まりません。リラックスしながらゆっくりとお湯に浸かることで体の深部まで温めることができます。
14時以降のコーヒー
適切な量のコーヒーを飲むことは、コーヒーがもたらしてくれる様々なメリットを享受することができます。しかしどんなに体にいいものであったとしても摂りすぎてしまうとデメリットになります。
具体的にコーヒーは何杯まで飲んでも良いのかは、個人差がありますがハーバード大学医学大学院教授のサンジブ・チョプラ氏は、健康的な成人にとって4杯は安全だろうとしています。またアメリカ医師会では2、3杯が標準であるとしています。さらに心臓の健康に関する35万人以上の参加者のデータを調べた大規模な研究では1日4杯までは効果があるだろうとしています。
しかしながら、コーヒーに含まれるカフェイン作用は遺伝の影響が大きく、生まれつき悪影響が出る人もいます。またカフェインの利尿作用が働くと水分が体外に排出されてしまうため、コーヒーを飲むと体内の水分レベルが低下し、腎臓に負担をかけることがあるとされています。例えば腎不全などで腎機能が低下している人は、コーヒーなどに含まれるカリウムをうまく排泄することが できないためコーヒーが腎臓に悪影響を与えてしまうと言われています。
一方で、カフェインを摂取すると覚醒し、頭が冴えわたって集中できるのは、疲れを感じさせる脳内化学物質アデノシンの働きをカフェインがブロックするからです。同時にアドレナリンが分泌されます。
この2つの働きによって、冴えるのですが、カフェインを摂取しすぎてしまうと増強され過ぎて不安やストレスに繋がる可能性があります。実際にカフェイン誘発性不安障害があり、カフェイン関連症候群の一つとされています。またカフェインの摂取量が増えるとストレスレベルが増加することが示されています。その研究では25人の健康な男性を対象とし、約300mgのカフェインを摂取した人は、プラセボ摂取した人の2倍以上のストレスを経験したことが分かっています。
また、カフェインの副作用として不眠症などの睡眠への悪影響があります。例えばアメリカ睡眠医学界によると、カフェインの半減期は約5時間だとされています。つまり午後7時に食100mg のカフェインを含むコーヒーを1杯飲んだ場合、5時間後にも体内に50mgのカフェインが残ってしまうということです。また研究でも、就寝前6 時間以内にコーヒーを飲むと睡眠時間が1 時間短縮されることが分かっています。一方で体内にカフェインが残ってしまうと体の回復と記憶の強化に非常に重要な徐波睡眠とレム睡眠の量を減らしてしまう可能性が指摘されています
そして睡眠不足が体重増加、肥満率の上昇、二型糖尿病、心臓病などに関連しているということが知られており、さらに死亡率が上がってしまうということも分かっています。自治医科大学によって行われた日本の睡眠時間と死亡率を調べたコホート研究では、睡眠時間が1日6時間以下の男性は7から8時間の人と比べて死亡率が2.4倍高いということが明らかになっています。睡眠不足で死亡率が上がるのは免疫力の低下が挙げられています。さらに約5.7万人の女性を対象にした調査によると、睡眠時間が5時間以下の人 は8時間前後の人たちに比べて1.39倍肺炎になるリスクが高かったということが判明しています。
ラベンダーで深い睡眠
質の良い睡眠を確保するためには、副交感神経が優位な状態となって、心と体をリラックスさせる必要があります。ラベンダーの香りは、催眠効果から不眠症の治療にも使われており、その効能は世界各国で研究が進められています。日本でも大学生を対象とした脳波実験において、ラベンダーの香りをつけた布団で眠ると通常に比べて深い睡眠時間が長くなるという結果が出ています。
ぐっすり眠れる頭の鍼
鍼の刺激によって、日中に活性化した交感神経の働きを抑制し、副交感神経の働きを亢進して、脳や体をリラックスした状態に導くことができます。特に睡眠の質が低下している場合、鍼灸治療によって交感神経を抑え、副交感神経機能を活性化して自律神経のバランスを整えて、睡眠問題を改善することが期待できます。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。