東洋医学で診る、病は気から

    東洋医学で診る、病は気から

    東洋医学では「気・血・水」のバランスが崩れると体に不調をきたすと考えます。この「気・血・水」の3つは、人の体の構成要素と考えられています。

    「気」は、人体の生命活動のエネルギー源です。「血」は、西洋医学における血液の血とは、少しイメージが異なり、全身に栄養を供給し潤すことと、精神活動の基礎物質という二つの働きがあります。「水」は、津液とも呼ばれ、体内の水分です。

    東洋医学でいう「気」は、「元気」や「気が晴れる」などの言葉があるように、体や精神を健康に保つのに必要なエネルギーを指します。この「気」がスムーズに循環することが出来ない状態を「気滞」と言います。

    気の流れが滞ると情緒が不安定になり、主に自律神経系の緊張やコントロールができず、イライラや怒りの感情が抑えられなくなったり落込みやすくなります。また女性の場合、生理痛や生理前の体調不良が出ることがあります。さらにお腹にガスが溜まる、便通に異常なのど胃腸の不具合も気滞に陥ったとき現れやすい症状です。「気」の巡りが悪いため片頭痛があったりもします。

    気滞は「血」「水」の流れを邪魔したり、他の臓器・組織の機能の低下を起こすため、他にも様々な問題を合わせ持ちます。そのため「気滞」を自覚することは難しく、実際に不快に感じるのは「気滞」から生じた他の症状です。だから見える症状だけを改善するのではなく、根本にある「気滞」を改善しなければ、また元に戻ってしまうのです。

    このように見える症状とその症状をつくりだす本質があり、その見える症状を「標」といい、本質を「本」といいます。中医学には、治病求本という言葉があり、必ず病気の本質となるものを探らなければならないとされています。

    西洋医学と東洋医学

    西洋医学は対処療法の医療であり、根本から不調を治すことが難しい部分があります。西洋医学の基本スタンスは、目に見えるもの、数字で証明できるものがすべてであり、原因が分からない病気や原因がわかっても対処法が確立されていない病気を治療することはできません。一方で東洋医学は、年齢や性別、体型や体質などをトータルで診てベストの対処法を探っていくことを念頭に置いています。つまり東洋医学では病名のつかない病気でも対処することができ、その症状の改善を図ることが可能です。

    東洋医学には「未病」という考え方があり、病名を特定できる病気の発病に至っていないものの、その一歩手前で体の調子が悪くなっている状態を指す言葉です。見た目からは分からなくても、本人が調子が悪いと感じているのであれば、どこかに不調を来す原因があるはずです。そのため患者様からしっかり話を聞き、適切な治療するのが東洋医学の基本スタンスです。医療の生命線は問診であり、だからこそ問診にこそ時間をかけるべきです。

    例えば、西洋医学では、心の病は一般的に精神科や心療内科の専門領域です。血液検査、CTやMRI検査によって体に異常がない、つまり他の病気でないことが確認できた上で倦怠感、不安感、疲労感、情緒不安定、不眠といった不調を訴える人をうつ病と診断します。実は心の病は、精神的な症状だけでなく、頭痛、めまい、肩こり、便秘、下痢、食欲不振などの体不調が表れます。そのため西洋医学では、肉体面でのうつ病の症状が出ている患者さんを心の病であると診断しません。

    一方で東洋医学では、うつ病は心の病ではなく、脳の神経系の細胞が障害を受けることによってもたらされる神経細胞のシステムダウンと考えます。簡単に言えば、脳が栄養不足になっている状態であると考えます。衰弱した脳細胞に栄養を運んで元気にさせることで神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンの生成が促されて体を正常な状態に戻していきます。

    他にも東洋医学では、不眠の原因を五臓六腑の異常にあると考えます。異常のある場所は人によってそれぞれのため、どこに異常があるのかを突き止めてから治療をスタートさせるのが基本です。不眠と言っても、寝付けない、途中で目が覚めるなど、それぞれで五臓六腑の病態も異なります。しかしその原因さえ突き止めることができれば、その原因に対応する治療を行うことで改善を期待することができます。

    いずれにしても、病気や不調を完治する方法があるのなら、どんなことでも取り入れて自分にあった治療であるかを考えることが大切です。また世の中に存在するすべての医学の知識や技術を総動員してベストの医療の実現を目指すのが医者や治療家に課された使命であると思います。

    「気」が乱れることで起こる体の不調

    「気」が乱れた状態には、「気虚(ききょ)」「気滞(きたい)」「気逆(きぎゃく)」の3つがあります。これらから抜け出すために気の巡りを改善するツボもご紹介します。

    気虚(ききょ)

    誰もが疲労した時、大抵は一晩眠れば、スッキリと翌朝には疲れが取れています。それは「気」が回復しているということです。しかし体が弱っていたり、思い悩みで眠りが浅くなれば「気」は回復せず、慢性的な疲労感につながります。その状態が「気虚(ききょ)」です。この状態では、体の抵抗力が弱まり、免疫が下がり、病気に罹りやすく、また疲労感や倦怠感を覚えやすく、息切れなどの症状が出ることがあります。

    「気虚」は全身を巡る生命活動エネルギーである「気」が不足している状態です。つまり体を動かす燃料が少ないので、少し動くとすぐに疲れてしまいます。

    その他にも以下のような症状があります。

    • 疲れやすい
    • 手足が冷えやすい
    • 息切れしやすい
    • 食後に眠くなる
    • 風邪を引きやすい
    • むくみやすい
    • 胃もたれしやすい

    「気虚」の原因

    不摂生な食生活や過度なダイエットなどが原因で気を作るのに必要な栄養が不足すると、体を動かすために十分な量の気を生産することができません。

    また、大量のエネルギーを一度に消費する激しい運動や長時間の労働の後には、一時的に気が不足した状態になります。その回復を待たずに、疲労や過労の状態が長く続くと、慢性的に気が不足した状態になってしまうのです。

    一方で「気」は、食べたり飲んだりしたものを胃腸が消化・吸収し、そこからつくり出されます。そのため、胃腸がもともと弱かったり、機能が低下したりしていると、どうしても気が不足しやすくなります。

    東洋医学で診る「気虚」

    私たちは突然心に浮かぶ不快な考えに悩まされることがあります。これらの考えは特定の引き金がなくとも現れ、日常生活に支障をきたすことがあります。不快な考えに巻き込まれると気分が沈んだり、これがうつ状態や他の不調を引き起こす可能性があります。

    東洋医学では気虚証という不調が関係する場合があると考えます。気虚とは気圧の流れが弱く、心をうまく栄養できない状態です。すると動悸、息切れ、不安感、手のひらに汗が出る、倦怠感が続くなどの不調が出やすくなると言われています。気虚の場合、気海(きかい)、照会(しょうかい)というツボに押しがおすすめです。

    それでも過去の後悔や失敗、嫌な出来事などの考えに巻き込まれると過去の嫌な感じを思い出し、ストレスが溜まり精神的な不調を感じることがあります。しかしこれらの考えは過去のものであり、現在や未来に対して前向きな解決策を提供するものではありません。もし不快な考えが頭に浮かんでも、それを脳の誤作動として受け流すことをお勧めします。

    不快な考えは、脳の誤作動として捉え、発生した際にはこれはただの誤作動だと自分に言い聞かせるようにしてみてください。誤作動と認識できれば、それを受け流すことができるかもしれません。

    また東洋医学の「気虚」にはいくつかのタイプがあるため、当院では問診により最適な治療を判断します。

    • やる気がない→脾虚
    • やる気が続かない→腎虚
    • やるかどうか決められない→心血虚
    • やるにはやるがすぐ疲れる→肺虚
    • やる気がないが、やりだしたらできる→肝虚

    気をつくる食事

    「気」が不足しているため、朝食を抜くと、夕方までスタミナが持たなくなってしまいます。朝食は一日の活動源と考えて、しっかりと食べましょう。ただし、食べすぎは逆効果です。

    うるち米:気を補い、消化器官を助ける。イライラ解消にも効果的。
    山芋:気だけでなく、身体の体液も補うことができる優れた食材。滋養強壮作用も強い。
    鶏肉:消化器官を温めて気を補う。疲労や体力回復にも効果

    気虚の方は消化器官が弱っている方が多いため、火を通して消化しやすい状態にすること。また、体を冷やすもの、生もの、脂っこいもの、甘いものは控えめに。

    気をつくるツボ

    気海(きかい):へそから指2本分下にあるツボ。

    気を生み出す働きがあり、呼吸器系にも消化器系にも作用します。

    気海(きかい)

    足三里(あしさんり):ひざのお皿の下から指4本分下

    効果:元気を生み出すツボとして有名。胃腸の調子を整える作用もあります。気の流れを促し、病気の予防・足の疲れや浮腫・胃腸症状・膝の痛みなどにも使われるツボです。

    足三里(あしさんり)

    気滞(きたい)

    文字通り、気がうまく循環できず、停滞してしまう状態です。現代人にとっては、ストレスやプレッシャーといった精神的な要因が「気滞」の大きな原因になっています。些細なことでイライラしたり、なんとなく気分が落ち込んだり、不安に陥ったりします。またやる気が減退し、ため息が多いのも特徴のひとつです。この状態では、ストレスをさらに感じやすく、その結果、自律神経が乱れ、のぼせや動悸(どうき)、頭痛、めまい、冷え性など、上半身に不快な症状や、便秘と下痢を繰り返すこともあります。

    気滞の原因は、気の流れを司る内臓である「肝」の不調です。肝は気の流れをコントロールする内臓です。感情をのびやかに保ったり、消化器官の働きを助けたりなどの役割を担います。しかしストレスに対して非常に弱く、精神的なダメージや疲れによって機能が正常に働かなくなってしまいます。

    「気滞」は、訴える症状が様々ですが、訴える症状が一定しないことを不定愁訴(ふていしゅうそ)と呼びます。不定愁訴は自律神経失調症の特徴です。肝の養生にはとにかく疲労やストレスなどを溜めないことが大切です。しっかりと休息をとって、自分にあったストレス解消法を見つけましょう。

    「気」と「肝」

    気滞のうち、特に精神的に関連するものを「肝気鬱結」といいます。これは西洋医学的に言うとストレス状態や自律神経失調症に近い概念です。憂鬱感・怒りやすい・胸脇部の張った痛み、女性では、月経痛・月経周期が一定しない・乳房が張るなどの症状がみられます。

    これが長く続くと、頭痛・のぼせ・いらいら・怒りっぽい・顔面紅潮・目やに・口渇・口苦い・胸やけ・難聴・不眠などの熱証が生じますが、これを「肝火上炎・心火上炎」と呼び、この過程を「肝欝化火」といいます。

    気を巡らす食材

    食習慣の見直しは「気滞」を改善するのに効果的です。気の巡りを調節すや気を作り出す胃腸を整える食べ物を一緒に食べましょう。

    肝の機能をケアする食べ物

    セロリ、トマト、ピーマン、パプリカ、あさり、しじみ、牡蠣

    胃腸の機能のケアする食べ物

    味噌、おくら、大根、かぶ、サンザシ、キャベツ

    不安になる・落ち込む

    わけもわからずに不安に陥る、急に憂鬱になり落ち込む、といった症状が出たときは、体と心が強い緊張状態にあります。このような状態は、東洋医学的には「気が不足している」または「気が滞っている」と考えます。

    「気が不足している」または「気が滞っている」ことを「気虚」「気滞」といい、まずあらわれる症状は疲労倦怠感です。「病は気から」という言葉があるように、「気虚」「気滞」を放っておくのは万病のもとになります。また不安やイライラを抱えていると、胸が苦しくなったり、喉がつかえたような違和感を感じることがあります。

    これを「気の上衝」と呼び、下がるべき「気」が上がってしまっている状態になるため、これが続くと動悸やのぼせといった症状になることもあります。胸が苦しいのは、まさに『胸』=『肺』を痛めることであり、肺は「気」を主り、呼吸を司るといわれています。まずは心身の緊張を解きほぐし、自律神経を整えましょう。

    生活の中でできること

    ・背伸びをして、深呼吸
    両手を頭の上に上げ、大きく伸びをして、身体をほぐします。深呼吸も一緒にしてください。

    ・首元を温める
    後頭部から首元にかけて、温かいタオルなどで温めます。

    不安・落ち込みに効果的なツボ

    神門(しんもん):手のひらを上にし、手首と小指側にある骨のでっぱりの間にあるくぼみ。

    効果:不安を軽減します。

    内関(ないかん):手のひらを上にして手首のシワから指3本分上。

    効果:心を安定させます。

    だん中:左右の乳頭を結んだ線の真ん中

    効果:呼吸の乱れや精神面を安定させることができます。

    だん中

    気滞(肝気鬱結)におすすめのツボ

    「気滞」を解消するには、基本的に気分を発散させることが大切です。気は〝身体を動かす生命エネルギー〟です。車で言うならばエンジン。気が滞りなく流れることで身体も心もお肌も健康でイキイキと過ごすことができます。

    そこで以下のツボ押しがおすすめです。

    太衝(たいしょう):足の親指と人差し指の骨が合わさったところの少し手前のところ

    合谷(ごうこく):手の甲、人差し指の骨のキワ

    気滞(肝気鬱結)

    効果:気の停滞を改善し、気を巡らす臓腑「肝」の調子を整えるのに効果的なツボです。イライラや頭痛、めまい、目の疲れにもおすすめです。

    気逆(きぎゃく

    気逆(きぎゃく)は、頭から手足の先、上半身から下半身に向けて下降する気の循環が上昇してしまう、つまり「気」が逆流している状態です。エネルギーが上半身に向かうため、突発性頭痛やめまいや動悸、冷や汗などの症状、また激しい咳や、呼吸の乱れ、吐気や嘔吐、ゲップが出るなどの症状が起こる方がいます。気滞(きたい)と同じく、手足の冷えを感じると同時に顔は火照るという、更年期障害とよく似た症状の場合が多いです。

    血海(けっかい):膝のお皿の内上角(内側上の角)から指3本上

    効果:上に上った気を下ろすためのツボで、自律神経が整って気逆による息苦しさや不安感、抑うつや肩こり、めまいなどの症状が緩和されます。

    血海(けっかい)

    このように「気」は、単に「気合い」や「気持ち」ではなく、生命の基となるエネルギー源です。東洋医学では、「気」が正しく巡っている状態を「正気」(せいき)」と言い、健康な状態とします。身体を巡る「気」が乱れると、「気虚」「気滞」「気逆」に陥ります。心身の不調の大部分はストレスからくる気の異常と考えられているので、ツボを刺激することで気の流れを改善しましょう。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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