正常な老化と病的な老化のスイッチ

    正常な老化と病的な老化のスイッチ

    生還習慣の乱れなどで老ける、実年齢よりも老けて見られる、そんな悩みを持つ人が多くいます。しかし病的な老化は病気なので治せます。親から譲り受ける遺伝子の影響は3割と言われています。そのため殆どの場合は、生活習慣によって老化の速度は決まっています。

    私たちの遺伝子にはオンとオフがあり、その働きは加齢と共に変化します。若年齢でオンになる遺伝子もあれば、加齢によってオンになる遺伝子もあります。そのため老化の遺伝子にオンが入れば、急速に老化が進みます。つまりアンチエイジングのためには若年齢でオンになる遺伝子をいかに保つかが重要になります。

    例えば若い頃は、肌を若々しく保つ成分であるコラーゲンが、合成酵素により沢山作られます。しかし歳を取るとコラーゲンを分解する酵素の方が発現しやすくなります。痛みや痒みについても同様で、加齢によって痛みを感じるシステムに関係するスイッチが働き出し、炎症に関係する遺伝子が増えます。また肌の水分量が減ることで、痒みなどの炎症が起きます。さらにストレス応答に関わる遺伝子の発現が変わってくることで若い頃よりもストレスに弱くなります。

    しかし、生活習慣を正しくすることで、一旦オンになってしまった老化スイッチを元に戻すことが可能です。

    老化しない人の特徴

    実は老化しない人には共通の特徴があることが判明しています。因みに加齢と老化はよく混同されますが、加齢は年を重ねることを意味するのに対して、老化は生態機能が低下していくことです。

    この老化スピードには大きな個人差があり、ニュージーランドで行われた老化研究では、26歳から38歳までの約950人を対象に12年間、生物学的年齢調査をしたところ、実年齢が同じ38歳でも生物学的年齢は実際より若い28歳から老化が進んだ61歳まで、実に33歳もの差がありました。生物学的年齢が高い人は体の中が老化し、見た目も老け、身体機能も低下していました。

    また、慶応大学医学部がイギリスのニューキャッスル大学との共同研究チームで2016年に行った研究によると、日本に住む85歳から110歳の高齢者を対象に、長寿の人たちは他の人たちに比べてなぜ長生きできるのかを調べました。その結果、老化しない人に共通する特徴は体の中の炎症レベルが低いことが分かっています。これを受けて研究に携わった研究たちは、体内の炎症レベルを見れば老化のスピードが予測ができると考えています。

    つまり、慢性的な炎症を抑えることこそが、老化の進行スピードを遅らせ、若々しく健康に長生きするためには最も重要なことが分かっています。

    体内の炎症レベルを下げる方法

    炎症には大きく二つあって、比較的早く収まる急性炎症と、長引いてしまう慢性炎症があります。老化の原因になる炎症は慢性炎症で、慢性炎症によって組織障害が長期になり、ホルモンバランスの乱れ、免疫機能の低下など老化に加え様々な前進疾患とも深い関わりがあります。

    体内の炎症レベルを下げる方法の一つ目は、精神的ストレスの解放することです。人間の脳は物理的なストレスと精神的なストレスを区別することができません。現代のような人間関係などが複雑なストレス社会では、毎日炎症が起きる環境になっており、精神的ストレスを溜め込み続けると、少しずつ全身性の軽度の炎症が引き起こされ、その結果老化が進行してしまいます。また慢性的な炎症によって免疫力も低下し、体が病気に対して脆弱になります。2017年の研究では、がんや心臓病、糖尿病、うつ病などの 様々な病気の発症にストレス誘発性の炎症が関係していることが分かっています。

    2つ目は睡眠です。多くの人は7時間より少ないと思いますが、睡眠不足が体内の炎症レベルを上昇させることが研究で分かっています。また2008年の研究では、一晩でも睡眠が失われると体全体の炎症を刺激する強力な信号として機能する物質のレベルが大幅に上昇することが明らかになっています。

    3つ目の炎症を抑える重要な行動に、糖化ストレスをなくすことも大事です。糖化ストレスは、糖質を摂り過ぎることで体の中が焦げ付いてしまう状態のことです。例えば糖質を食べると体内の糖とタンパク質に熱が加わることで、それらが結びつき、糖化タンパク質というものが発生します。この糖化したタンパク質は最終的にAGEsと呼ばれる老化を早める物質へと変化します。またAGEs自体が炎症を引き起こすことも分かっています。

    幸福だからこそ若くなる

    幸福な人ほど長生きをする、アンチエイチング科学の世界には昔からこんな格言があります。実際、楽観的な人ほど寿命が長いことはいくつもの調査で認められた事実で、ハーバード大学が約7万人の健康データを分析した研究では、客観的な人は悲観的な人より、生存率が29%高く、がんの発症リスクは16%低く、52%も感染症にかかりにくい傾向がありました。

    またハーバード大学が71,720人を調べた類似の研究でも、楽観的な人は悲観的な人 より50%から70%長生きだと報告されており、楽観思考のメリットはほぼ間違いありません。

    幸福な人ほど若々しい理由は、はっきりしないものの研究者の多くは次の3つのポイントを重視しています。

    1. 幸福度が高いと活動的になり無意識のうちに運動量が上がる
    2. 楽観的な人は不幸が起きてもすぐに復帰できる
    3. 楽観性によりストレスが減り、免疫システムが改善される

    楽観思考がライフスタイルを自然に整え、さらには日々のストレスも癒してくれるおかげで生物学的な機能にまで良い影響があるのです。若いから幸福になるのではない、幸福だからこそ若くなる、これがアンチエイジングにおける科学の結論です。

    東洋医学で診る「アンチエイジング」

    東洋医学では、「老化」を2つの大きな流れで捉えます。1つは「陽から陰」への流れ、もう1つは「実から虚」への流れです。古代中国の陰陽論では、様々な事柄を「陰」と「陽」に分けて捉えてきました。これは東洋医学にも用いられて、例えば代謝が活発で、体が熱を持つ状態を「陽」、代謝が低下し、体が冷える状態を「陰」とします。

    一方で「実」は、積極的、体格が良い、疲れにくい、胃腸が強いなど状態のことで、「虚」は、消極的、華奢な体格、疲れやすい、胃腸が弱いなど状態のことです。そして加齢に伴い誰でも「陽から陰」、「実から虚」に向かっていくと考えられています。

    この2つの大きな流れがある中で、私たちに何ができるかを東洋医学的な視点で考えてみましょう。

    東洋医学の老化スイッチ

    「気」の不足

    2つの大きな流れの中で、東洋医学でいう「気」の不足で様々な老化が起こるとされています。この「気」には、生まれた時に両親から受け継ぐ「先天の気」と、日々の活動を維持するための飲食を通じて獲得していく「後天の気」によって老化、寿命などが決まります。

    生まれた時点で気の総量(先天の気)が決まっており、加齢と共に自然に減少します。また生活習慣の乱れやストレスによっても減っていきます。

    これらの「気」を貯蔵している場所が『腎(腎臓)』です。成長や若さなどに関わる「腎(じん)」の機能が低下すると老化が早まると考えられています。また生命活動を営むエネルギー源である「気」が不足した状態を「腎虚」といい、免疫力が低下する他、老化に伴う様々な不調を招くと考えてられています。

    美容では、目の下のシワ・たるみ・くすみ(STK)やクマ、乾燥、大人のニキビなどの肌の不調、生理不順などの症状が現れます。この腎が弱る主な原因は不健全な生活習慣です。『腎』は、身体の様々な機能に密接に関わっており、「腎虚」になると様々な衰えの症状が現れるようになります。

    このような場合は『腎』を補うため、経絡や経穴を使って鍼灸治療を行います。代表例としては腰部にある「腎兪(じんゆ)」、足にある「三陰交(さんいんこう)」、手関節にある「陽池(ようち)」などがあります。

    「血」の不足

    一方で「全身をめぐり臓器の栄養源となる」のが「血」です。「血」は全身を流れていて、『肝』に貯められているものです。この「血」不足した状態を「血虚(けっきょ)」、血が上手く流れなくなり、渋滞している状態を「血瘀(けつお)」といい、内臓機能の低下や精神的活力の低下などが生じて老化につながるとされています。

    不足している「気」と同じく、「血」を補わなくてはならないので「腎」の時と同じような鍼灸治療を行います。

    いずれにせよ、加齢によって血液の状態が悪くなるのではなく、血液の状態が悪いのは日々の生活習慣が良くないからです。老化しやすい人は血液の状態が悪く肌に老廃物が溜まりやすくなっているために“たるみ”や“くすみ”を起こしやすくなります。

    年を重ねても健康で美しくいるためには血流を良好に保ち、老廃物を排泄しやすい状態にして腎臓や肝臓を良好に保つことこそが若々しく生きる秘訣です。

    胃腸の不調で老化する

    『腎』『肝』の機能低下が老化につながりますが、特に胃腸の働きが悪くなると老化を早めると考えられています。なぜなら胃腸にかかわる『脾(ひ)』が『腎』に悪影響を与えるからです。また『肝』の乱れからも『脾』の不調を招くことが多く、胃腸の健康を保つことがアンチエイジングにつながります。

    『腎』『肝』の機能低下が老化

    また、「気」の不足にも胃腸は関与し、胃腸の不調で「気」が少なくなると、様々な不調の原因になります。特にストレスで胃腸の働きが低下している方は、胃腸の働きを高めるだけでなく、「気」の巡り自体を改善させることも必要です。

    胃腸を労るために、食べる量は腹八分目として、負担をかけない食生活を心がけましょう。また、腸に負担をかけないように、就寝3時間前には食事は済ませましょう。

    腸の汚れが老化を加速

    食べ過ぎは腸に負担を掛け、老化の原因になります。なぜなら排泄という神経伝達の仕組みは、脳と腸によって制御されており、この神経伝達を鈍らせてしまうのが食べ過ぎです。

    食べ過ぎによって、大腸が絶えず働き続けると、必要以上に水分の吸収が行われて、便の動きが遅くなります。そのため大腸内に留まる時間が長くなります。また胃腸の働きが低下して消化不良が起こり、未消化のまま食べ物が大腸に送られてしまいます。このように食べ過ぎによって、胃と腸は疲れ果て、しょうかされていないものがどんどん大腸内に止まります。

    そうなると大腸内で、悪玉菌が増殖して、活性酸素や毒素を過剰に発生させることになり腸の汚れを招いてしまいます。その汚れが老化を加速させてしまうのです。

    これらの理由により、一定期間ファスティングをして腸を綺麗にしてあげることで、脳との神経伝達が正常に働くようになり、自律神経が整い、腸の蠕動運動が適切に働き、汚れを外に出すという排泄機能がスムーズになります。また代謝が活発になり腸内細胞の入れ替わりも促されて腸の大掃除を手助けしてくれます。定期的にファスティングをすることで効率よく腸のお掃除ができ、老化や病気を防ぐ効果が最近の研究によって分かっています。

    ファスティングで飢餓状態になると、オートファジーという細胞内のタンパク質や細胞内小器官を分解し、その成分を再利用するというシステムが働き、老化や病気の予防につながることも分かってきています。

    「加齢」と「老化」の違い

    現代医学によって「老化する」の真の原因が解明されてきています。その老化の原因のひとつが、人の体の細胞が分裂する際にミスコピーが生まれることです。わたしたちの体をつくっている細胞は、常に分裂を繰り返し、新しい細胞をつくりだすことで「若さ」を保っています。しかしこのミスコピーが増えることによって体が「老化する」のです(体細胞変異説)。

    このようなメカニズムがあることが分かれば、「老化する」を治すことができます。バーバード大学医学大学院遺伝子学のデビット教授によれば、「100歳になっても現在の50歳なみの活動レベルが保てる時代が来る」と断言しています。

    具体的には、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、レスベラトール(赤ワインに含む抗酸化物質)、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクオレチド)、メトホルミン(糖尿病の治療薬)などが、老化に作用し、人間の寿命を延ばす働きかけがあることが明らかになっています。

    これらはまだ別の病気の治療に使われており、実際の老化の治療に使われているわけでありません。しかしながら将来的には、具体的な老化の治療薬として処方されると思います。このように「老化する」ことが治すことができるようになれば、「歳の取り方」、つまり「生き方」がより重要になってくるでしょう。

    老化を抑えるテメロア

    私たちの体の中で繰り返される細胞分裂の過程でミスコピーが生まれることや細胞の劣化(細胞老化説)で老化が進行します。一方で細胞分裂する際にミスコピーを防いでくれるテメロアという組織があります。しかしストレス、睡眠不足、暴飲暴食などを繰り返すとこのテメロアという組織が良好に保てなくなることも明らかになっています(DNAテロメア説や酸化ストレス説)。

    すなわち、細胞レベルで老化を抑えることができれば、病気の進行を抑えことにつながり、健康で長生きすることができます。特に睡眠をしっかりとることが老化から認知症まで、多くの病気を防ぐことが、近年の研究で多くのエビデンスが出ています。

    例えば、老化を防ぐ要素のひとつである成長ホルモンは寝ている間に分泌されます。つまり「寝る」ということが、最も日常的にできるアンチエイジングです。そのためにも、日中に身体をよく動かすこと(よく歩くこと)、急激に血糖値をあげる食事をしないこと、しっかりとした鼻呼吸をすることなど、日常生活の中で少し心がけるだけでもアンチエイジングにつながります。

    アンチエイジングフード

    体内の炎症を食い止めるには、食物繊維が豊富な食べ物、抗炎症作用のある食べ物がおすすめです。いくつかの研究で食物繊維と炎症の間には関連性が認められていて、食物繊維が豊富な食事をしている人は、血中のC反応性タンパク質レベルが低いということが判明しています。C反応性タンパク質レベルは、炎症疾患の発見のための指標とされています。

    体内の炎症を抑える食物繊維には、ナッツ、野菜、果物、キノコ類、海藻類などがあります。抗炎症作用がある食べ物はチェリー類です。

    例えば、アメリカンチェリーに含まれる成分のアミグダリンやケルセチンに炎症を抑える効果が期待できます。中でもタルトチェリーには、アントシアニンを豊富に含むと言われるブルーベリーには含まれていない種類のアントシアニンを含んでいるとして、アメリカでは抗炎症作用のある食べ物として人気です。

    また、世界で注目されているスーパーフードモリンガの種子に含まれるβ-シトステロールが、細菌などによる炎症を抑えるだけでなく。免疫系細胞の反応を抑制すると注目されています。

    身近な食材では、ブロッコリーとトマトです。ブロッコリーに含まれるフラボノイドには、抗炎症作用が認められているのに加えて、βカロテン、ビタミンCにも抗炎症作用があるため炎症を鎮める効果が高い食材です。そしてトマトにも高い抗炎症作用がいくつもの研究で発表されており、トマトに含まれるリコピンは抗炎症作用に加え、抗酸化作用もあります。つまりシミやシワを防ぐ効果があり、美肌にも効果的な食材です。

    そして最後に炎症を食い止めるおすすめは、エクストラバージンオリーブオイルです。海外の研究でオリーブオイルの主な脂肪酸であるオレイン酸が、C反応性タンパク質など重要な炎症マーカーのレベルを低下させる可能性が示されています。

    美容鍼で老化を防ぐ

    現代人の多くは、交感神経が夜になっても副交感神経に切り替わらずに、疲れているのに眠れない、寝つきが悪く、朝の目覚めがスッキリしないなど、自律神経の乱れに悩まされています。良質な眠りのためには、この乱れを整えて、副交感神経を適度に優位にしていく必要があります。こんな自律神経の乱れを整えることができるのも美容鍼の隠れた魅力です。

    また、肌の老化は紫外線や乾燥だけでなく、体のホルモンバランスの影響を受けます。特に血行不良によるお肌の新陳代謝の滞りは、肌のくすみや透明感を失う原因になります。どんなに効果な美容液を使っても、内側からのケアをしっかりしなければ、老化がどんどん進む結果となってしまいます。美容鍼は、体の内側から肌とこころと身体を整え、健康的に美しい肌を維持することができるアンチエイジング効果の高い方法のひとつです。

    東洋医学の考え方では、気・血・水の通り道を「経絡(けいらく)」と呼び、この経絡の流れがスムーズであれば健康で老化を防ぎ、滞れば身体に不調に、老化が進むと考えます。この経絡の要所にあるのがツボで、ここを刺激することで、気・血・水の流れをスムーズにすることができます。

    しかし、このツボと経絡の関係は非常に複雑で、それらの繋がりも様々であり、ツボの位置や経絡の流れを熟知した鍼灸師でなければ効果が上げらません。東洋医学的診断に基づき、不調の原因となっている、つまり滞りのある部分を見極めて、的確な場所に鍼灸治療する必要があります。

    例えば、多くの女性が悩むほうれい線。ほうれい線を薄くするためには、頬を通る経絡(胃経)の流れを整えることで、頬にハリやツヤを生み出すことで改善します。この経絡(胃経)の流れがお顔から身体にも通じており、お顔の悩みを改善するためには、この流れを全体的に整えていく必要があります。その結果として、老化の原因にダイレクトに作用することができ、効果を最大にすることができるのです。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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