
生還習慣の乱れなどで老ける、実年齢よりも老けて見られる、そんな悩みを持つ人が多くいます。しかし病的な老化は病気なので治せます。親から譲り受ける遺伝子の影響は3割と言われています。そのため殆どの場合は、生活習慣によって老化の速度は決まっています。
私たちの遺伝子にはオンとオフがあり、その働きは加齢と共に変化します。若年齢でオンになる遺伝子もあれば、加齢によってオンになる遺伝子もあります。そのため老化の遺伝子にオンが入れば、急速に老化が進みます。つまりアンチエイジングのためには若年齢でオンになる遺伝子をいかに保つかが重要になります。
例えば若い頃は、肌を若々しく保つ成分であるコラーゲンが、合成酵素により沢山作られます。しかし歳を取るとコラーゲンを分解する酵素の方が発現しやすくなります。痛みや痒みについても同様で、加齢によって痛みを感じるシステムに関係するスイッチが働き出し、炎症に関係する遺伝子が増えます。また肌の水分量が減ることで、痒みなどの炎症が起きます。さらにストレス応答に関わる遺伝子の発現が変わってくることで若い頃よりもストレスに弱くなります。
しかし、生活習慣を正しくすることで、一旦オンになってしまった老化スイッチを元に戻すことが可能です。
老化しない人の特徴
実は老化しない人には共通の特徴があることが判明しています。因みに加齢と老化はよく混同されますが、加齢は年を重ねることを意味するのに対して、老化は生態機能が低下していくことです。
この老化スピードには大きな個人差があり、ニュージーランドで行われた老化研究では、26歳から38歳までの約950人を対象に12年間、生物学的年齢調査をしたところ、実年齢が同じ38歳でも生物学的年齢は実際より若い28歳から老化が進んだ61歳まで、実に33歳もの差がありました。生物学的年齢が高い人は体の中が老化し、見た目も老け、身体機能も低下していました。
また、慶応大学医学部がイギリスのニューキャッスル大学との共同研究チームで2016年に行った研究によると、日本に住む85歳から110歳の高齢者を対象に、長寿の人たちは他の人たちに比べてなぜ長生きできるのかを調べました。その結果、老化しない人に共通する特徴は体の中の炎症レベルが低いことが分かっています。これを受けて研究に携わった研究たちは、体内の炎症レベルを見れば老化のスピードが予測ができると考えています。
つまり、慢性的な炎症を抑えることこそが、老化の進行スピードを遅らせ、若々しく健康に長生きするためには最も重要なことが分かっています。
体内の炎症レベルを下げる方法
炎症には大きく二つあって、比較的早く収まる急性炎症と、長引いてしまう慢性炎症があります。老化の原因になる炎症は慢性炎症で、慢性炎症によって組織障害が長期になり、ホルモンバランスの乱れ、免疫機能の低下など老化に加え様々な前進疾患とも深い関わりがあります。
体内の炎症レベルを下げる方法の一つ目は、精神的ストレスの解放することです。人間の脳は物理的なストレスと精神的なストレスを区別することができません。現代のような人間関係などが複雑なストレス社会では、毎日炎症が起きる環境になっており、精神的ストレスを溜め込み続けると、少しずつ全身性の軽度の炎症が引き起こされ、その結果老化が進行してしまいます。
また慢性的な炎症によって免疫力も低下し、体が病気に対して脆弱になります。2017年の研究では、がんや心臓病、糖尿病、うつ病などの 様々な病気の発症にストレス誘発性の炎症が関係していることが分かっています。
2つ目は睡眠です。多くの人は7時間より少ないと思いますが、睡眠不足が体内の炎症レベルを上昇させることが研究で分かっています。また2008年の研究では、一晩でも睡眠が失われると体全体の炎症を刺激する強力な信号として機能する物質のレベルが大幅に上昇することが明らかになっています。
3つ目の炎症を抑える重要な行動に、糖化ストレスをなくすことも大事です。糖化ストレスは、糖質を摂り過ぎることで体の中が焦げ付いてしまう状態のことです。例えば糖質を食べると体内の糖とタンパク質に熱が加わることで、それらが結びつき、糖化タンパク質というものが発生します。この糖化したタンパク質は最終的にAGEsと呼ばれる老化を早める物質へと変化します。またAGEs自体が炎症を引き起こすことも分かっています。
老化と腸内細菌
老化には、主な12の兆候があり、タンパク質の消失、オートファジーの低下、栄養感知の異常、ミトコンドリアの機能異常、細胞老化などが挙げられています。その中に慢性炎症と腸内細菌層の変化が挙げられており、慢性炎症の原因が免疫のバランスが崩れることに起因すると考えられています。
そもそも免疫はウイルスや細菌など、私たちの体に害になるものが入ってきた時に発見をして排除する仕組みのことです。言い換えれば私たちの生体の防衛システムになり、この生体防衛反応を担っているのが免疫細胞になります。
また免疫の大きな役割として鎮静を担う免疫細胞があります。それらを免疫細胞と免疫抑制細胞と呼びます。炎症を促す免疫細胞だけが大きくなって、炎症を抑える免疫抑制細胞のブレーキが効かなくなると炎症がくすぶることになります。その結果、老化の原因が免疫システムのバランスが崩れることに起因すると考えられています。
研究論文では、免疫細胞や免疫抑制細胞には、腸内細菌層が深く関わっている研究がたくさん発表されています。そして免疫抑制細胞がうまく働かないのは、活性化させる腸内細菌が少ないことが分かってきています。この免疫抑制細胞がT-reg細胞です。つまり老けないためには、この免疫抑制細胞を活性化させることが大事になります。
活性化させるためには、発酵性の食物繊維のルミナコイドが必要で、腸内細菌が唯一エネルギーを生み出す元となるのが発酵性食物繊維のルミナコイドです。腸内細菌が発酵性の食物繊維ルミナコイドを摂ることで短鎖脂肪酸を産生し、短鎖脂肪酸が酪酸やプロピオン酸、酢酸などを作り出します。この中の酪酸が免疫抑制細胞を活性化させることが分かっています。
発酵性の食物繊維ルミナコイドは、腸内細菌がそれを食べて酪酸を作ってくれるので、様々な種類のルミナコイドを摂ることが大事です。芋や豆に含まれるレジスタントスターチ、穀物やきのこに含まれるβグルカン、野菜や果物に含まれるイヌリンやペクチンなど様々な種類があります。それぞれ分子サイズが違うため、腸内で発酵されるスピードや作られる短鎖脂肪酸の量が違うため、1 種類だけを摂るのではなく、様々な種類をまんべんなく摂ることが大事です。
ただし、日本人の平均的な食物繊維の摂取量は20g未満と言われており、発酵性の食物繊維をかなり意識して摂る必要があり、できれば1日25gを目安にすることで、腸内細菌が免疫細胞と免疫抑制細胞のバランスを整えて、老けにくい体になります。
老化時計を遅らせる方法
人によっては1年で0.4歳しか老化しない人と1年で2.4年も老化する人がいることが分かっています。この研究は壮大で世紀の研究という専門家もいるくらい信憑性の高い研究です。さらに老化を遅らせる具体的なプログラムまで判明しており、老化を遅らせる食材などはこの研究が発端となっています。
この研究は、2021年にニュージーランドで行われたダニーデン研究という老化研究です。この研究の対象となった被験者は、1972年から1973年生まれの人を1037名集め、それぞれ26歳、32歳、38歳、そして45歳の時の合計4回に分けて追跡し、2019年まで研究が行われました。研究では様々な視点で老化がチェックされており、心血管系や心臓の機能、血管年齢、代謝系、腎臓、肝臓、肺、免疫や握力、バランス感覚など、至るところ人の老化を調べ上げた信憑性が高い研究になっています。
この研究の肝となるのが「老化時計」ですが、これは人が1歳年を取る時に実際どのくらい老化するのか、その度合を示すものです。この老化時計がダニーデン研究によって、1年でたった0.4年しか老化してない人と、1年しか経ってないのに2.4年も老化する人がいることが分かっています。たった3年で7年ぐらい老化する人、逆に老化時計がゆっくりな人は、10年経っても実際の老化はまだ4年しかしていない人がおり、この差はどんどん年数が経てば経つほど差が生まれます。
老化抑制プログラム
この違いを生むプログラムがすでに研究で明らかになっています。ただしこのプログラムは、細かく規定されており、さらに8週間続ける必要があり、かなり難易度の高いプログラムです。しかし確実に8週間で3歳若返ることが実証されているプログラムです。
2021年のアメリカの研究で、50歳から72歳の43名をランダムにAとBグループに振り分けた実験から実証されています。まずAグループには、8週間プログラムを受けてもらい、Bグループの人は何にもプログラムはありませんでした。このプログラムを実践したAグループは、若返り効果が平均3.23歳もありました。
この8週間プログラムの1つ目は、7時間以上の睡眠です。実際、数多くの研究で7時間以上の睡眠は老化予防に効果的と証明されており、ハーバード大学医学部の科学者たちは7時間の睡眠が脳卒中や心臓発作のリスクを下げるために効果的だと発表されています。
そして8週間プログラムの2つ目は12時間ファスティングです。例えば夜の19時から朝の7時までの間だけ食べないことを8週間続けることです。3つ目は週5回、30分の運動です。これはウォーキングなど有酸素運動でも問題ありません。
次のプログラムメニューに呼吸法が挙げられています。1日2回20分の呼吸法で、難しいことは覚える必要はなく、所謂横隔膜を動かす複式呼吸を行います。老化にはストレスが大きく関係しているため、1日2回呼吸法を継続することで自律神経のバランスを整える必要があります。ここまでで前半のプログラムが終わります。
食生活についてのプログラム
後半は食生活についてのプログラムになっており、腸活の内容が多くなっています。例えばプランタラム菌は、乳酸菌の一種で腸内細菌を育てたり、体の免疫力を上げることでも有名な菌ですが、8週間プログラムでは、このプランタム菌が入ったサプリメントを毎日これだけの量を飲みましょうと細かく指定されています。これを実践するのは専門的で多くの人にとって難しいことです。
その代わりにプランタラム菌を多く含む食べ物を毎日意識して食べることでも構いません。手頃なところで言えば、ぬか漬けやキムが代表的です。また1週間でレバーを3個食べることを8週間続けることも記されています。そして毎週オーガニックたまごを5個から8個食べます。次にケールやほうれん草、それにカラシナなどの濃い葉物野菜を2カップ、続いてアブラナ科の野菜、ブロッコリーやカリフラワー、キャベツ、芽キャベツ、それにルッコラを毎日2カップ食べます。プラスして、カラフルな野菜も3カップ追加が必要で、ビーツやかぼちゃの種、ひまわりの種、それにベリー類を組み合わせて摂ることが推奨されています。
さらにスパイスにも指定があり、ローズマリーやターメリック、それにニンニクが挙げられています。一方で飲み物の指定もあり、緑茶、ウロン茶が指定されています。次がお肉で、1日170g限定で放牧牛を食べることです。最近ではスーパーでもグラスフェッドビーフとして販売されており、人間の体内では作れないオメガ3脂肪酸を豊富に含んだ牧草で育っているため、それらを食べることで血液をサラサラにしたり、老化の大きな原因と言われる慢性炎症を抑える効果があるからです。さらに果物、そして細かく指定されているのが油です。ココナッツ油やオリーブオイル、亜麻仁油、かぼちゃの種子油をバランスよく摂るように指定されています。他にも乳製品はできるだけ摂らないや、プラスチックを使わないなどの指定があります。
このように細かい点までを実践することは無理かも知れませんが、ここで紹介している食材を意識するだけで間違いなく老化予防に繋がります。ここで紹介した食材は、全部腸内環境に良い食べ物です。つまり腸内環境の改善こそ、老化時計を送らせる鍵になっているのは間違いないでしょう。確実に老化時計を遅らせたいなら腸内環境を整えることは意識しつつも、8週間プログラムの1つ1つを、無理せずに普段の生活に取り入れてみましょう。
幸福だからこそ若くなる
幸福な人ほど長生きをする、アンチエイチング科学の世界には昔からこんな格言があります。実際、楽観的な人ほど寿命が長いことはいくつもの調査で認められた事実で、ハーバード大学が約7万人の健康データを分析した研究では、客観的な人は悲観的な人より、生存率が29%高く、がんの発症リスクは16%低く、52%も感染症にかかりにくい傾向がありました。
またハーバード大学が71,720人を調べた類似の研究でも、楽観的な人は悲観的な人 より50%から70%長生きだと報告されており、楽観思考のメリットはほぼ間違いありません。
幸福な人ほど若々しい理由は、はっきりしないものの研究者の多くは次の3つのポイントを重視しています。
- 幸福度が高いと活動的になり無意識のうちに運動量が上がる
- 楽観的な人は不幸が起きてもすぐに復帰できる
- 楽観性によりストレスが減り、免疫システムが改善される
楽観思考がライフスタイルを自然に整え、さらには日々のストレスも癒してくれるおかげで生物学的な機能にまで良い影響があるのです。若いから幸福になるのではない、幸福だからこそ若くなる、これがアンチエイジングにおける科学の結論です。
東洋医学で診る「アンチエイジング」
東洋医学では、「老化」を2つの大きな流れで捉えます。1つは「陽から陰」への流れ、もう1つは「実から虚」への流れです。古代中国の陰陽論では、様々な事柄を「陰」と「陽」に分けて捉えてきました。これは東洋医学にも用いられて、例えば代謝が活発で、体が熱を持つ状態を「陽」、代謝が低下し、体が冷える状態を「陰」とします。
一方で「実」は、積極的、体格が良い、疲れにくい、胃腸が強いなど状態のことで、「虚」は、消極的、華奢な体格、疲れやすい、胃腸が弱いなど状態のことです。そして加齢に伴い誰でも「陽から陰」、「実から虚」に向かっていくと考えられています。
この2つの大きな流れがある中で、私たちに何ができるかを東洋医学的な視点で考えてみましょう。
東洋医学の老化スイッチ
「気」の不足
2つの大きな流れの中で、東洋医学でいう「気」の不足で様々な老化が起こるとされています。この「気」には、生まれた時に両親から受け継ぐ「先天の気」と、日々の活動を維持するための飲食を通じて獲得していく「後天の気」によって老化、寿命などが決まります。
生まれた時点で気の総量(先天の気)が決まっており、加齢と共に自然に減少します。また生活習慣の乱れやストレスによっても減っていきます。
これらの「気」を貯蔵している場所が『腎(腎臓)』です。成長や若さなどに関わる「腎(じん)」の機能が低下すると老化が早まると考えられています。また生命活動を営むエネルギー源である「気」が不足した状態を「腎虚」といい、免疫力が低下する他、老化に伴う様々な不調を招くと考えてられています。
美容では、目の下のシワ・たるみ・くすみ(STK)やクマ、乾燥、大人のニキビなどの肌の不調、生理不順などの症状が現れます。この腎が弱る主な原因は不健全な生活習慣です。『腎』は、身体の様々な機能に密接に関わっており、「腎虚」になると様々な衰えの症状が現れるようになります。
このような場合は『腎』を補うため、経絡や経穴を使って鍼灸治療を行います。代表例としては腰部にある「腎兪(じんゆ)」、足にある「三陰交(さんいんこう)」、手関節にある「陽池(ようち)」などがあります。
「血」の不足
一方で「全身をめぐり臓器の栄養源となる」のが「血」です。「血」は全身を流れていて、『肝』に貯められているものです。この「血」不足した状態を「血虚(けっきょ)」、血が上手く流れなくなり、渋滞している状態を「血瘀(けつお)」といい、内臓機能の低下や精神的活力の低下などが生じて老化につながるとされています。
不足している「気」と同じく、「血」を補わなくてはならないので「腎」の時と同じような鍼灸治療を行います。
いずれにせよ、加齢によって血液の状態が悪くなるのではなく、血液の状態が悪いのは日々の生活習慣が良くないからです。老化しやすい人は血液の状態が悪く肌に老廃物が溜まりやすくなっているために“たるみ”や“くすみ”を起こしやすくなります。
年を重ねても健康で美しくいるためには血流を良好に保ち、老廃物を排泄しやすい状態にして腎臓や肝臓を良好に保つことこそが若々しく生きる秘訣です。
胃腸の不調で老化する
『腎』『肝』の機能低下が老化につながりますが、特に胃腸の働きが悪くなると老化を早めると考えられています。なぜなら胃腸にかかわる『脾(ひ)』が『腎』に悪影響を与えるからです。また『肝』の乱れからも『脾』の不調を招くことが多く、胃腸の健康を保つことがアンチエイジングにつながります。

また、「気」の不足にも胃腸は関与し、胃腸の不調で「気」が少なくなると、様々な不調の原因になります。特にストレスで胃腸の働きが低下している方は、胃腸の働きを高めるだけでなく、「気」の巡り自体を改善させることも必要です。
胃腸を労るために、食べる量は腹八分目として、負担をかけない食生活を心がけましょう。また、腸に負担をかけないように、就寝3時間前には食事は済ませましょう。
腸の汚れが老化を加速
食べ過ぎは腸に負担を掛け、老化の原因になります。なぜなら排泄という神経伝達の仕組みは、脳と腸によって制御されており、この神経伝達を鈍らせてしまうのが食べ過ぎです。
食べ過ぎによって、大腸が絶えず働き続けると、必要以上に水分の吸収が行われて、便の動きが遅くなります。そのため大腸内に留まる時間が長くなります。また胃腸の働きが低下して消化不良が起こり、未消化のまま食べ物が大腸に送られてしまいます。このように食べ過ぎによって、胃と腸は疲れ果て、しょうかされていないものがどんどん大腸内に止まります。
そうなると大腸内で、悪玉菌が増殖して、活性酸素や毒素を過剰に発生させることになり腸の汚れを招いてしまいます。その汚れが老化を加速させてしまうのです。
これらの理由により、一定期間ファスティングをして腸を綺麗にしてあげることで、脳との神経伝達が正常に働くようになり、自律神経が整い、腸の蠕動運動が適切に働き、汚れを外に出すという排泄機能がスムーズになります。また代謝が活発になり腸内細胞の入れ替わりも促されて腸の大掃除を手助けしてくれます。定期的にファスティングをすることで効率よく腸のお掃除ができ、老化や病気を防ぐ効果が最近の研究によって分かっています。
ファスティングで飢餓状態になると、オートファジーという細胞内のタンパク質や細胞内小器官を分解し、その成分を再利用するというシステムが働き、老化や病気の予防につながることも分かってきています。
「加齢」と「老化」の違い
現代医学によって「老化する」の真の原因が解明されてきています。その老化の原因のひとつが、人の体の細胞が分裂する際にミスコピーが生まれることです。わたしたちの体をつくっている細胞は、常に分裂を繰り返し、新しい細胞をつくりだすことで「若さ」を保っています。しかしこのミスコピーが増えることによって体が「老化する」のです(体細胞変異説)。
このようなメカニズムがあることが分かれば、「老化する」を治すことができます。バーバード大学医学大学院遺伝子学のデビット教授によれば、「100歳になっても現在の50歳なみの活動レベルが保てる時代が来る」と断言しています。
具体的には、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、レスベラトール(赤ワインに含む抗酸化物質)、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクオレチド)、メトホルミン(糖尿病の治療薬)などが、老化に作用し、人間の寿命を延ばす働きかけがあることが明らかになっています。
これらはまだ別の病気の治療に使われており、実際の老化の治療に使われているわけでありません。しかしながら将来的には、具体的な老化の治療薬として処方されると思います。このように「老化する」ことが治すことができるようになれば、「歳の取り方」、つまり「生き方」がより重要になってくるでしょう。
老化を抑えるテメロア
私たちの体の中で繰り返される細胞分裂の過程でミスコピーが生まれることや細胞の劣化(細胞老化説)で老化が進行します。一方で細胞分裂する際にミスコピーを防いでくれるテメロアという組織があります。しかしストレス、睡眠不足、暴飲暴食などを繰り返すとこのテメロアという組織が良好に保てなくなることも明らかになっています(DNAテロメア説や酸化ストレス説)。
すなわち、細胞レベルで老化を抑えることができれば、病気の進行を抑えことにつながり、健康で長生きすることができます。特に睡眠をしっかりとることが老化から認知症まで、多くの病気を防ぐことが、近年の研究で多くのエビデンスが出ています。
例えば、老化を防ぐ要素のひとつである成長ホルモンは寝ている間に分泌されます。つまり「寝る」ということが、最も日常的にできるアンチエイジングです。そのためにも、日中に身体をよく動かすこと(よく歩くこと)、急激に血糖値をあげる食事をしないこと、しっかりとした鼻呼吸をすることなど、日常生活の中で少し心がけるだけでもアンチエイジングにつながります。
テロメアを短くしない
2009年にDNA染色体の末端部にあるテロメアが短くなれば人は早く老化することが分かっています。このテロメアを短くしないために重要なことが、ストレスレベルをコントロールすることです。実はスペインのサラゴサ大学の科学者が、禅の瞑想を行う人は同年齢の他の人と比べて長いテロメアを持っていることを発見しています。特に瞑想のテクニックなどは重要ではないようで、毎日少しの時間でも目を閉じてストレスをコントロールするようにしましょう。
そしてテロメアが短くなることを防ぐ有効な方法として、自分の好きな人たちで囲まれて生活をすることです。これも長いテロメアを持っている人の典型的な特徴です。仕事などの時間以外は自分の心が落ち着ける人と時間を過ごすと、老化スピードは遅くなります。これも研究で証明されています。
アンチエイジングフード
体内の炎症を食い止めるには、食物繊維が豊富な食べ物、抗炎症作用のある食べ物がおすすめです。いくつかの研究で食物繊維と炎症の間には関連性が認められていて、食物繊維が豊富な食事をしている人は、血中のC反応性タンパク質レベルが低いということが判明しています。C反応性タンパク質レベルは、炎症疾患の発見のための指標とされています。
体内の炎症を抑える食物繊維には、ナッツ、野菜、果物、キノコ類、海藻類などがあります。抗炎症作用がある食べ物はチェリー類です。
例えば、アメリカンチェリーに含まれる成分のアミグダリンやケルセチンに炎症を抑える効果が期待できます。中でもタルトチェリーには、アントシアニンを豊富に含むと言われるブルーベリーには含まれていない種類のアントシアニンを含んでいるとして、アメリカでは抗炎症作用のある食べ物として人気です。
また、世界で注目されているスーパーフードモリンガの種子に含まれるβ-シトステロールが、細菌などによる炎症を抑えるだけでなく。免疫系細胞の反応を抑制すると注目されています。
身近な食材では、ブロッコリーとトマトです。ブロッコリーに含まれるフラボノイドには、抗炎症作用が認められているのに加えて、βカロテン、ビタミンCにも抗炎症作用があるため炎症を鎮める効果が高い食材です。そしてトマトにも高い抗炎症作用がいくつもの研究で発表されており、トマトに含まれるリコピンは抗炎症作用に加え、抗酸化作用もあります。つまりシミやシワを防ぐ効果があり、美肌にも効果的な食材です。
そして最後に炎症を食い止めるおすすめは、エクストラバージンオリーブオイルです。海外の研究でオリーブオイルの主な脂肪酸であるオレイン酸が、C反応性タンパク質など重要な炎症マーカーのレベルを低下させる可能性が示されています。
老化研究の最前線
世界各国で様々な老化研究が進んでおり、直ぐにでも取り入れたい情報が溢れています。生活習慣改善だけで見ため年齢が30 歳違う老化研究があります。そもそも加齢は自然減少ですが、老化は人によって個人差があります。なぜ年齢が同じでも老化が進んでいる人といつまでも若々しい人がいるのか、その謎を追求するため、世界では様々な研究が行われています。
その中の1つの研究に双子研究が挙げられます。長生のために遺伝子情報がどれほど影響を与えるか、双子を対象に行った老化研究では、親から受け継いだ遺伝情報で老化や寿命が決まるのではないかと考えました。研究の結果を言えば双子の寿命はある程度の割合で似通うことが分かりました。ただし遺伝子情報が寿命に与える影響は平均して25%程度という研究結果になっています。
一方で、Google傘下のアンチエイジング研究企業カリコが行なっている研究があります。この研究は家計調査や遺伝子検査サービスを持つ企業との共同研究で、1億以上の家計図を調査したところ、双子研究で出たパーセンテージよりも遺伝子が寿命に与える影響は低いという結果となっています。むしろ遺伝的には全く関係ない夫と妻の方が、それぞれの兄弟姉妹よりも寿命が近くなっています。
このことから残りの75%は、生活習慣が個人の老化度合を左右することが分かります。また長寿の家系と言われる家系と結ばれた人も総じて寿命が伸びているという結果となりました。これは長寿の生活習慣に習うからだと言われています。つまり老化の正体とは、その人が生活の中で長年蓄積してきたダメージとして表れています。
実際、老化が進むスピードは個人差がどれぐらい出るのかを調べた研究もあります。ニュージーランドで 950人の26歳を対象にその後、数年間の追跡調査を行いました。12年後38歳になった時に生物学的年齢を比較する研究でした。ちなみに生物学的年齢は、体の機能や病気へのリスクを反映させて出る年齢のことです。つまりリアルな体の年齢であり、代謝能力や自給力機能を示す数値など18個の指標を使って測定されます。
対象者(38歳)の生物学的年齢を測定したところ、同じ年齢でも若い人は28歳、老化が進んだ人は61歳という結果になりました。前向きに捉えるなら実年齢が38歳でも対策ができていれば10歳も若返ることができることが示されています。しかもこの研究が興味深いのは個人の老化スピードの差だけではなく、生物学的年齢が高い人は手足の筋力の低下、さらに認知機能の低下も始まっていました。さらには肌のくすみやハリ、シワの状態などなど見た目年齢も明らかに差が現れました。
このような見た目の老化と寿命の関係はデンマーク加齢研究センターが調査を行っています。70歳以上の双子1826人を対象に、見た目年齢と体・認知機能は紐づくかどうかを調べました。この研究によれば見た目が老けている方が同じ遺伝子を持った双子でも早く亡くなっていました。そして筋力や認知機能の低下もあり、見た目年齢と体内老化、寿命は紐づいていると結論付けられました。
これらの研究から、揺らがない美しさを手に入れるには栄養を運ぶ血液の状態を整えること、代謝を良くしてターンオーバーを整えること、栄養を吸収するために腸内環境を整えることなど、美しさを突き詰めていくとインナーケア7割、スキンケアは3割で肌の状態が決まることになります。
老化の原因をチェック
細胞の錆「酸化」
老化を引き起こす1つ目の要因が細胞の錆「酸化」です。体内の酸素が他の物質と結びつき活性酸素に変わって細胞を傷つけるのが酸化です。適量の活性酸素ならウイルスなどからの感染を防ぎ、免疫機能のような役割を果たします。しかし活性酸素が過剰に作られると正常な細胞まで傷つけてしまうようになります。例えば癌という病気は、正常細胞のDNAが損傷して癌細胞に変異します。正常な細胞を傷つけてが細胞に変わるスイッチを押してしまうのが活性酸素です。
見た目の老化にも酸化は大きく関わっており、例えば肌の奥にはシミの元となる色素を作るメラノサイトというシミ製造工場があり、紫外線ダメージを受けて活性酸素が増えるとメラニンを作る工場の可動スイッチが押されます。紫外線から細胞を守る傘となるのがメラニンですが、見た目にはシミになってしまいます。
体内の焦げ「糖化」
次は老化を引き起こす要因の2つ目は、体内の焦げ「糖化」です。体内のタンパク質と余分な糖質が結びつき、体内の熱で劣化して編成することを糖化と言います。この編成してできる物質は終末糖化産物(AGE)と呼ばれています。このAGEは代謝によって消えますが、糖が絡みついて編成している分、排出しづらくなっています。さらに年齢を重ねると1度作られたAGEは蓄積しやすくなり、蓄積すると体中で炎症を引き起こすことになります。
私たちの体は、脳や皮膚、血管や髪の毛、心臓を含む臓器もほとんどがタンパク質でできているため、どこでもこの糖化が起きる可能性があります。血管が糖化すれば動脈硬化のリスクが高まるし、骨が脆くなると骨粗しょう症にもなりやすくなります。見た目で言えばコラーゲンが糖化すると肌の弾力が失われて、シワやたるみが出てくるでしょう。また糖化の代表的な症状は、黄ぐすみで、文字の通り肌の黄色味が強くなって透明感がなくなります。
体内の火事「慢性炎症」
次の老化を引き起こす要因3つ目が体内の火事「慢性炎症」です。老化を進める慢性炎症は自覚症状がないぐらいの小さなボヤが続く状態です。何年もボヤが起こり続けて知らないうちに体のあちこちに飛び火している状態が慢性炎症です。気づいた時には手遅れのことが多く、サイレントキラーとも呼ばれています。特に腸は、休みなく働き続け、食べ物の毒素を溜め込みやすい分、慢性炎症になるリスクが高いと言われています。全身の免疫を司り、健康を左右する腸がダメージを受けるとあらゆる生活習慣病になるリスクが上がります。
このように細胞を傷つける活性酸素や糖化でできるAGEが慢性炎症を引き起こす犯人であり、活性酸素を増やしたり、AGEが大量に作られる原因になるのが生活習慣の乱れです。生活習慣が乱れるから体の錆、焦げ、火事が起こり、錆、焦げ、火事が起こると一気に老化が進んで見た目も老け、寿命も短くなります。この一連の流れが今の老化研究の主流になります。
老化を進める3つの食事習慣
老化を進める3つの食事習慣は、野菜不足、塩分型、肉食中心の3つです。これらが代謝力の低下を招くことも分かっており、これらの食事の悪習慣を排除し、代謝力を上げるためには、 食事の質や量、食事時間、食べる順番などの食べ方を工夫することが必要になります。
食事をなるべく同じ時間に取ることは代謝の中でも一番重要な基礎代謝力を上げるのに有効です。基礎代謝は呼吸や体温調節を司っており、これが正常でなければ生命を維持できません。特に夕食は可能な範囲で夜8時か9時までに食べると食後3から4時間経ってから空腹を感じ始めるくらいのタイミングに就寝できます。夜は栄養を吸収しやすい時間帯で、太りやすいというデメリットもありますが、この栄養を使って睡眠中には筋肉などが作られ、またダメージを受けた細胞の修復も行われます。これは成長ホルモンの働きによるものですが、血糖値が上がっていると成長ホルモンの分泌量は減り、また寝る前に食べると体は 消化を先に行うので新しい細胞が作られず老化してしまいます。新しい細胞が作られないということは代謝力が低下することに繋がります。
また、適切な量と質の食事を摂ることも大切で、40歳くらいを境に体内でエネルギーを生み出す仕組みが激変します。そこで食事が不規則だとエネルギーの仕組みの変化に対応できなくなります。特に食べる量については、腹八分目で抑えると良いでしょう。これは長寿遺伝子と呼ばれるサーチイン遺伝子のスイッチを入れる食べ方でもあります。サーチュイン遺伝子を起動させるためには若干のカロリー制限をすることが必要であり、カロリーを抑えて飢餓状態を経験させるとサーチュイン遺伝子は慌てて細胞の老化を防ごうと働きます。
食べる順番については、ご飯などの主食から先に食べることは血糖値を上げる要因になります。血糖値が急に上がれば膵臓からインスリンが過剰に分泌され、膵臓に大きな負担をかけ、次第にインスリンの分泌力が低下すると糖尿病の原因になってしまいます。問題は糖分であるため、ご飯以外にも芋やカボチャ、砂糖を使った料理も後から食べようにしましょう。
逆に野菜を先に食べることにはメリットがあり、ほとんどの野菜に多く含まれる栄養素は 食物繊維で、これは体内で脂肪や糖を吸着する役割があります。そうすることで糖分の吸収率を下げ、血糖値のバランスも整います。まず野菜を食べたら、次は汁物、副菜、主菜そしてご飯といった具合に食べ進めていくと良いでしょう。
老化する食べ物
健康的に過ごすためにはちょっとした努力と工夫が必要です。私たちが健康的に過ごせるがどうか、体内の老化スピードだけでなく、見た目の老化は食べ物によって大きく左右されます。つまり健康や老化のスピードは食事で変えられ、毎日の食べ物の選択にかかっています。
特に避けなければならないのが油で揚げた食べ物です。その理由は、高温調理することにあります。高温で調理することで、食品に含まれるタンパク質や脂質が糖質と結びつく「糖化」反応が起こり、その時にAGEという老化を促進させる物質を作り出します。シミやシワも、このAGEが肌のコラーゲンに結びつくことによって生まれます。そして肌だけでなく、全身の血管にも大きなダメージを与えます。さらに老化を促進するだけでなく、あらゆる病気を引き起こすことが分かっています。
また、揚げ物に使われている油にも大きな問題があります。一般的に利用されるサラダ油にはオメガ6脂肪酸が含まれ、人体に炎症を引き起こすことが知られています。本来、オメガ6脂肪酸は健康維持に欠かせない栄養素ですが、摂り過ぎが問題であり、あらゆる食材に含まれているため何も考えずに食事していると簡単に摂り過ぎになってしまいます。そしてショートニングを加えたカラッと揚がった揚げ物には、トランス脂肪酸が多く含まれているため外食には注意しましょう。
米国の約107,000人の50から79歳の年配女性の約20年分のデータを分析した研究によると、1日少なくとも1サービング揚げ物を食べた女性は、何も食べなかった女性に比べて、早期に脂肪する可能性が約8%高くなることが示されています。そして揚げ物を食べる参加者は、すべての原因による死亡リスクが高いことが分かっています。
特に油で揚げたじゃがいも料理を毎週2から3回食べている人は、死亡リスクが1.95倍に上昇するということも研究によって分かっています。その理由として知られているのが、じゃがいもを高温で加熱すると一部の成分が、発がん性物質のアクリルアミドに変わるからです。
特にじゃがいもは、絶対に冷蔵庫に入れてはいけません。実はじゃがいもは、長時間冷やした後に熱を加えることでアクリルアミドという有害物質が大量に発生することが知られています。アクリルアミドとは工業用の接着剤などに使われている非常に体に悪い発がん物質です。アクリルアミドは食品に含まれる還元糖という糖が120℃以上の高温で加熱されることによって生じます。冷蔵したじゃがいもにはこのようなアクリルアミド発生の原因となる還元糖が豊富に含まれているため、ポテトチップスやフライドポテトなどの高温で調理するじゃがいも料理は、健康上のリスクが高いと言えます。
美容鍼で老化を防ぐ
現代人の多くは、交感神経が夜になっても副交感神経に切り替わらずに、疲れているのに眠れない、寝つきが悪く、朝の目覚めがスッキリしないなど、自律神経の乱れに悩まされています。良質な眠りのためには、この乱れを整えて、副交感神経を適度に優位にしていく必要があります。こんな自律神経の乱れを整えることができるのも美容鍼の隠れた魅力です。
また、肌の老化は紫外線や乾燥だけでなく、体のホルモンバランスの影響を受けます。特に血行不良によるお肌の新陳代謝の滞りは、肌のくすみや透明感を失う原因になります。どんなに効果な美容液を使っても、内側からのケアをしっかりしなければ、老化がどんどん進む結果となってしまいます。美容鍼は、体の内側から肌とこころと身体を整え、健康的に美しい肌を維持することができるアンチエイジング効果の高い方法のひとつです。
東洋医学の考え方では、気・血・水の通り道を「経絡(けいらく)」と呼び、この経絡の流れがスムーズであれば健康で老化を防ぎ、滞れば身体に不調に、老化が進むと考えます。この経絡の要所にあるのがツボで、ここを刺激することで、気・血・水の流れをスムーズにすることができます。
しかし、このツボと経絡の関係は非常に複雑で、それらの繋がりも様々であり、ツボの位置や経絡の流れを熟知した鍼灸師でなければ効果が上げらません。東洋医学的診断に基づき、不調の原因となっている、つまり滞りのある部分を見極めて、的確な場所に鍼灸治療する必要があります。
例えば、多くの女性が悩むほうれい線。ほうれい線を薄くするためには、頬を通る経絡(胃経)の流れを整えることで、頬にハリやツヤを生み出すことで改善します。この経絡(胃経)の流れがお顔から身体にも通じており、お顔の悩みを改善するためには、この流れを全体的に整えていく必要があります。その結果として、老化の原因にダイレクトに作用することができ、効果を最大にすることができるのです。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。