
およそ5人に1人が不眠に悩んでいるといわれています。不眠には、寝つきが悪い、夜中に目覚める、ぐっすり眠れない、朝早く目覚めてしまうなどの4つタイプがあります。不眠の原因には、様々な要因がありますが、特にストレスの存在が大きく、仕事や家庭での精神的ストレスで不眠症に陥っているという方が多くなっています。
また、睡眠時間が少ないほど食欲を増すことが分かっており、食べすきた体は、カロリーを効率よく管理できません。そのため血液中の糖分が増え、代謝が低下します。食欲増加と代謝の低下によってますます太り、心血管疾患、脳変性、アルツハイマー病、生活習慣病などの病気のリスクが増加します。さらに内臓脂肪が炎症を引き起こし、様々な病気のリスクを上げるだけでなく、脳への悪影響も指摘されています。
東洋医学的な観点からみると、不眠は「陰陽」のサイクルが崩れている状態です。つまり夜になってもリラックスが完全にできていない状態であり、深く眠るためには気(エネルギー)、陰の気が必要と考えます。もちろん不眠症を克服するためには、その原因であるストレスを取り除くのが最も有効ですが、いきなりストレスを無くすといっても難しい話です。
睡眠は心身の健康を保つ最強の薬であり、すべては睡眠で最適化されます。世界保健機関(WHO)では、睡眠不足は先進国の流行病であると宣言され、その中でも日本は睡眠不足大国であると指摘されています。
日本人の約4割が6時間未満の睡眠であり、睡眠不足が続いた脳は、徹夜した脳と同じ程度の認知能力まで低下したという研究結果もあります(ペンシルバニア大学)。
急性不眠から慢性不眠を防ぐ
急性不眠(短期的な不眠)は一時的なもので、ストレスや疲れで起きます。慢性不眠は、寝れない状態が続くことです。急性不眠は一時的なものだからと考えていると、いつのまにか慢性不眠になる方がいらっしゃいます。
この急性不眠は、なかなか眠れない日が週3日以上、その状態が2週間から3ヶ月ぐらいあると急性不眠が疑われます。一方でこの状態が3ヶ月続くと慢性不眠になります。
米国睡眠学会では、急性不眠の場合は無理に寝ようとせずに自然な眠りに任せてしまうことを推奨しています。なぜなら、眠れないという焦りやストレスが慢性不眠を引き起こすことが分かっているからです。慢性不眠になってしまう人の特徴は、眠れないことを無理に改善しようとし、そのため交感神経が活発になってしまいます。
急性不眠になるのは人の体の防衛反応でもあるため、根本的なストレス対策をしたり、リラックスする時間をつくったり、眠りやすくすることが大切ですが、そこで力技で寝ようとしても寝れないので、さらに不安や緊張を引き起こしてしまいます。また過度な昼寝や細切れの睡眠も睡眠リズムが乱れる原因になります。さらに眠れないことはよくないと思い込み、緊張感やストレスが高まって慢性不眠の負のスパイラルに陥ります。
どんなに睡眠の質が良い人でも、急性不眠は誰にでも起こることが分かっており、無理に寝ようとしないこと、運動量を増やして体力を消耗させること、不安対策をするなどで対応しましょう。
睡眠負債による疲れ
健康のためには、食事、運動、睡眠が基本になるということはご存知だと思います。しかし最新の研究ではこの中で最も健康のために重要なのは睡眠であることが分かってきています。最新の睡眠研究によって睡眠は心身の健康を保つ最強の薬であることが明らかになっています。
睡眠不足の影響はたくさんありますが、その一つに脳内にアデノシンが溜まりすぎることで引き起こされる慢性的な疲労感があります。
アデノシンは疲労物質であり、眠気を誘発する作用があります。またこの物質はドーバミンの分泌を妨げる働きがあります。ドーパミンはやる気(意欲)の根源であり、妨げられるとやる気がなくなったり、モチベーションが下がったりします。このアデノシンは起きている間にどんどん脳内に溜まり、夜になれば疲れの元となります。しかし睡眠中にアデノシンが脳内から取り除かれるため、翌日も元気に活動することができます。
ただし睡眠不足が続くと、取り除かれなかったアデノシンが脳内に溜まるため、起きても疲れが取れなくなり、しかも次の日も脳内に溜まり続けて慢性的な睡眠不足の状態を作り上げます。このように慢性的な疲労感を憶え、心身ともに様々な症状に悩まされることになります。
東洋医学で診る「不眠」とは
東洋医学的な見解では、不眠症の根源は「心」にあり、思い込み、憂い、哀愁、神経を使いすぎなど、「心」と「脾」が傷つき、気と血が虚弱となり、心身ともに弱くなって不眠に繋がると診ます。また過労による「腎」の負担で、腎陰が消耗され、陰虚火旺、あるいは消化不良のせいで「痰」と「湿」が体内に溜まり、熱に変わり、その熱がさらに「心」を掻きまわし、不眠症につながります。
「頭の鍼」とは、東洋医学の言葉で言えば、「陰陽のバランスを整え、気血の巡りや働きが良くすることで、自然治癒力が高める」ことです。つまり、心身のバランスを整え、体内の気血のめぐりや働きを整えることが不眠症への改善へと繋がるのです。具体的には、頭のツボや鍼の打ち方などを使い分けることによって、「交感神経」と「副交感神経」を興奮させたり抑制させたりして、自律神経の働きを“ほど良い”状態にします。
このように東洋医学の理論に基づき、「交感神経」と「副交感神経」のバランスを適正にすることで、全身の血流も良くなるため、症状が改善し、体が回復しやすい状態になります。ただし一度乱れた自律神経のバランスを適正範囲に収まるようにするためには、適正なバランスを身体に慣れさせていく必要があります。治療を重ねていくと、「交感神経」と「副交感神経」のバランスが適正な範囲におさまる時間も増え、症状が現れにくくなります。
睡眠薬は自然の眠りとは違い、強制的に私たちのスイッチをオフにしているだけであり、最も深い脳波が欠けているというデータもあります。つまりレム睡眠、ノンレム睡眠がなく、脳が休んでいないということになります。
睡眠不足と病気リスクの関係
睡眠、食事、運動が健康に欠かせない要素であり、睡眠こそが食事と運動の基盤であり、睡眠不足になるだけで食事に気をつかい、定期的に運動してもそれほど効果がなくなってしまいます。
20以上の大規模な疫学研究で、合わせて数百万人を数十年に渡って追跡した膨大なデータがあり、すべての研究結果で共通していることが睡眠時間が少ないほど寿命が短くなるということでした。先進国で死因の上位を占めるのは、心臓病、肥満、認知症、糖尿病、がんなどですが、これら全てにおいて睡眠不足との関係が指摘されています。
自然の眠りと睡眠薬との違い
睡眠薬を使うと自然な眠りを得られず、不自然な眠りになってしまいます。睡眠薬は単に脳の外側のみを眠らせているに過ぎません。自然な深いノンレム睡眠の脳波と、睡眠薬を使った脳波を比べると、睡眠薬で眠った脳波は、いちばん大きく、深い脳波が欠けています。つまり睡眠の質が低下し、深い眠りが得られていないことを示しています。さらに副作用として、日中疲れが取れない、頭がぼんやりするなどが挙げられます。
実は睡眠薬を飲んでも増える睡眠は僅かであるという研究結果があります。その研究では、現在最も広く使われている睡眠薬の研究データをすべて集めて分析すると、横になってから入眠までの時間を僅かに向上させるだけと結論付けています。
薬を飲むことで病気が治るのではなく、人の体に備わる自然治癒力や免疫力によって治ります。西洋医学の利点は、救急生の高い場合などであり、特に生活習慣病に処方されている薬にはある程度のリスクがあります。
その中でも注意する必要があるのが睡眠薬や抗不安薬をはじめとする精神薬です。なぜなら強い依存性や心体への悪影響が指摘されているからです。例えば医学会で最も権威のある雑誌のひとつであるランセット(The Lancet)に掲載された2003年の論文では、精神薬であるバルビツールやベンゾジアアゼビンは身体依存と精神依存が強いとされています。また神経障害、感情障害、認知障害、筋肉障害などの弊害があることが報告されています。
また、日本の医療では、治療の一環として患者の不眠や不安を解消するために睡眠薬や抗不安薬が処方できるため、比較的簡単に処方を受けることができます。眠れないぐらいなら睡眠薬を飲んだ方が良いと言われる医師の方もいます。
睡眠と自律神経の関係
鍼灸によってよく眠れるようになったり、継続することで睡眠の質が上がる方が多くいます。現代人は、1日中スマホやパソコンをして脳を興奮させる刺激が多くあるため、自律神経の乱れて睡眠の質が低下しています。睡眠の質を上げるためには、①入眠時に深部体温が低くなっていること、②脳がリラックスしていることが大切です。
自律神経には、日中活発になる「交感神経」と、夜リラックス時に活発になる「副交感神経」があり、入眠時には「副交換神経」が優位になることで、体の活動を抑制して「休む」のに適した状態にする必要があります。自律神経が乱れると、いつまでも体が「休む」状態にならないため、体の切り替えができずに睡眠の質が低下してしまいます。一方で体温は血管の収縮や拡張によってコントロールされており、交感神経が緊張したままだと特に手足の末端の血管が収縮して放熱できなくなるため、体温が下がりにくくなります。
鍼灸治療が睡眠の質の低下にアプローチできるのは、鍼灸で肌の表面を刺激することで起こる「反射」を利用することができるからです。
鍼の刺激を伝えた感覚神経と同じ髄節から出ている自律神経に刺激が伝わり、最終的にはその自律神経の行き先である内臓にも刺激が伝わります。その結果として内臓の動きが活発になったり、逆に抑えられたりします(体制-内臓反射)。
また、鍼の刺激が感覚神経を通じて脊髄に、さらに脳幹まで伝えられて反応を起こす上脊髄反射があります。その刺激は自律神経を介して内臓へ影響を与えることができます。鍼刺激によって反応する臓器は異なりますが、何にせよ交感神経の働きを抑制して、副交換神経の働きを亢進することができます。そのため睡眠の質の低下にアプローチでき、様々な睡眠の悩み(寝付けない、眠りが浅いなど)を改善することができます。
頭の鍼が睡眠不足に効果的な理由
アメリカ国立衛生研究所(NIH)は、鍼灸は不眠にも有効と発表しています。またWHO(世界保健機関)が鍼灸適応としている疾患として、神経疾患(神経痛、麻痺、痙攣、自律神経失調、神経症、心身症、脳卒中後遺症、頭暈、肩こり)などに鍼治療が有効との見解を示しています。
ストレスが原因の不眠の多くは、慢性的なストレスによるコルチゾール(ストレスホルモン)を過剰分泌です。コルチゾールは、短期的には人がストレスにうまく対処するため必要ですが、慢性的に繰り返されたストレスが長期に渡ると、このコルチゾールが過剰に分泌し、HPA系(副腎皮質系)の働きが乱れ、免疫力が落ち、病気になりやすい状態に陥ります
大きな問題は、このコルチゾールには覚醒作用があるため、コルチゾールが増えることで不眠が誘発されてしまうことです。またコルチゾールの過剰分泌が自律神経の乱れにつながります。
「頭の鍼」によって、脳神経がその刺激に反応して、コルチゾールの過剰な分泌を抑制し、正常な睡眠リズムを再び取り戻すことができます。今までにも鍼灸治療にはHPA系の調整(コルチゾール過剰分泌の抑制)に役立つと日本の研究者達が数多く報告しています。これが鍼刺激のボトムアップ効果とも呼ばれているものです。またコルチゾールの過剰な分泌は、自律神経の乱れも引き起こし、自律神経の交感神経が入り込む筋肉にこりが生じます。
「頭の鍼」は、筋肉のこりをほぐすことにより、自律神経の安定を図ることができます。つまり、鍼灸治療は、二方面から不眠症の改善につながります。
睡眠不足に効果的なツボ
不眠は自律神経の乱れが原因のひとつであるため、不眠に効果のあるツボを選びます。例えば、「百会(ひゃくえ)」や「失眠(しつみん)」などです。
百会(ひゃくえ):両耳の一番高い所と鼻から後頭部中央を結んだ線の交わる所

失眠(しつみん):足裏のかかと中央の少し凹んだところ

このような鍼灸治療の不眠症(睡眠障害)に対する効果はWHO(世界保健機構)でも認定されていて、当院の治療経験からも大変有効であると実感しています。
お身体の不調、美容のお悩みをお客様と一緒に解決してまいります。どうぞご相談くださいませ。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。