頭の鍼が便秘に効く

    頭の鍼は便秘に効く

    便秘の定義は、厳密に決まっているわけではありませんが、一般的に排便間隔が長く、便が固い、便が出にくい、お腹の張りや腹痛があり、自分自身が辛いと感じている状態が便秘です。便秘は体への悪影響が大きく、厄介な症状です。

    食べ物の未消化物が腸の中に溜め込まれていると悪玉菌が優勢になりやすく、病気の発症リスクが高まる可能性があります。便秘によって、本来スムーズに排出されるはずの老廃物や有害物が長く体内に溜まることで疲れや倦怠感、ニキビ、肌荒れなどが起こりやすくなります。

    また、有害物が排出されず大腸にとどまることで大腸ガンの発生リスクが高まります。さらに便秘が慢性化すると、代謝の衰えにより、むくみやすくなったり、太りやすくなったりします。腸を冷やさないことや食物繊維をしっかり摂ることで、腸内環境を良くして、食後の血糖値を速やかに下げるインクレチンの分泌量が増やすことができるため、糖尿病対策にもなります。

    便秘対策として、便秘薬を常用している方もいらっしゃると思いますが、下剤の中でも、センナや大黄アロエあるいはそれらを含む「アントラキノン系下剤」と呼ばれる下剤に頼りすぎると、かえって便秘がひどくなる場合もあるので注意が必要です。これらを常用していると、大腸メラノーシスという色素沈着を起こし、同時に腸の働きが悪くなり、便秘が悪化して悪循環が生じます。

    便秘は脳に影響する

    「脳腸相関」という言葉からも、脳と腸は非常に密接な関係があり、互いに影響を及ぼしあうことが明らかになってきました。いくつかの実験でも、便秘だと眠気が強くなったり、緊張感がある、疲れやすい、イライラするという状態になることが分かっています。また集中力の乱れからパフォーマンスが落ちることも分かっており、慢性的な便秘に悩む方の脳は、集中力が乱れるばかりでなく、「空回り」しやすい状態にあることも分かっています(杏林大学での実験より)。

    この「空回り」の状態では、脳の前頭葉の働きが鈍くなる(ヘモグロビン量から判定)ことが確認されており、快便の方よりも脳を働かせてない状態になっています。このように脳が空回りするのは、便秘による緊張感やイライラといったストレスが関与しているのではないかと考えられています。

    一方で、慢性的な便秘や下痢は心の病との関係も指摘されています。例えば過敏性腸症候群は、下痢による体調不良が心の健康に悪影響となることが臨床的に知られています。様々な体の不調が心の病にもたらす影響の研究が進んでおり、特に注目されるのが腸内環境とセロトニン(幸せホルモン)の関係です。

    セロトニンは、心身のリラックスを促す神経伝達物質ですが、心の病の状態ではセロトニンを介した情報伝達に問題が生じることが分かっています。脳内でつくられるセロトニン量と比較して腸でつくられるセロトニン量は9割とも言われており、うつ病の患者の腸内細菌を調べると、善玉菌(ビフィズス菌など)が、健康な人より少ないという結果が報告されています。

    ストレスと便秘の関係

    便秘を引き起こす一番の原因はストレスと言われています。なぜなら、腸には脳と同じ神経が多くあり、自律神経でつながっているため、脳がストレスを感じると自律神経を通して、すぐに腸が反応します。その反応によって便秘などの症状が出るとされています。

    腸は第二の脳とも呼ばれ、脳からの指令がなくても活動する独自の神経ネットワークを持つことが分かってきています。脳から腸、腸から脳へ情報伝達が双方向からあり、自律神経系、免疫系、内分泌系の3つの経路を介してお互いに影響を与えています。これを「腸脳相関」と言います。

    自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の2種類がありますが、副交感神経が活発になると腸が活発に動いて消化が進みます。しかしストレスを感じると交感神経が優位になり、消化機能が低下し、さらにストレスによる過食などで胃もたれになったりします。

    一方で、ストレスを感じると下痢気味になるのは、脳と腸が迷走神経を介して繋がっているため、ストレスによって腸内環境(腸内フローラの変性)が乱れることから起こっているのではないかと考えられています。さらに腸の働きが鈍くなると、その情報は脳に伝達されてさらにストレスを感じるようになり悪循環を招きます。

    また、自律神経のバランスが乱れると、腸の水分吸収が活発になりすぎて水分の少ない便が溜まり便秘になります。自律神経の乱れは、極度な精神的な緊張、不安かなどの精神的なストレス、睡眠不足、暴飲暴食、生活習慣の乱れなどが原因です。

    このように便秘症の多くは、自律神経のバランスの乱れに起因しているので、自律神経のバランスを整えることが大切です。頭部には自律神経を調節するツボが多く存在するため、自律神経のバランスを整えるためには頭の鍼をおすすめします。頭鍼にはリラックス効果もあるので、不眠やイライラに悩まされている方も、ぜひ受けてみてください。

    東洋医学では便秘は「秘結」(ひけつ)

    東洋医学では便秘を「秘結」(ひけつ)と言います。「秘結」は「熱秘」「寒秘」「燥秘」「気秘」の4タイプの原因に分けて診ます。

    熱秘熱による便秘です。 お酒や油っこい料理、甘い物や辛い物を多く食べると 水分が奪われやすくなって熱がこもりやすく便秘になりやすくなります。
    寒秘冷たいものの食べ過ぎや、冷房などで体が冷えて起こる便秘です。
    燥秘便が体内に長く滞在して乾燥し、 便が出にくい状態です。
    気秘イライラやストレスが原因で起きる便秘です。 ストレスが貯まり自律神経が乱れると下痢と便秘を繰り返します。

    症状別の養生方法

    便秘の解消には、腸内環境を整えることが大切です。症状別の腸内環境に良い食べ物を食べましょう。

    出す力がない

    東洋医学で言うと〝気不足〟。力が足りなくて、腸に便があるのになかなか出てこないのです。このタイプの方は気を補って便を出す力を身につけましょう。

    ・気を補う食べ物:米、豆類、イモ類、キノコ類

    ストレス便秘

    平日は便秘、休日などリラックスできると解消するというタイプです。リラックスが1番の薬ですが、食事なら「肝」を癒すものを取るようにしましょう。

    ・肝を補う食べ物:酸味のあるもの、香りのよいもの、青色(緑色)のもの
    例:パクチー、春菊、セロリ、しそ

    うるおい不足

    コロコロ便のタイプ。うるおいと言っても、水だけがうるおいではありません。東洋医学で言う「血」と「水」の両方です。水分を取るのも良いですが、血=栄養のある水分を摂ることも必要。

    ・血を補う食べ物:赤色、黒色の食材、タンパク質
    例:にんじん、なつめ、黒豆、キクラゲ、肉、マグロ

    便秘と肌荒れ

    うるおい不足は、腸の内側や皮膚も同時に乾くようになります。血不足(血虚)は、気の不足(気滞)が生じるため、脾臓の機能が低下します。そのため腸の機能も弱くなります。特に硬い便秘の場合は、肌荒れを伴うことが多くなります。

    腸の機能が弱くなり、便が大腸内に長時間、滞留していると、便の腐敗が進んで悪玉菌が増えてしまいます。この悪玉菌は腸内のタンパク質などを腐敗させ、アンモニアなどの体に良くない物質をつくります。

    これらは、一度体内に吸収され血液を通じて全身を巡ります。そして血液の一部は汗となり、汗に含まれる体に良くない物質が刺激となり、肌あれを起こすと考えられています。

    最新研究で便秘対策

    便秘の改善に腸内細菌に良い食物繊維を摂ることは大切ですが、腸内環境だけを整えても便秘は改善しにくいです。便秘に効く食物繊維には様々なものがあり、水溶性(溶解度)、ゲル状(粘性度)、代謝能力(発酵性)の3つの組み合わせによって便秘にどのくらい効果があるのかが変わります。

    便秘に悩む男女1251人を対象にした研究では、どの食物繊維(ポリデキストロース、イヌリン、ガラクトオリゴ糖、オオバコ(サイリウム)、ペクチンなど)が便秘に効くのかを調べています(メタ分析)。食物繊維量は1日あたり4から40g、試験期間は2から8週間で便秘がどのぐらい改善されたかを調べています。結論は、オオバコ(サイリウム)とペクチン(アップル)の2つの効果が高くなっています。ただし効果を期待するためには1日10g以上となっています。

    また、便秘が常態化している人には、食物繊維がたくさん水を含むものが良く、水を吸って重くなると腸が刺激されて便が移動しやすくなり、排便しやすくなります。水分量が足りなければ、便の重量とサイズが増加しないため、腸が刺激されません。

    実際の研究(便秘患者117人を対象)でも、食物繊維量を増やしたグループと食物繊維を増やし毎日2リットルの水を飲むグループを比較した場合、水を同時に飲むと下剤の使用量が2.5回/週から0.3回/週となっています。数字にすると88%の改善効果であり、このことからも水分を摂ることの重要性が確認できます。

    またお腹の膨満感や便が緩くなる人は、食物繊維の摂取量が少ないことも分かっています。これらのお悩みに対しても、食物繊維と水を同時に摂ることで改善することが示されています。これらからも腸内細菌、食物繊維、水の3つの組み合わせが便秘改善には効果的です。

    便秘には「はり治療」

    便秘にはり治療が良いのは、第一に「便秘体質の改善にアプローチする」からです。そして薬に頼らない改善方法であるため、副作用がなく、体への長期的な影響がありません。長年、薬を飲んでいると体に耐性がつき、薬の効きが悪くなり、薬の量が増えるといった悪循環に悩まされる方には、はり治療は最大のメリットです。長期的な下剤の服用には、発疹、かゆみ、腹痛、嘔吐、めまい、ふらつきなどの副作用があります。また下剤は便を柔らかくするため、定期的な排便周期を乱す原因になります。

    便秘のはり治療では、ツボへの刺激で自律神経が反応する反射(体性―自律神経反射)を利用して治療していきます。なぜなら便秘の方の多くは、副交感神経の働きが低下しており、腸の蠕動運動が不活発になっているからです。つまり副交感神経の働きを高めることで、蠕動運動も活発になり、腸内環境が整っていき、便秘が解消する方向に向かいます。もう少し具体的に言うとツボや鍼の打ち方などを使い分けて、交感神経と副交感神経のバランスを調整して、自律神経の働きをほど良い状態にします。

    このように東洋医学の理論に基づいて、頭体と手足にバランス良く刺鍼し、交感神経と副交感神経の働きを適正なバランスにすることで便秘症状の緩和だけでなく、全身の血流も改善していくため、代謝や内臓機能もよくなっていきます。冒頭で述べた「便秘体質の改善にアプローチする」というのは、陰陽のバランス(交感神経と副交感神経)を整えて、気血の巡りや働きを良くして、体の持つ自然治癒力を高めることがで、様々な症状に根本的にアプローチするのが「はり治療」ということになります。

    便秘に効くツボ

    百会(ひゃくえ):左右の耳の穴を結んだラインと眉間の中心から頭のてっぺんに向けたラインが頭上で交わるところ、頭頂部の真ん中

    「百」のツボの道が「会う」という意味を持つ、様々な症状に効果があるツボ。 緊張を緩和して自律神経を整えてくれるため、便秘以外にも頭痛や眼精疲労、肩こりなど様々な症状への効果が期待できます。

    百会(ひゃくえ)

    曲池(きょくち):肘(ひじ)の関節部分の上側。ひじを曲げた時にできる横シワの先端

    腸の働きを良くし、便秘だけでなく、乾燥肌や肌荒れなども改善します。

    曲池(きょくち)

    過敏性腸症候群

    朝の通勤電車の中でお腹が緩くなってしまう人は過敏性腸症候群もしくはSIBO(シーボ)であるかもしれません。過敏性腸症候群は、腸に炎症や潰瘍といった器質的な病変が認められないにも関わらず、便秘や水溶性の下痢を繰り返ししてしまう病気です。この過敏性腸症候群と診断された人の8割がSIBOであったという研究報告もあります。

    男性患者の場合は下痢症状を伴うことが多く、女性患者では慢性的な便秘症になることが多いのが過敏性腸症候群です。過敏性腸症候群は、その名の通り腸が過敏になっている状態で、ストレスによる刺激により、腸がその刺激に過敏に反応し、症状が深刻化して悪循環を起こしてしまうと考えられています。腸冷えは、過敏性腸症候群の悪化につながるので、腸冷えを招くような食事や生活を遠ざける必要があります。

    SIBO(シーボ)は、小腸内で腸内細菌が異常に増える病気で、様々な腸の病気の温床になることが解明されています。細菌が生み出すガスによって腸内が気泡が溜まり、お腹の張り、便秘、腹痛、下痢などが起こります。そのガスが血中の悪玉コレステロールを増やし、狭心症や心筋梗塞を合併することも知られています。

    SIBO(シーボ)の場合、オリゴ糖やヨーグルトなどはお腹の調子を悪くしてしまいます。本来小腸は、食べ物の消化、吸収がメインに行われていますが、腸内細菌が過剰に増えることで、消化物の残りカスが過剰に発酵して水素、メタンガス、短鎖脂肪酸が大量に発生してしまい、お腹の張りや下痢につながります。つまり過剰に増えた細菌にさらにオリゴ糖やヨーグルトは火に油を注ぐことに他ならないのです。

    他にも「高FODMAP食」と言われる、小腸で吸収されやすく、腸管に残ることで細菌のエサになりやすい食品があります。

     高FODMAP食低FODMAP食
    オリゴ糖納豆、絹ごし豆腐味噌、木綿豆腐、豆乳
    穀類パン、うどん、ラーメン玄米
    野菜玉ねぎ、にんにく、ナッツ類トマト、大根、なす、にんじん、ほうれんそう、もやし
    二糖類牛乳からつくられる乳製品スキムミルク、豆乳、アーモンドミルク
    単糖類ハチミツ、りんご、梨バナナ、ブルーベリー、キウイ、メープルシロップ
    ポリオールキノコ類全般、りんご、梨、シュガーフリーガムに含まれる砂糖使用のアメやガム

    過敏性腸症候群の鍼灸治療

    便秘や下痢が続いたり、おなかに不快感があるのに、検査をしても原因になるような病気は見つからない場合は「過敏性腸症候群」かも知れません。「過敏性腸症候群」は、「慢性下痢型(神経性下痢)」「不安定型(交代制便通異常)」「分泌型」の3つに大きく分けられます。

    いずれも内臓神経が過敏になる状態、つまり極度の緊張や不安などのストレスにより、大腸で蠕動運動を促進する副交感神経が過度に緊張し腹痛症状が現れます。

    いずれにせよ、内臓神経が過敏となる原因が、ストレス、暴飲暴食、過度の飲酒、不規則な生活などによることが多く、食生活や生活習慣の改善を行った上で、ストレスを緩和していくことが必要となります。

    中医学では過敏性腸症候群の解消には頭鍼療法が効果的に作用すると実証されているため、頭の鍼によって、ストレスと腸の両側からアプローチすることができます。

    【本コラムの監修】

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    恵比寿院長

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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