マスクをするようになり食いしばりが増えています。食いしばりによって、頭痛、肩こり、歯がしみる、歯が痛い、不眠、エラ張り、呼吸が浅くなる、姿勢が悪くなる、ストレスなどが症状としてあります。当院に来院される方のおよそ3分の1は歯ぎしりや食いしばり、そして顎関節症に悩んでいらっしゃいます。
歯ぎしりは就寝時に配偶者などからの指摘で気づく人も多いと思いますが、本人も知らないうちに罹患している場合が多くあります。また睡眠中の歯ぎしりに音がしない人の割合が多く、日本人の約7割もの人が歯ぎしりをしているとも言われています。歯ぎしりは放っておくと、さまざまな疾患を引き起こします。
歯ぎしりしている時には奥歯に100kgの力がかかります。その結果、顎の筋肉が極端に発達してお顔にエラ張りに繋がります。また顎関節症を引き起こしたり、歯の根元が割れたり、歯周病が進行するなどの恐れがあり、さらに睡眠の質が悪くなり、眠っても疲れが取れないという悪循環に繋がります。
このように多くの人が悩む歯ぎしりですが、頭の鍼によって改善することができます。
ストレスと浅い睡眠が原因
歯ぎしりは浅い眠りの時に起こることが分かっています。睡眠時は、深い眠りと浅い眠りを交互に繰り返していますが、深い眠りの時には筋肉の動きは抑制されています。眠りが浅くなると抑制がなくなるため、咬筋(頬の筋肉)が動き、歯ぎしりが起こります。
睡眠を浅くする要因(ストエレス、飲酒、喫煙、カフェイン摂取など)の中で、特にストレスが歯ぎしりや食いしばりの原因と言われています。
ストレスを感じると、頭の筋肉が収縮し、血流が悪くなり、硬くなり、それがコリなります。特にコリやすいのが、両サイドのこめかみから耳の周辺の筋肉である側頭筋です。この筋肉は顎の筋肉と連動しているため、歯ぎしりは側頭筋に過大な負荷をかけます。その結果、側頭筋が硬くなり、萎縮し、さらに歯ぎしりがひどくなるという悪循環が起きてしまいます。
東洋医学では、歯ぎしりを噛歯(ごうし)といいます。歯ぎしりは心因的な感情(ストレスなど)が根底にあると捉えられ、五臓六腑の「肝」の不調に関わりがあるとします。この「肝」は神経や感情をコントロールする役割があると考えられており、ストレスなどによりこの「肝」の働きが乱れると感情のコントロールがうまくいかなくなり、不眠、怒りっぽい、焦燥感などの症状が現れます。このような精神的な緊張が筋肉の過緊張を起こす原因になります。
また、自律神経は睡眠の質や筋肉の緊張にも大きく関わっており、特に交感神経が優位になりすぎる状態が続くと、精神的な緊張が全身的な筋緊張を招いてしまいます。
このような精神的な緊張をほぐすことができるのが頭の鍼です。頭の鍼は、自律神経系のバランスを整え、東洋医学的観点から肝、心に関わるツボに刺激を与えることができます。
さらに歯ぎしりや噛みしめ影響による顎や首や肩の筋肉の過度な緊張を解き、顎関節へかかる負担を軽減することができます。また鍼に微弱な電気(パルス)を流すことで鎮痛作用や筋緊張の緩和、血液循環を促すことができます。
現代社会では、肉体の疲れよりも、精神的な疲れや、パソコンやスマホの使いすぎによる疲れが多くなっています。その結果、頭にコリがある人がほとんどです。頭のコリは、歯ぎしりはもちろん、頭痛、肩こり、眼精疲労や睡眠障害の原因となります。これを解消することで、多くの疾患の改善が期待できます。
関節円板(かんせつえんばん)のズレ
顎関節症でも、痛みの原因としては関節円板もしくは筋肉の問題に分けられます。顎関節症の7割近くが、関節円板(かんせつえんばん)のズレによるものと言われています。関節円板は、顎にある靭帯のような柔らかい線維組織です。この関節円板によって上下の顎の骨が直接ぶつかることなくクッションの役割の担い、顎の開閉の動きがスムーズになります。
しかし歯ぎしりの癖がある人は、前後左右に強い力で顎をガリガリ動かすため、関節円板は前にズレます。また噛み合わせが悪い人の場合も同様で、噛んだ力のバランスが悪く、ズレやすくなります。関節円板がズレると顎の骨が擦れたり、ぶつかったりします。また顎関節周囲の筋肉も過緊張を起こし、顎が痛くなったり、口が開かなくなったり、顎から音がするなどの顎関節症の3大症状が現れます。他にも耳鳴りがする方もいらっしゃいます。
さらに、顎関節症による体の不調によって精神的なストレスとなり、睡眠時の歯ぎしりが慢性化し、さらに噛み合わせが悪くなります。また歯ぎしりは咀嚼筋にも負担となり異常が生じます。その緊張が下顎の歪みとなり、それによって頭部が傾き、それを補正するために体がバランスを取ろうとします。その為、その体全体の歪が、体の様々な筋肉の緊張や痛みを起こすことになります。例えば、左右の目の高さや大きさが変わったり、脊椎や骨盤が歪んだり、左右の脚の長さが変わったりします。
何れにせよ、結局は痛みの原因がどこにあるのか、西洋医学と東洋医学の両方の視点から見極めて、鍼灸治療でその原因にアプローチすることが重要です。
副腎疲労が原因
副腎は、腎臓の上についている直径2から3センチの小さな臓器で副腎皮質と副腎髄質の2つの部分に分かれています。このうち副腎皮質からは、ストレスに対抗したり、体を目覚めさせるコルチゾールが分泌され、副腎髄質からはやる気や元気の源にもなるアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されています。
コルチゾールやアドレナリンは、睡眠の質と密接に関わっており、通常私たちは寝ている間何も食べなくても血糖値がコントロールされ、低血糖の状態にならないように体が調整してくれています。そして朝になると副腎から出されるコルチゾールによって覚醒状態に向かうことができます。
しかし副腎が疲れてしまうとコルチゾールやノルアドレナリンが、うまく分泌されず低血糖状態になってしまいます。これが夜間低血糖を引き起こし、次に副腎がアドレナリンなどを大量に分泌させ、悪夢、寝汗の増加、歯ぎしりなどを引き起こす原因となります。
さらに朝になると分泌されるコルチゾールも出ないため、覚醒が起こらず、朝に体がだるい症状がでます。朝にコルチゾールが分泌されない場合、昼間にコルチゾールのレベルが上がってこないため、その代わりに夕方以降にコルチゾールの分泌が増えます。夜にかけてアドレナリンやノルアドレナリンが増加していくと寝る時間になっても寝付きが悪く、中々寝れなかったり、夜に不安感に襲われたりしてしまいます。
このような状態は、うつ病と症状が似ています。副腎疲労の初期段階は、ストレスに対処するためコルチゾールの分泌が多くなり、この状態ではコルチゾールが多く分泌され、アドレナリンやノルアドレナリンも多く分泌されるため、やる気になっている状態になります。
第 2段階では、免疫機能にも関係しているコルチゾールが少なくなるため、疲れやすくなり、体調を崩しやすくなってしまいます。そして最終段階に進むとやる気も起きなくなり、うつ病に近い状態になってしまいます。そして一度副腎疲労になってしまうと回復も難しくなってしまいます。
歯ぎしりの改善
歯ぎしりの原因は顎に老廃物が溜まって、その老廃物を押し出そうとして夜中に強く噛むことが原因の一つだと言われています。この老廃物を流すためには、毛細リンパ管を開いてあげる必要があります。またコリで筋肉が固まると、血流が滞り老廃物が溜まり、新陳代謝が悪くなるという悪循環に陥ります。
この老廃物を流す簡単な方法は、耳を回しながら顎を動かすことです。食いしばりで力が加わっているとリンパ管は閉じて流れなくなっているため、顎を動かして関節によるポンプ作用でリンパを流すことができます。また耳の裏には「ファイシア」という体全体につながる部位があります。
「ファイシア」は、真綿のような繊維状の物質で、体の骨や筋肉、血管、臓器の間にあり、ほぐして刺激してあげることで、ファイシアが元の場所に戻ろうとして、それにくっつく筋肉も元の場所に戻り、歯ぎしりが解消されます。さらに耳たぶに迷走神経耳介枝という副交感神経の枝があり、そこを耳たぶを回してあげることで刺激することができ、自律神経を整える効果も期待できます。
頭の鍼では、鍼の刺激によって血流が促進されると、咬筋をはじめ、それと連動する側頭筋もほぐれ、溜まっていた老廃物が流れます。結果、血流が改善され食いしばり・歯ぎしりの改善が期待できるのです。
ストレス解消効果のある物質
イミダゾールペプチド
歯ぎしりの原因となるストレス解消効果がある物質には「イミダゾールペプチド」があります。この物質は、渡り鳥の羽を動かす胸肉の部分に多く含まれている物質です。渡り鳥は長距離を飛行しますが、なぜ長い距離を疲れずに飛べるのかという疑問を発端にして見つかったのがこの物質です。
研究によって渡り鳥の胸肉の部分にイミダゾールペプチドが多く存在し、これが疲労の原因である活性酸素を抑えていることが分かりました。イミダゾールペプチドは強力な抗酸化物質で1日200mgのイミダゾールペプチドを2週間取り続けると抗疲労効果が表れるということが分かっています。
このイミダゾールペプチドが豊富に含まれているのが鶏の胸肉です。胸肉100gで200mgのイミダゾールペプチドを補給できます。また他にもカツオやマグロなどの回遊魚にも多く含まれています。
タウリン
イミダゾールペプチド以外でストレス解消効果のある物質に「タウリン」があります。タウリンはミトコンドリアの機能を改善してくれるのに加えて 肝臓の機能も改善する物質です。
例えばシジミにはタウリンが豊富に含まれおり、肝臓の機能を高めてくれるため、二日酔いに効くと言うことが知られています。また肝臓の機能が上がると解毒機能も高まり、体に蓄積した毒素の解毒にもつながります。
他にもタウリンが豊富な食材には、牡蠣、あさり、ホタテ、ハマグリなどの貝類、あるいはタコ、イカ、アジ、サバ、鰹などの魚類に含まれています。
クエン酸
私たちが活動するために必要なエネルギーは、ミトコンドリアの中にあるクエン酸回路という場所で作られています。クエン酸回路という名前の通り、クエン酸が多ければ多いほどエネルギーも多く作ることができます。クエン酸が疲労回復によく効くと言われているのはこのためです。
この「クエン酸」が多く含まれているのがレモンです。疲れがなかなか取れないとか、疲労を素早く回復させたいと思うのであればレモンを積極的に摂取すると良いでしょう。そしてレモンには疲労回復だけでなく、他にも体に良い様々な成分が多数含まれています。例えば食物繊維はクエン酸とともに善玉菌の餌になるため、腸内環境を良くする効果があります。またレモンに含まれるエリオシトリンというポリフェノールには、脂肪燃焼効果があると言われています。
一方で日常的にレモンを摂っている人はアディポネクチンというホルモンの値が高いという研究結果もあります。またレモンに含まれているビタミンCには 抗酸化作用があり、体内の活性酸素を除去し、細胞へのダメージを防ぐことができます。さらにビタミンCは免疫システムをサポートし、風邪や感染症の予防に役立つということも分かっています。
また、レモンの香りにはリラックス効果があり、ストレスや不安を軽減することができます。これはレモンの香りに含まれるリモネンという成分が、脳内のセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質に影響を与えてリラックス効果をもたらしてくれるためだと考えられています。実際にいくつかの研究によって、レモンの香りによるリラックス効果やストレス緩和効果が示唆されています
【本コラムの監修】
・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。