
炎症とは、傷や感染、アレルギーなどの反応によって、その影響を受けた場所が赤く腫れて熱を持ち、痛みを感じたりする状態です。しかし炎症はなくてはならない生理反応で、例えば病原菌、毒素、外傷が体にストレスをかける時、短期的に起きる炎症は、体を守るために重要な機能です。
怪我をすれば、体内で血液や白血球が怪我をした部分に押し寄せ、修復作業を始めます。傷を直すために一時的に急性の炎症が起こりますが、問題となるのが慢性に起こっている炎症です。なぜ問題になるかは、脳が体内の炎症から悪影響を受けることが分かっているからです。
慢性炎症対策が大事な理由
2016年、慶應大学医学部のチームが高齢者(日本に住む85から110歳1554人)を対象とし、血液検査で全員の肝機能や細胞の劣化といった老化の指標をチェックしたところによると、一般的な高齢者に比べて体の炎症レベルが低いことが確認されています。この結果から、健康的に年を取るには「炎症対策」が最も大事なことであることを示していると結論づけています。
その他の研究でも、慢性炎症は糖尿病、心臓病、肥満などの増加に関連していることが明らかになっており、腸の不調、ガン、アトピー性皮膚炎、花粉症、気管支喘息など様々な病気にも関連していることが分かっています。
特に近年、うつ病は心の問題と考えられてきましたが、うつを発生させる直接的な原因はストレスといった心の問題ではなく、体の中で起こっている慢性炎症であるという根拠がいくつも示されるようになってきています。うつは現在では、脳内で起こる慢性炎症が原因であるということが有力な説になりつつあります。つまりメンタルが弱る、メンタルが不調というのは、脳の慢性炎症が大きく関わっていることが考えられます。
また、慢性炎症は病気だけでなく老化を加速させることも分かっています。一方でなんとなく体調が悪いやいつも疲れているなどの謎の不調の背景にも慢性炎症が大きく関わっていることが約5万人を対象にした調査で明らかになっています。
慢性炎症で老化する
アンチエンジングのためには、体の酸化を防ぐ必要であります。この参加の原因が細胞の炎症です。私たちの体を構成している37兆個の細胞は、細胞膜によって 包まれており、炎症とはこの細胞膜に傷ができた状態のことです。細胞膜が傷ついてしまうと、細胞内に大量の活性酸素などのフリー ラジカルが進入して、体を錆びつかせて、老化が進んでしまいます。
この細胞の炎症を引き起こしているのが慢性型のアレルギーです。牛乳や卵アレルギーというのは、すぐにアレルギー反応が起きて、体中が痒くなったりする急性型のアレルギーです。一方で問題なのは、慢性型アレルギーです。慢性型アレルギーは、急性型アレルギーのように、すぐにわかりやすい症状が現れるわけではなく、なかなか気づきにくいという問題があります。
慢性型アレルギーは、特に腸の炎症を引き起こし、細胞膜の炎症によって酸化が進んだり、細胞内に栄養が届きにくくなります。最悪、細胞膜を傷つけて癌の原因になることもあります。
どうすればなかなか自分では気づきにくい慢性型アレルギーを引き起こす食べ物を特定するために、自分の体の声にしっかりと耳を傾けることです。例えば、食べたものを全部書き留め、体がだるいとかなんとなく気持ちが悪いといった感覚があった時に、数時間前に自分が何を食べたのかをチェックすればある程度判断できます。他にも、世間では一般的に良いとされている健康法が、自分には合わないなとか、自分に合った健康法がわかるようになります。私たちには一人一人個人差があり、一般的に良いとされている方法であっても、自分には合わないというケースが結構あります。
体調不良と慢性炎症レベル
体内の炎症が、学習能力、記憶力、注意力などの脳のパフォーマンスを下げることが証明されています。例えば多数の研究で、炎症を起こす物質を注入されたマウスが、学習記憶を司る脳の部分で認知能力が低下することが示されています。しかも炎症を注入した場所は脳ではなく体でも同じような反応が起こっています。つまりどんな炎症も認知力低下につながることを示しています。
例えば、なんだか調子が悪い、よく寝たはずなのに疲れが取れないといった謎の体調不良は、体の中の炎症反応が原因かもしれません。これを裏付ける研究として、2017年にカロリンス研究所のチームが行なった約5万人を対象にした研究によると、謎の体調不良を抱えている人は体内の炎症レベルが高かったということが報告されています。
慢性炎症を引き起こす否定的な感情
悲しみや怒りなどの否定的な感情は、免疫系の機能を損なう可能性のある体内の炎症レベルの上昇に関連していることが研究で分かっています。この研究は220人の被験者を対象に行われ、研究者は2週間にわたって被験者の感情を追跡しました。その結果、被験者の否定的な気分が蓄積されるほど炎症レベルが高くなることが示されました。
一方で、ポジティブな感情は炎症レベルの低下に関連していましたが、ただし低下したのは男性のみで、女性には優位な差は見られなかったことが挙げられます。ここで示唆されているのは感情はコントロールがある程度可能であることです。例えば怒りを感じても、受け流すことができれば炎症を低下させることができます。実際の研究でもネガティブな物事に直面しても、落ち着いたり、元気だった人は炎症リスクが低いことも分かっています。
つまり、言い換えればストレスそのものが問題ではなく、ストレスに対する反応であるため、その捉え方を変えたり、受け流したりすることができれば炎症のリスクが減ります。
感情と炎症の関係を理解するための追加研究が進められており、それが健康を広く促進し、慢性的な炎症、障害及び病気を予防することが将来可能になると予想しています。
ストレスと慢性炎症
まず考えられる原因の一つが腸内環境の悪化です。腸管内膜は、細菌や病原体、毒素などが腸管から血液に侵入することを防ぐバリアの役割があり、そのバリアが損傷するとリーキーガットと呼ばれる減少を引き起こします。この腸管内で長期的に炎症反応が起こると体中に様々な不調が表れます。
また、夏場の炎天下における熱さによるストレスによっても体内の炎症が起こります。熱さによって放熱を促進するため、胃や腸管、そのほかの内臓での血流が減少し、皮膚へより多くの血液を循環させようとします。血流の減少は、酸素量と腸粘膜上皮細胞で利用可能なエネルギー量の減少につながり、その結果リーキーガットを引き起こし、その結果毒素や病原体が血流へ侵入してしまいます。
その他には、加工食品やジャンクフードなどの食生活によっても体内の炎症は引き起こされます。もちろん睡眠不足もです。
さらに現代人にとって必須のツールであるインターネットや人工照明が炎症を引き起こすこともよく知られています。その理由は、特に夜間にこれらから出る光が人の体内時計を狂わせ、睡眠リズムを乱し、炎症から体を回復させる睡眠を妨げるからです。ある研究では毎晩6時間以下の睡眠で1週間過ごした場合、炎症や免疫系、ストレス反応に関連する711個の遺伝子の発現に影響が出たことが報告されています。
そして、内臓脂肪過多の状態も慢性炎症の原因になると考えられています。余分な内臓脂肪からは炎症物質が分泌され、内臓は毛細血管に近く、その炎症物質が血液を通じて全身を巡り、体内のどこかに落ち着くことが繰り返されると慢性炎症の原因となってしまいます。
糖質過多で慢性炎症
体の痛みの原因として、体内で処理できないレベルの糖質過多になって炎症反応が生じているケースがあります。
通常、皮膚や髪だけでなく、骨や筋肉、それをつなぐ腱などの細胞は、毎日細胞分裂をして新しく生まれ変わっています。しかし糖質過多になると、体内のたんぱく質や脂質と糖とが結びつき、変性する「糖化」が起こります。つまり糖を取り過ぎると、たんぱく質と結合し、筋肉や血管などの体の大部分を変質、老化させることになります。その結果、筋肉や血管は、硬くなり伸びが悪くなります。その他にも、慢性炎症による症状の一例として以下が挙げられます。
- 首肩こり
- 倦怠感
- 血管の病気
- うつ症状
- 免疫力の低下
そもそも糖質とは炭水化物の一種であり、糖質+食物繊維の総称です。精製された炭水化物よりも、玄米や全粒粉パンなどの精製されていない炭水化物を食べましょうというのは、白米などの精製された炭水化物は、食物繊維が除去されてより糖質に近くなっているからです。一方で精製されていない炭水化物は、食物繊維が残っているため、それが血糖値の上昇を抑えてくれます。
慢性炎症は、一過性の炎症反応が長期間持続して慢性化した状態で、生体組織の構造に異常が生じて様々な疾患の原因になります。慢性的な炎症がある状態とは、継続して体が攻撃を受け続けている状態で、体の免疫システムが戦い続けている状態でもあります。結果として、白血球が臓器や組織まで攻撃して全身の機能が下がっていくと言われています。
一例を挙げると、心臓病、癌、クローン病、糖尿病、関節炎、潰瘍性大腸炎などの腸疾患に関係していることが明らかになっており、また動脈硬化を加速させることも分かっています。
また、慢性炎症はうつ病などのメンタル疾患を引き起こすとも考えられており、慢性炎症によってサイトカインとう炎症性の物質が分泌されて、それが脳に悪影響を与えるという説があります。
慢性炎症を抑える方法
慢性炎症を抑える効果的な方法が運動です。運動をすることで筋肉から生理活性物質であるマイオカインが分泌されて、これによって炎症が抑えられることが分かっています。ただし過剰な運動は逆に炎症を増加させることがあるため、何事も適度に行うことを意識してください。
運動を継続するのが難しい場合は、エキストラバージンオリーブオイルを食事で摂取することが簡単にできる効果的な方法です。研究によるとオリーブオイルに含まれる一価不飽和脂肪酸は体内の炎症を引き起こすインターロイキン-6や腫瘍壊死因子などの炎症マーカーの作用を減らす効果が分かっています。具体的には30件の研究を分析したメタアナリシスによってオリーブオイルを毎日摂取することによって炎症マーカーであるC反応性タンパク質とインターロイキン-6が減少することが分かっています。
また、オリーブオイルに含まれるオレオカンタールという物質は、強力な天然の抗炎症効果があり、炎症を抑えるために用いられるイブプロフェンという薬と同じ作用が確認されています。オレオカンタールは副作用のない誰でも簡単に摂り入れることができる天然の抗炎症剤です。一方でオリーブオイルが炎症を引き起こす遺伝子タンパク質をブロックするのではないかと考えられています。
オリーブオイルの選び方
日本で販売されているオリーブオイルにはエキストラバージンオイルとピュアオイル(オリーブオイル)があります。この違いはオリーブオイルを圧搾してオイルを絞り出すはじめのものがエキストラバージンオイルで、何回も圧搾して絞り出したものがピュアオイルです。選ぶべきオリーブオイルはエキストラバージンオイルで、オリーブの実を圧搾してろ過しただけの生のオイルです。化学的な処理が加えられていない非常に品質が高いオリーブオイルであり、含まれるポリフェノールの抗炎症能力が比較にならないほど高い効果があります。
注意しなければならないのは、スーパーに並ぶエキストラバージンオイルのほとんどが国際的な基準に合致していません。その理由は世界と日本で基準が異なるからです。この国際的な基準は大変厳しく、日本は独自の基準でエキストラバージンオイルと名乗ることが可能で、国際的な基準未満のものであっても、日本ではエキストラバージンオイルとして売られているのが実情です。そのため国際基準を満たしているかどうかを確認する必要があります。
オメガ3系オイルの健康効果
オリーブオイルと同様に炎症を抑える効果が確認されているオイルがオメガ3系オイルです。具体的には亜麻仁油、えごま油、クルミオイル、チアシードオイルが挙げられます。
オメガ3系オイルの健康効果については、既に膨大な医学研究があり、よく知られた内容としては、オメガ3の摂取量を増やしたことで心臓発作による死亡率が70%低下した研究があります。
オメガ3系オイルは、炎症性エイコサノイドやサイトカインなど炎症に関連している物質を減らしてくれることが確かめられています。ただしオメガ6系オイルは逆に炎症を引き起こすので注意してください。オメガ6系オイルの代表は、サラダ油、コーン油、大豆油、ゴマ油で、値段が安く、様々な加工食品や外食産業で使われているため、摂りすぎないようにしましょう。
一方で、オメガ3系脂肪酸を定期的に摂取している人は不安神経症やうつ病になる可能性が低くなることも示唆されています。なぜこのような効果が現れるかハッキリと結論は出ていませんが、オメガ3系脂肪酸が、脳内のセロトニンおよびセロトニン受容体に影響をもたらすことが理由ではないかと推測されています。また脳の炎症を抑えるためうつ病などの症状が改善するのではないかと考えられています。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。