睡眠の新常識

    睡眠の新常識

    早起きは一般的に健康に良いとされていますが全ての人にて適用されるわけではありません。むしろ無理に睡眠習慣を切り替えると体が悲鳴を上げて体調を崩こともあります。自分に合わない睡眠習慣は心身ともにストレスを感じ、老化を促進させることになります。睡眠のことについて誤解していることが多くあるので、一緒に考えましょう。

    睡眠体質に関して

    睡眠を取る時間帯、睡眠に必要な時間は個人で違っていて当たり前です。なぜなら先天的に睡眠の体質は決まっており、後から変更することは難しいと言われています。人間の体内時計は約24時間のリズムで動作しており、これをサーカディアンリズムと呼びます。サーカディアンリズムは基本的には太陽と連動しており、遺伝子やホルモンレベル、環境因子によって調整されます。

    睡眠体質には朝型、昼型、夜型の3 タイプがおり、朝型の人は朝の光に敏感で覚醒ホルモンであるコルチゾールの分泌も朝にピークを迎えます。これに対して夜型の人は、夕方以降に活動的になることが多く、睡眠ホルモンの分泌も遅くなる傾向があります。昼型の人はその中間で真夜中からコルチゾールの分泌が活発になります。この3タイプは、それぞれ覚醒ホルモンと睡眠ホルモンの分泌されるタイミングが違います。

    早寝早起きができない人は生活習慣が乱れていると思い込んでいる方がいますが、もちろん遺伝や体質が睡眠リズムに影響を与えることは確かですが、自分に合っていない睡眠リズムでも長年続けて固定化させればある程度体が慣れてくることもあります。

    自分の睡眠体質を理解するには、自分の体内時計の設定を把握することが大事です。そのため1週間ほど自然な状態で生活して、眠くなる時間や目が覚める時間を記録してみるのもようでしょう。体内時計は一貫性を好むため、1週間の記録データを平均すれば自分の睡眠リズムが分かるはずです。

    そして、必要な睡眠時間に関しても体質で変わってきます。一般的なガイドラインでは、成人が1日に必要とする睡眠時間は7から9時間とされていますが、これはあくまで一般的な数値であり、人によってはこの範囲外で健康を維持できる場合もあります。

    ちなみにショートスリーパーと呼ばれる人は、少ない睡眠時間でも健康を保て 遺伝子を持っています。ショートスリーパーの人はDEC2と呼ばれる遺伝子に変異があることが多く、この変異を持つ人は2から6時間の睡眠でも日中のパフォーマンスが低下しないとされています。

    逆にロングスリーパーと呼ばれる人は毎日9時間以上の睡眠を必要とする体質をしており、ロングスリーパーの場合は複数の遺伝子による影響を受けて脳のエネルギー消費量が多く、その回復プロセスに時間がかかる人はロングスリーパーの傾向が強くなります。睡眠は脳の細胞を修復し、神経伝達物質のバランスを取り戻すために必要なため、ロングスリーパーは高度な知的活動を行う人に結構多い体質だと言われています。

    睡眠知識の誤解

    寝貯めで体のコンディションが整う

    短期間の睡眠不足を後で長時間の睡眠で補おうとする行為が寝貯めです。例えば3日連続で睡眠不足だから今日は13時間睡眠を取ろうというやり方です。仮に13時間1度も起きずに眠れたとしても、3日分の寝不足をチャラにすることはできません。

    人が眠る時には、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返されており、そのリズムは約90 分で1サイクルです。そして個人ごとに身体の修復に必要なサイクル回数は決まっており、平均的に4から6回程度サイクルが繰り返され、体全体のリカバリーが完了します。

    もし体全体のリカバリーに4サイクル必要な人であれば、6時間の睡眠時間で足りるし、それ以上睡眠時間を取ったとしてもレム睡眠とノンレム睡眠のリズムが崩れ、睡眠の質が低下します。つまり人間の体は睡眠時間を長く取れば取るほど回復するわけではなく、それどころかロングスリーパーでもないのに長時間睡眠を取るとサーカディアンリズムが崩れることになります。

    例えば、週末に寝貯めをすると次の週の平日に早く起きるのが困難になることが多くなり、疲れは十分に取れないし、睡眠リズムが崩れ、起きたい時に起きれなくなります。睡眠不足で心身ともに疲弊している時は、もちろん眠りたいだけ眠った方が良いですが、長時間睡眠を取ったからと言って体が全回復するわけではありません。

    イメージとしては3日間寝不足が続いたなら3日間規則正しい睡眠を取る、これでやっと睡眠不足を解消できる可能性が出てきます。完全に体のコンディションを取り戻したいなら1週間程度、規則正しい睡眠を取る必要があるのです。睡眠不足になっている時は、長時間睡眠を取ることよりも早く、元の睡眠リズムに戻すことが大事です。

    誰でもショートスリーパー

    起きている時間が長いと活動時間も長くすることができ、有限な時間を睡眠時間に割くのはもったいないと考えるビジネスマンも少なくありません。しかしショートスリーパーは後天的になれるものではなく、特訓をすれば誰でもショートスリーパーになれることはありません。

    一般的な人がショートスリーパーになろうとすると体質的に合わないのは当然であり、そもそも短時間睡眠で体をリカバリーできる遺伝子を持っていません。 徐々に睡眠時間を短縮していったとしても、リカバリー能力が上がるわけではなく、一般的な人がショートスリーパー目指したら、ただの寝不足になるだけです。ただし精神的なショックやトラウマが原因でショートスリーパーになるケースもあります。

    精神的なショックやトラウマは、自律神経やホルモンバランスに影響を与えることがあり、これが睡眠パターンにも影響を及ぼし、脳の覚醒時間が長くなることがあります。ショートスリーパーになるには遺伝子や自律神経ホルモンの状態を大きく変える必要があり、健康的な人がわざわざそれを目指す必要はありません。

    短時間睡眠に切り替えても生きてはいけますが、長期的には健康を害する可能性が高く、身体機能の低下、思考力の低下はもちろん体がエネルギー不足になり、食欲が増し、食べる量が増え、肥満になる可能性が高まります。さらに睡眠不足な生活を固定化してしまうと将来的には糖尿病や認知症のリスクを高めることになります。

    寝る前に部屋を温める

    寝る前に部屋を温めると睡眠の質が上がるという考え方が一般的に受け入れられていますが、これも間違った睡眠情報の1つです。人間の体温はサーカディアンリズムと連携しており、光、温度などの外部環境に影響を受けつつ、1日の中で体温やホルモン分泌睡眠などを調節しています。

    昼間に活動し、夜間に休むというサイクルは、人間が長い進化の過程で獲得したものです。日中に活動するために体温を上げ、夜には体温を下げて深い睡眠を促すように働きます。もちろん睡眠体質によっても変わりますが、活動時に体温を上げ、睡眠時に体温が下がるのは同じです。この自然なサイクルを無視して睡眠時に部屋を温めると体が昼間の活動時間と勘違いしやすくなります。

    体温を下げて睡眠に入る準備をしたいのに外部の影響で体温を下げることができないという状況になると、その結果自然な体温サイクルが乱れ、睡眠ホルモンの分泌量が抑えられてしまい、眠気がなかなか来なかったり、深い睡眠に移行しにくくなったりします。

    特に体温が下がらないとレム睡眠への移行が難しくなります。ノンレム睡眠は体の修復や翌日の活動に必要なエネルギーを蓄えるなど多様な役割を果たしています。つまり体温が適切に調節されないと睡眠の質全体が低下してしまう可能性が高くなります。

    もちろん気温の低い季節や風を引いている時は暖房をつけて部屋を温かくした方が良いですが、部屋の温度を温めすぎるのが良くありません。睡眠に適した室温は18から25℃です。ちなみに18℃以下の寒すぎる部屋で眠ろうとするのも問題です。

    部屋が寒すぎると体は体温を維持しようとしてエネルギーを消費します。その結果、体はリラックスできず、睡眠の質が低下する可能性が高くなります。寒さで足元が冷えたり、体が震えたりするとそれが原因で目を覚ましてしまうこともあります。いずれにせよ温かすぎても冷えすぎていても睡眠の質を低下させることになります。

    スヌーズ機能で起きるとストレスが少ない

    数分起きに何度もアラームが鳴る、スヌーズ機能で起きるとストレスが少なく なると考えられがちです。これはむしろ体にかかるストレスを増大させる原因になります。人間の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返される90 分サイクルですが、スヌーズ機能を使って何度も起きたり寝たりを繰り返すと、この自然な睡眠サイクルが中断されます。

    その結果、ストレスホルモンが大量に 分泌され、心身ともに負荷がかかります。さらに短い時間で何度も目を覚ますと寝ぼけ状態が続き、完全に覚醒するのに時間がかかります。この寝ぼけ状態は、特に深いノンレム睡眠から突然起きた場合に顕著に現れます。

    スヌーズ機能に頼ることでもう少しだけ眠れるという安堵感が得られるかも しれませんが、その反面すぐにアラームが鳴って起こされるという緊張感が続くような精神的な矛盾がストレスを生み出し、起床後もその影響を受けやすくなります。良い睡眠を確保するためには、スヌーズ機能に頼らず1度のアラームで起きる習慣をつけることが大事です。

    アルコールを摂取するとよく眠れる

    アルコールは一時的に眠気を強くする効果はありますが、睡眠の質自体は低下 させることが分かっています。アルコールが体内に入ると神経伝達物質やホルモンバランスに影響を与え、その結果レム睡眠が削減され、睡眠の質が低下します。レム睡眠が減少すると心理的な回復が十分に行われず、イライラや不安を感じやすくなります。またアルコールは睡眠サイクル全体を乱し、睡眠中に中途覚醒を起こすことも多くなります。

    アルコールは主に肝臓で分解されますが、この解毒作用も体に負担をかけ、良質な睡眠が得られにくくなります。しかも肝臓は深夜に解毒作用が最も活発になる特性を持っており、アルコール分解のために深夜に肝臓が活発化するとその影響で睡眠の質が低下します。

    また、アルコールには血管を拡張させ、体温を変動させる作用もあるため、体温が安定しないと自立神経が乱れ、深い睡眠に入ることが難しくなります。さらにアルコールには利尿作用があり、脱水状態を引き起こすことがあります。脱水は疲れやだるさを残しやすく、水分が不足すると血液がドロドロとして流れにくくなり、これが酸素や栄養素の効率的な運搬を妨げ、結果として筋肉や内臓に必要なエネルギーが供給されず、疲れやだるさが生じやすくなります。

    この脱水状態は睡眠の質を低下させるだけでなく、頭痛の原因にもなります。体内の水分が減少することで血圧が変動し、脳への血流が減少するからです。アルコール摂取後の脱水症状の頭痛で睡眠が中断されることも多くなります。基本的には、寝る3から4時間前までにはアルコール摂取を控え、平均的な成人女性であれば1時間に7から10gの純アルコールを代謝できるとされているので、3 から4時間を目安にすると多くの人がアルコールをある程度代謝できるはずです。

    睡眠の新常識

    最適な睡眠には室温25℃にする

    大切な睡眠の質をアップするために様々な工夫を施している方も多いことでしょう。しかし光や音と同じぐらい大事なのに多くの人が見落としていることがあります。それは寝ている時の部屋の温度です。実は寝ている時の部屋の温度は、睡眠の質を大きく左右するだけでなく間違った温度で寝ると脳が老化することが分かってきています。

    寝る時の室温が 26℃以上の場合、脳は非常に高い認知症のリスクに晒されています。私たちの脳は、比較的涼しい環境が最も適しています。私たちの脳は、発熱量が非常に多いことが知られており、なぜなら脳は起きている間フル活動し続けているからです。パソコンやスマホというのは使い続けているとだんだん熱くなってきますが、これは内蔵されているコンピューターがフル回転するためです。

    このように働きすぎて熱くなってしまったコンピューターを冷すには、スマホやパソコンの電源を切って休ませてあげる必要があり、それと全く同じ理屈で起きている間に熱くなってしまった脳を冷やすには、睡眠を取ることが必要になります。しかし暑い部屋で眠っても脳は冷えることがなく、むしろ発熱し続けて寝ている間にも脳が全く休まらなくなってしまいます。

    そして私たちの脳細胞はそのほとんどがタンパク質と脂質でできています。そのため、お肉を焼くと茶色くなって2度と元の生肉には戻らなくなるようにタンパク質は硬くなり、油は溶けて流れ出てしまいます。暑い場所で眠り続けた脳もお肉と同じで硬くなったり溶けてしまったりします。その結果、脳細胞が休まらないばかりか2度と元に戻らないところまで破壊されて認知症の原因になります。

    脳は記憶だけでなく、体や内臓の動きホルモンなどあらゆることをコントロールしており、暑い場所で寝て脳の機能が落ちてしまうことで、身体活動にも支障が出てしまうようになります。例えば朝、体がだるかったり、体が重くて全然起きられない、寝覚めが悪いことなどが起きてしまいます。

    脳にとっての最適温度は、25℃と言われています。しかしエアコンをクールビスで27℃ぐらいの高めの温度に設定して眠っている方もおり、確かに27℃ぐらいは体にとっては快適ですが、脳にとっては温度が高すぎます。そのため氷枕などで頭だけ冷やせば良いと思われるかもしれませんが、実は外側から頭を冷やしても脳の奥まではきちんと冷えてくれません。

    私たちの体には脳の奥を冷ますために役立つ穴が鼻の穴です。鼻の穴の奥は、脳の奥の方に非常に近い部分に接しており、一方氷枕で冷やすおでこや後頭部とは脳の奥の部分からは遠くなります。つまり寝る時に室温を25℃にすることで頭の外側の鼻から冷たい空気を脳に送り込んで、しっかり脳の奥まで冷やすことが可能です。さらに匂いを感じる神経である嗅神経が直接脳に繋がっていることもまた、鼻の穴と脳が近い位置にあることの証しです。

    さらに重要なことは、鼻の穴と接しているの深い部分は、自律神経や記憶、感情などを司っている大切な部位です。私たちの脳は大きく分けて脳幹、大脳辺縁系、大脳皮質の3つに分けることができます。そしてこれら3つは大脳皮質が大脳辺縁系を包み込むように、さらに大脳辺縁系が脳幹を包み込むようなイチゴ大福のような構造をしています。そして重要なのはこれら3つのそれぞれの役割が異なることです。

    脳幹は生命維持を、大脳辺縁系は動物的な本能を、大脳皮質は人間的な社会性や理性を司っていると考えられています。これら3つの脳のうち、私たち現代人が最も不調をきたしがちな脳が大脳皮質です。なぜなら大脳皮質は、これら3つのうち最も軽視されがちな脳だからです。脳幹はなければ死んでしまうため、優先的に血液や酸素が供給されます。

    一方で、大脳皮質は意識や理性が宿る場所のため、疲れた時に意識的に休ませることができます。また最も外側にあるため疲れたら氷枕で冷やすこともできますが、脳幹は自律神経や感情など私たちが意識的にコントロールできない機能が密集しています。そのため脳幹が悲鳴を上げているにも関わらず、酷使し続けてしまいます。その最たる例がストレスです。

    鼻の穴と接している脳の深い部分は、自律神経や記憶、感情などを司っている部位ですが、私たちはストレスを感じると感情が高まり、自律神経が興奮し、嫌な記憶が呼び起こされて不快感を受けます。運動のような軽いストレスによって適度に脳幹を刺激してあげることは良いことですが、私たち現代人の問題は24時間365日いつでもどこでもストレスを感じ続けていることです。ストレスを感じ続けることで常に脳幹が活性化した状態になり、24時間ずっと交感神経が優位な状態になります。交感神経が高まれば筋肉がこり、血管が収縮して血圧が上昇します。つまり高血圧や糖尿病といったあらゆる生活習慣病を引き起こす原因になってしまいます。

    このように常に興奮し続けている現代人の脳幹を休ませる唯一の時間が睡眠です。睡眠中は外界からのストレス刺激がシャットダウンされ、当然脳幹は活性化しないはずです。しかし、私たち現代人の脳は寝ている間にも活性化し続けており、その原因こそが脳の熱です。スイッチを切ったとしても脳幹は、しばらくは余熱によって興奮し続けます。これを冷ましてあげるために必要なのが鼻から吸い込む冷たい空気です。

    この冷たい空気がないと脳幹は寝ている間にも興奮し続け、交感神経が高ぶり続けることとなります。その結果、睡眠は浅くなり、筋肉や血管もこわばったままのため体も休まりません。こうして翌日にストレスや疲れが持ち越され、どんどん疲労が蓄積して寝ても疲れが取れないといった状態になります。

    短い昼寝が脳のパフォーマンスを高める

    短い昼寝は神経伝達物質のバランスをリセットする効果があります。特にアデノシンという神経伝達物質は睡眠と密接に関連し、起きている間に蓄積されるアデノシンが多くなると中枢神経系は抑制され、疲れを感じやすくなり脳のパフォーマンスが低下します。そのため夕方や夜になる頃には脳は疲弊し、思考や判断力が落ちることになります。

    脳を使うとアデノシンが蓄積され機能が落ちますが、実は午後に短い昼寝を挟むとこれが解消できることが分かっています。短い昼寝は20から30分睡眠のことを指し、午後20から30分睡眠の昼寝を取ると脳の疲れを回復させることができます。

    最近は、短い昼寝を職場で推奨もしくは義務化している大手企業も少なくなく、例えば Google本社にはナップPodと呼ばれる特別な昼寝用のチェアが設置されています。従業員が短時間で効果的な休息を取れるように設計されていて、多くの従業員が利用しています。

    自分にあった枕や敷布団を使う

    例えば高さが合っていない枕を使っていると肩こりやいびきをかく原因になり、疲労が残りやすくなります。マットレスや敷パッドの硬さが合っていないと寝返りが打ちづらくなって睡眠の質が下がります。

    特に体を預けるマットレスや敷布団は体重や寝返りの頻度、寝姿勢の好みで合う、合わないがあります。フカフカの柔らかい布団は気持ち良いですが、体が沈みやすいため合わない人は腰に負担がかかります。

    実際、寝具による肉体の疲労回復度は、布団メーカーとして有名な西川が研究をしています。既製品の寝具を使った睡眠と自分の体に合わせたオーダーメイドの寝具を使った場合、肉体的精神的な疲労を数値化して比較すると明らかな結果が出ました。自分の体にあった寝具で寝ると前日の疲労回復はもちろん、翌日の疲れにくさも実感できたことが分かっています。

    ただし、良質な睡眠のために高額なマットレスや枕が売られており、確かにマットレスなしで寝るよりはマットレスがあった方が睡眠の質は上がるかもしれませんが、高いマットレスを買えば必ずしも睡眠の質がアップするというわけでもありません。硬さや弾力が異なる数種類のマットレスを用いて睡眠の質を計測した実験では、睡眠の質になんと優位な差がないことが報告されています。もちろん体に合ったマットレスを選ぶことが重要なことには変わりません。

    ベッドカバーや枕カバーにこだわる

    肌に直接触れるカバーの品質は非常に重要です。実はオキシトシンは、人の肌の触れ合いだけでなく、触り心地の良いものに触れるだけでも分泌されることが分かっています。このオキシトシンは安心感を促して睡眠の質をアップしてくれるため、肌触りの良い、心地良いと思えるカバーに変えることが大切です。

    また美容という観点では枕カバーも重要です。枕カバーは寝ている間、常に私たちの顔の皮膚が触れている部分のため、肌に刺激を与えない良質な素材のものを選ぶと良いでしょう。

    耳栓やアイマスクを使う

    アメリカの研究によると耳線やアイマスクを着用して寝ることで、血液中のメラトニンレベルが上昇することが分かっています。メラトニンは睡眠ホルモンとも呼ばれ、体内時計の調節や快適な睡眠を促すといった効果のあるホルモンです。実際、耳線やアイマスクを使うことで病院の集中治療室にいる患者の安眠効果が得られたという報告もあります。

    睡眠を気にしすぎるとメンタルが弱くなる

    健康意識が高い人や睡眠へのこだわりが強すぎる人はメンタルが弱くなる傾向にあります。理由としては完璧な睡眠を求めてしまうが故に、それがストレスになったり、不安の種になったりするからです。また誰かに睡眠を妨害されると強い怒りが込み上げ、精神的に大きな負荷がかかる人もいます。さらに睡眠に対して間違った認知を持ち、それが自分自身を苦しめてしまっている場合も あります。

    例えば、寝不足だから仕事がはらない、寝不足だから制約の1日になるなどと勝手に思い込み、寝不足だと何もかもうまくいかないという自己暗示をかけてしまう人もいます。健康維持のために睡眠は大事ですが、強いこだわりや歪んだ認知を持つと精神的に不安定になりやすくなるので、睡眠に対して は完璧さを求めないことが大事です。

    1日1日の睡眠を重視するのではなく、1ヶ月単位で睡眠のことを考えてみると良いでしょう。1ヶ月のうち7から8割、規則正しい睡眠が取れたならそれで良しという考え方を持つことが大事です。

    寝る前の片付け

    夜は1日の終わりですが、次の日の大切な準備でもあります。夜にしっかりと眠って休むことができなければ、次の日が丸1日台無しになってしまいます。つまり1日が良いものになるかどうかは、前日の夜に既に決まってしまっているということです。

    実は、夜のルーティンがあるだけで眠りに入るのがスムーズになり、良質な睡眠を取ることができると分かっています。そこで夜のルーティンとしてお勧めできるのがマインドフルネス、いわゆる瞑想です。

    瞑想は頭の中を整理してくれるとともに自律神経の内、心身をリラックスさせる副交感神経をアップしてくれる作用があるからです。私たちは眠っている時に、脳内のゴミが洗い流されて記憶が整理され、副交換神経が優位になっています。つまり眠っている時と瞑想している時は、体はとてもよく似た状態にあるわけです。つまり瞑想は起きている状態と寝ている状態の掛け橋になってくれるということです。

    私たちの脳や体は、脳をリラックスさせてあげて体を休めてあげて全身の緊張を取ることで少しずつ眠りに入っていくことができるように設計されています。このように覚醒と睡眠をスムーズにつなぐために、それらの駆け橋となる瞑想は、夜の必須ルーティンです。

    しかしながら、夜に瞑想をしようとすると色々と考え事をしてしまって余計眠れなくなる、あるいは夜は疲れきっていて全く集中力がなく、瞑想する気分になれないなど、瞑想はそれほど簡単なものではありません。夜静かに目をつぶって瞑想しろと言われてもなかなか難しいかもしれません。

    そこでお勧めしたいのがマインドフルネス片付けです。マインドフルネス片付けは、その名の通りで片付けを通して瞑想する方法です。実は片付けや掃除は、やり方を工夫することで瞑想と同じ効果があることが知られています。仏教の修行にも、お庭を掃除したり、床を雑巾がけする行という修行があります。このことからも分かる通り、片付けや掃除は心を沈めて精神を落ち着かせるための方法です。なぜ片付けが瞑想になるのかを理解するには、そもそもも瞑想とは何なのかを知る必要があります。

    瞑想は、深く考え事をしたり、逆に頭を空っぽにすることであると思っている人が多いと思いますが、そのどちらも間違いです。瞑想は、 1つのことに無心に集中することです。私たちの脳が使う1日400kcalのエネルギーの内、本を読んだり仕事をしたりといった頭脳を使う知的な活動に使われるエネルギー量は僅か5%と言われています。さらに20%は、脳の細胞の維持や修復に使われており、残75%は何もせずぼんやりしていることのために利用されています。

    このように何もせず、ぼんやりしている状態を脳科学ではデフォルトモードネットワークと言います。デフォルトモードネットワーク中の脳では、様々な雑念が湧いてきたり、有事のために脳が活性化するための準備をしています。そのため夜何も考えずにぼーっととしようとすると、逆に過去の出来事や後悔と いった雑念が湧いてきて脳が疲れてしまい、眠れなくなってしまうのです。

    そこで瞑想は、何か1つのことに集中することによってデフォルトモードネットワークが低下し、脳の活動が最小限に抑えられます。瞑想では、呼吸に集中せよと言われますが、これは相当な訓練を積まなければ難しくてできません。なぜなら多くの人が呼吸に集中しようとしても、実は集中できておらず、結局はデフォルトモードネットワークがオンになってしまい、様々な考え事に没頭してしまうからです。

    片付けでは断捨離のような考えなければいけない作業よりも、本棚に本をしまうなどの単純作業の方が向いていると言われています。これは単純作業をすることで脳が集中しやすいからです。また掃除や雑巾掛けなどの単純作業もお勧めです。このような単純作業によって一点集中することがそのまま瞑想になり、スムーズに眠る準備に入ることができます。

    さらに片付けには、脳だけではなく心を整えてくれるメリットもあります。静かな気持ちで日常から離れて掃除や片付けに集中することで高ぶっていた交感神経を沈め、心身をリラックスさせることができます。また寝室が綺麗に整っているということは睡眠の質の向上に直結するため、まずは片付けているうちに徐々にあなたは集中して雑念がなくなり、眠くなってきます。そうすれば、そのまま寝室で寝てしまえば良いでしょう。

    シャワーだけでなく湯舟に浸る

    湯舟に浸ると一時的に深部体温が上昇することで、お風呂上がりにはその反動で深部体温が下がります。この深部体温が低下するタイミングで横になると非常に寝つきやすくなることが知られています。スムーズに入眠できることは、睡眠の質全体に直結します。また入浴には水圧によるマッサージ効果や脳のリラックス効果、発汗によるデトックス効果など数々の健康効果が実証されています。

    寝すぎによる健康リスク

    体が健康な時でも必要以上に睡眠を長く取ってしまう状態を寝すぎと言います。単に長く眠るだけでなく日中の眠気や倦怠感、集中力の低下などの症状を伴う場合も含まれます。また寝過ぎについて明確な定義はなく、体の状態や年齢、体質によって人それぞれ必要な睡眠時間が違っています。つまり自分の最適の睡眠時間がどれくらいなのかは自分で見つけなければいけません。

    2015年に米国睡眠財団が報告した内容によると、心身の健康を維持する上で18歳から64歳の人に推奨される睡眠時間は7時間から9時間で、厚生労働省が発表した健康作りのための睡眠ガイド2023年によれば、一般的に成人ではおよそ6時間から8時間が適正な睡眠時間と考えられています。ただしこれ以上寝ても元気で集中力があるなら問題ありませんが、9時間寝ても日中に眠気が生じるなら睡眠の質が悪い可能性があります。

    一方で、季節ごとの睡眠を調べた日本の調査論文では、日中に過度な眠気がある人の割合は春に最も多かったという結果が出ていますが、統計的に証明できるほどの差はありませんでした。しかし春に日中の眠気が強くなる人たちは一定数おり、診療でよく見られるのは引っ越しや職場での配置転換などの環境変化が原因と思われるケースが挙げられます。多忙やストレスによる睡眠不足や不眠が起こり、集中力の低下、不機嫌、疲労など日常生活に影響が出てきます。

    もし日中に過度の眠気があり、それが通常の仮眠と診断されない場合、ナルコレプシーや突発性過眠症、反復性過眠症のような過眠症、中枢性過眠症が疑われます。ナルコレプシーは、普通なら居眠りするような状況でなくても眠り込んでしまう睡眠発作を繰り返し、居眠りが 10分から20分くらい続きます。また強い感情を感じた時に、突然全身の筋肉が脱力する情動脱力発作を伴うことがあります。日本の一般人口での有病率は0.16%から0.59%、発症齢は10代です。

    突発性過眠症は、主な症状は日中の過度な眠気ですが、ナルコレプシーよりも眠気が軽いとされています。原因ははっきりせず、有病率も明らかになっていません。ナルコレプシーの1/3から3/4くらいと考えられており、発症年齢は10から20代です。そして反復性過眠症は過度の眠けを生じ、ほとんど1日中寝て過ごす状態が2日から5週間持続します。それが年に1 回以上反復します。 非常に稀な病気で、100万人に1から2 人と推定されています。

    寝すぎによる身体への弊害

    死亡リスクの上昇

    睡眠時間が長すぎることによる悪影響で最も重要なのは、死亡リスクが高まることです。がん対策研究所の予防関連プロジェクトで男性4万6152人、女性5万3708人を対象にした調査アンケートの結果を元に、日頃の睡眠時間を5時間以下、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間以上のグループに分け、睡眠時間が7時間のグループを1として他のグループと比較したところ、10時間以上のグループの死亡率は男性で1.8倍、女性で1.7倍高くなっていました。

    特に循環器疾患による死亡リスクは男性で3.6倍、女性でも2.7倍に跳ね上がり、長く寝ている人は心血管系の病気による死亡リスクが跳ね上がることが示されています。また睡眠は食事や運動と並んで重要な健康の要素の1つと言われていますが、長時間睡眠が習慣化している人は、実際には体内の炎症マーカーが高いことが分かっています。

    炎症は動脈効果や癌、糖尿病などあらゆる病気の原因となるため、長時間睡眠は疲労回復どころか、実は老化の引き金になってしまうことが分かるでしょう。また長く寝る人ほど1日あたりの身体活動量が低下し、歩行数や筋肉の使用量が全て減っていきます。運動不足は喫煙と並ぶ最大級の死亡要因です。1日7時間寝る人と1日10時間寝る人とでは、日中の活動量に3時間もの差が生まれ、それが積み上がっていけば当然、生活全体の活動量が減って寿命が短くなることは大変分かりやすい理屈です。

    また、長時間睡眠の背後には、睡眠時無呼吸症候群やうつ病など寿命を縮める疾患が隠れていることが多いです。つまり長く寝ていること自体が寿命を縮めているだけでなく、寿命を縮める病気をすでに抱えているから長く寝てしまう可能性もあります。このようなことから土日にどうしても起きられない人は、もしかしたら何かの病気のサインかもしれません。

    そして癌による死亡率だと男性はほぼ変わりませんが、女性は1.5倍になっています。つまり死亡率に関して言えば、寝すぎは睡眠不足よりもリスクが高いことになります。また睡眠時間が5時間未満の女性は、7時間睡眠の場合とほぼ変わらず、男性であれば1.28倍に上がりますが、10時間以上睡眠の場合の1.8倍よりはずっと低い数字です。

    心臓病リスクの上昇

    コロラド大学の研究チームが心臓発作の気がない46万1000人を対象に7 年間に渡り、対象者の医療記録や自己申告による睡眠習慣を追跡調査したところ、睡眠時間が9時間より長かった人は、睡眠時間が6 時間から9 時間だった人より、心臓発作リスクが34%高かくなりました。ちなみに平均睡眠時間が6 時間未満だった人は、睡眠時間が6時間から9時間だった人に比べて、心臓発作を起こすリスクは20%高くなっています。

    この傾向は、睡眠時間が適切な範囲から遠ければ遠いほど顕著になっていました。例えば睡眠時間が7時間から8時間に比べて、睡眠時間が5時間の人は心臓発作リスクが52%上昇、睡眠時間が10時間以上の場合、発症は約100%、2倍も増加しています。

    また寝すぎは、脳中のリスクも高めてしまいます。中国の研究によれば睡眠時間9時間超えのグループは、7時間から8時間のグループと比べると、脳中のリスクが23%上昇していました。そして昼寝が90分を超えたグループは、30分以内のグループよりも脳中のリスクが29%上昇、さらに夜間の睡眠時間が9時間を超え、かつ昼寝が90 分を超えると脳卒中のリスクは85%も上昇していました。

    糖尿病リスクの増大

    医学雑誌(Archves of Internal Medicine)に掲載された2005 年の論文によると、糖尿病のリスクが最も少ないのは1日7時間から8時間の睡眠です。睡眠時間が7時間から8 時間の人を基準とすると、5時間以下の人は糖尿病発症リスクが2.5倍。睡眠時間が9 時間以上の人では、糖尿病発症リスクは1.8倍となっています。

    認知症の上昇

    国立がん研究センターの多目的コホート研究では、40歳から71歳の約4万2000 人の男女を、2016年まで追跡した調査結果があります。睡眠時間が1日7時間の人に比べ、10時間の人では13%、10時間から12時間の人では40%、認知症リスクが高いことが示されています。ちなみに3時間から5時間の睡眠時間の人は認知症が13%高くなっていました。

    睡眠時間の変化を見ると、5年間で睡眠時間がほぼ変化なしの人と比べて、睡眠時間が2時間以上長くなった人では認知症が37%上昇、睡眠時間が7時間未満だった人が2 時間以上短くなると認知症が56%高くなっていました。

    脳が萎縮する

    眠りすぎは、心血管疾患だけでなく脳卒中のリスクも高めてしまいます。長時間横になり続けると脳の血流を低下させ、血管の機能を弱めてしまいます。このように脳の血流が悪い状態が続くと、脳の血管の中に血栓という血の塊ができやすくなります。この血の塊が脳の血管に詰まれば脳梗塞のリスクが上昇してしまいます。これは糖尿病など脳梗塞のリスク因子が重なると、脳卒中による死亡リスクが跳ね上がることが知られています。

    また、脳卒中を防ぐためには朝の血圧上昇を抑えることが重要と言われています。これは朝の血圧変動が脳卒中の引き金になることが非常に多いからです。それにも関わらず長時間睡眠は、この朝の血圧のコントロールを完全に狂わせてしまいます。朝起きるのが遅れれば、交感神経の急上昇が起こって血圧スパイクが発生します。これが脳の血管を直撃し、脳卒中を引き起こしてしまうことになります。

    また、長時間睡眠は脳の血管だけでなく、私たちの脳そのものにも悪影響を与えてしまいます。実は長時間睡眠によって、記憶を司る脳の海馬が萎縮することが知られています。それによって記憶力が下がるだけでなく、自律神経や感情の制御機能まで壊れてしまいます。

    不安や焦燥感が強まる

    最近の研究によって、長時間の寝過ぎがうつ病を引き起こしてしまうことが分かってきました。これは長時間睡眠がセロトニンの分泌を低下させてしまうことが関係しています。セロトニンは幸福ホルモンと呼ばれ、安心感や覚醒度、意欲などを支える神経物質です。

    セロトニンは、朝の光と活動によって分泌が活性化します。長時間睡眠で朝起きるのが遅れることによって、このような刺激が入らず、セロトニンの分泌が落ちてしまいます。それによって抑うつ傾向が強まってしまうことが知られています。

    さらに、セロトニンだけでなく長時間睡眠はドーパミンの分泌も抑制してしまいます。そのため行動へのモチベーションを弱めてしまいます。その結果、何をしても楽しくない、やる気がないという状態が慢性化してしまいます。

    また、長時間睡眠はコルチゾールというホルモンの分泌リズムを狂わせてしまうことも知られています。コルチゾールは朝高く、夜低いというのが正常な分泌リズムです。しかし長時間睡眠をするとこれが逆転し、夜にコルチゾールが分泌されてしまいます。

    コルチゾールは、ストレスホルモンとも言われており、神経を興奮させて活動モードにするホルモンです。本来であれば夜はリラックスして眠りに入るはずですが、夜間にコルチゾールが上がることによって不安感や緊張感が強まってしまいます。逆に朝のコルチゾールが分泌されないことで朝起きづらかったり、だるさに襲われてしまいます。このように、長時間睡眠は不安定なホルモン分泌を通じてメンタルにも大きなダメージを与えてしまいます。

    ブレインフォグが慢性化する

    寝過ぎた後、なんだか脳がモヤモヤして霧がかかったような感じになったことはありませんか?これがいわゆるブレインフォグです。ブレインフォグには、様々な原因がありますが、長時間睡眠によるブレインフォグの多くは脳のゴミの排出が低下していることが原因です。

    私たちの脳内では、神経細胞が活動する時にたくさんのゴミが出ます。このゴミの1つがアミロイドベータです。アミロイドベータは蓄積することによって アルツハイマー型認知症の原因になることが知られています。しかし私たちの脳には、グリーンパティックシステムという脳内のゴミを洗い流すための洗浄システムが備わっています。

    このグリーンパティックシステムは、深いノンレム睡眠中に最も強く働くということが知られています。しかし長時間睡眠では浅い睡眠がダラダラと続くため、このグリーンパティックシステムが十分に稼働しません。その結果、たくさん寝ているにも関わらず、脳内に神経のゴミが蓄積し、記憶力や集中力、判断力が低下してブレインフォグが発生してしまいます。

    また長時間睡眠では、脳の血流が低下するため、前頭葉に必要な酸素やぶどう糖の供給が阻害されます。これによって脳の情報処理スピードが遅くなり、言葉が出てこない、考えがまとまらないという典型的なブレインフォグ症状が慢性化してしまいます。これは脳が軽い酸欠状態に近いと言えるでしょう。

    さらに長時間睡眠による体内の炎症は脳にも及びます。それによって神経細胞の通信効率が低下します。神経の信号伝達が遅れれば、それだけ思考や判断能力、記憶力が鈍り、目覚めているのに頭の回転が鈍いという状態になってしまいます。

    たくさん寝ると脳がリフレッシュして良いというイメージがあるかもしれませんが、実はそんなことはありません。重要なのはあくまで睡眠の質であって、質の悪い睡眠でどれだけ量を稼いだとしても、私たちの脳には逆に悪影響になってしまいます。

    食べすぎが止まらなくなる

    実は、寝すぎによって肥満リスクが上昇することが知られています。長時間睡眠が続くと満腹ホルモンであるレプチンの分泌が低下します。逆に食欲ホルモンであるグレリンが過剰に分泌されやすくなります。レプチンが低いと、もう十分食べたという信号が脳に届きません。そのためいくら食べてもお腹が空いてしまいます。

    逆に食欲ホルモンが高いと、まだ足りないという指令が脳から出続けます。その結果、実際のカロリー量とは無関係に食欲が暴走し、間食や夜食、どか食いが慢性化して肥満体質になってしまいます。また長時間睡眠が癖の人は、日中の活動量が低下するため筋肉量も徐々に減少していきます。

    筋肉は最大の代謝器官です。筋肉が落ちれば落ちるほど体の熱が奪われ、基礎代謝は上がって普通の食事量でも脂肪が増えてしまいます。特に長時間睡眠によって歩く時間が短くなれば下半身の筋肉が落ちてしまいます。それと同時に、脂肪燃焼能力が大幅に下がり、内臓脂肪と皮下脂肪の両方が同時に増える最も太りやすい体質となってしまいます。

    また長時間睡眠は、私たちの血糖値のリズムを乱し、インスリンの効き目を低下させます。これがいわゆるインスリン抵抗性が高まった状態です。インスリン抵抗性が高まると、血中の糖が細胞に運ばれず、余った糖が全て中性脂肪に変換されてしまいます。さらに脂肪が増えるほどインスリン抵抗性は悪化して、血糖がどんどん上がり脂肪も増えるという悪循環が形成されます。その結果、短期間でお腹が出る内臓脂肪型が完成してしまいます。

    さらに夜は、脂肪合成ホルモンが優位に働く時間帯のため、その時間帯に甘いものや唐揚げを摂取すると、余ったエネルギーはほぼ100%脂肪として蓄積されてしまいます。さらに睡眠リズムの乱れは、脳のジャンクフード欲を増強させて肥満を加速させてしまいます。このようなことから寝れば寝るほど太っていくという悪循環が形成されてしまいます。

    なぜ寝すぎが健康リスクを増大してしまうのか

    平日に溜まった疲れを解消しようと土日などに寝貯めをしてしまう方も多いのではないでしょうか。ですが寝貯めのような不定期の長時間睡眠は、私たちの健康に大きな悪影響があることが分かってきています。その理由は、まだはっきりしたことは分かっていません。

    ただし一説には、長時間睡眠は体の炎症を増やすという理由が挙げられています。これまでの研究により睡眠が不足すると動脈の内壁が損傷したり、骨髄における炎症細胞の発育に影響を及すことが指摘されていますが、長すぎる睡眠時間も同様に体内の炎を促進させる可能性があることが指摘されています。

    他にも、例えば脳卒中のリスク上昇に関しては活動性の低下に伴う肥満や血糖コントロール悪化、高血圧の合併などが考えられている。また認知症に関しては長時間睡眠による睡眠の質の悪化が、アミロイドβを脳から効率よく除去できなくなっているせいと言われています。アミロイドβが脳内に蓄積すると、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高めると言われる異常タンパクです。

    横向き寝で、いびきや睡眠時無呼吸が改善する

    昼間の眠気が取れない、起きた時に頭がぼっとするという人はいませんか?もし、これらに心当たりがある方は睡眠時無呼吸症候群の可能性を疑うべきかもしれません。そしてその改善策として最も手軽で効果的なのが横向き寝です。睡眠時無呼吸症候群は、日本人でも非常に増えている病気です。睡眠時無呼吸症候群は、その名の通り寝ている間に無呼吸になってしまう症状のことで、主に私たちの舌が寝ている間に喉の方に垂れ下がってしまうことによって気道が塞がれ、呼吸ができなくなってしまう仕組みです。

    このような睡眠時の呼吸障害は、いびきをかく癖や肥満が最も大きなリスクと言われています。ですが、最近では仰向けで寝ることも睡眠時無呼吸症候群の1つのリスクであることが分かっています。仰向けで寝た場合は、舌の奥が重力によって喉の奥に落ち込んで気道を塞ぎやすくなります。そのため、いびきが発生しやすくなります。

    さらに、この状態が悪化して気道が完全に塞がり、数秒から数十秒間呼吸が止まると睡眠時無呼吸になります。睡眠時無呼吸症候群は、凡そ900万人が該当すると推定されており、決して他人ごとではない病気です。まさか自分がそんな病気になっているとは知らない人も多いと思うので、なんだか寝ても疲れが取れないという方は、これを疑ってみると良いでしょう。

    そのため、横向きに寝ることによって舌が下に落ちてしまうのを防いで気道の開通が保たれます。それによっていびきや無呼吸の発生が大幅に軽減されます。実際、アメリカ睡眠医学会のガイドラインでも、軽度から中程度の閉塞性睡眠時無呼吸の患者に対して、横向きによる療法が有効であると明記されています。

    また、2020年に発表された研究では、仰向け寝の人は横向き寝の人と比べて、平均で2から3倍以上、睡眠時無呼吸を記録していた報告もあります。

    実際、国内の睡眠クリニックでも寝る姿勢を横向きに変えただけで、いびきがほとんど出なくなったという例が多く報告されています。睡眠時無呼吸症候群の本格的な治療には、CPAPという呼吸補助機器の導入が必要になることもあります。しかし、そのような機械を導入しなくてもこのように横向き寝と適切な枕の仕様だけで症状が大きく改善されるケースもあります。

    この睡眠時無呼吸症候群というのは、体に様々な悪影響を及ぼすことが知られています。繰り返される無呼吸が交感神経を刺激し、血圧や心拍数が満性的に上昇します。その結果として心筋梗塞や脳卒中のリスクが2から3倍に上昇することが示されています。

    また、夜間の低酸素状態と睡眠の質の低下によってインスリンの抵抗性が悪化してしまいます。それによって2型糖尿病のリスクが上がる可能性が報告されています。さらには慢性的な酸素不足と睡眠障害によって、脳の老廃物の排出が妨げられてしまいます。それによって認知機能の低下やうつ症状のリスクが高まることも分かっています。実際、2022年の最新の研究では、睡眠時無呼吸症候群の患者の認知症の発症率は、健常者に比べて1.7倍というデータもあります。

    もちろん、重度の無呼吸症候群には専門的な治療が必要です。しかし軽度のいびきや無呼吸であれば、まずは寝る姿勢を見直すことから始めるのが最善の策であると言えます。パートナーにいびきを指摘されたことがある方や、1人暮らしでも睡眠の質が今1つという方には、横向き寝を試してみましょう。

    睡眠へ導く果物

    イチジク

    イチジクには、カリウムがたっぷり含まれており、このカリウムが体内の電解質のバランスを整え、筋肉の動きをスムーズにします。これが睡眠の質を高めるのに役立つとされています。さらにカリウムは、心臓の健康をサポートし、睡眠中の心拍数を安定させる効果もあります。

    また、イチジクに含まれるマグネシウムは、神経系をリラックスさせることでストレスを軽減し、体内時計の調整にも関わり、睡眠サイクルを整える働きがあります。実際に高齢者の参加者を対象に実施されたイランの研究では、マグネシウムを摂取した参加者は、睡眠時間の優位な増加、睡眠効率の向上、不眠症の症状軽減、寝つくまでの時間の短縮などが確認されています。他にもイチジクに含まれる食物繊維やトリプトファン、カルシウムもメラトニンの生成や、より良い睡眠へと誘ってくれる成分になります。

    キウイ

    キウイには、セロトニンの生成を助けるトリプトファンが含まれており、このセロトニンが睡眠サイクルに大きな影響を与えてくれます。さらにキウイには、ビタミンCやビタミンEといった抗酸化物質も豊富で、これらが体の酸化ストレスを軽減し、良い睡眠を促進する効果があります。また睡眠ホルモンのメラトニンも含まれているため、自然な睡眠を促すことができます。

    台北医科大学が行った研究によると、寝る1時間前にキウイを2個食べた参加者は、食べなかった参加者に比べて45%早く眠りにつき、13%長く眠ったという結果が出ています。

    パイナップル

    パイナップルもまた体内のメラトニン生成を促進することで眠りに着くのを助ける果物です。実際にコンケン大学の研究では、パイナップルを食べるとメラトニン濃度が266%以上も上昇することが分かっています。またパイナップルには、トリプトファン、ビタミンC、消化を助けるブロメラインなどの成分も豊富に含まれているため、より良い睡眠を得ることができます。

    アーモンド

    アーモンドに含まれるメラトニンが睡眠サイクルを整え、体内のメラトニンレベルを高めてくれるため、睡眠の質が向上します。またアーモンドは、マグネシウムやタンパク質、ビタミンEなども豊富に含んでいるため、これらの栄養成分が一緒に働いて睡眠の質を向上させてくれます。

    2017年に行われたテヘラン医科大学の学生446人を対象にした研究では、参加者24日間、毎日10個のアーモンドを食べてもらい、その影響を調査した結果、研究開始時には約77%の学生が不眠症の問題を抱えていましたが、アーモンドを食べた後、この数は約69%に減少し、正常に睡眠が取れていると回答した学生の割合も増えていました。

    頭の鍼で睡眠の質を改善する

    頭の鍼で刺激をすると、その鍼刺激は交感神経の働きを抑制し、副交感神経の働きを亢進します。例えば睡眠の質が低下しているのであれば、鍼刺激によって交感神経機能を抑え、副交感神経機能を活性化することができます。

    なぜこのようなことが可能となるのかは、鍼治療が体の表面を刺激することで内部に起こる「反射」を利用しているからです。特に自律神経のバランスを整えるのに重要な役割を果すのが「体性―内臓反射」と「上脊髄反射」です。

    鍼刺激は感覚神経を通して、脊髄に伝えられ、鍼刺激を伝えた感覚神経と同じ髄節から出ている自律神経に刺激が伝わり、その自律神経の行き先である内臓に刺激が伝わります。その結果、内臓の動きが活発になったり、逆に抑えられたりします。

    一方で、鍼刺激が感覚神経を通して脊髄に伝えられた後、さらに脳幹まで伝えられます。刺激が伝わった脳幹からの命令が自律神経を介して、内臓へ影響を与えることになります。

    これらの結果として、深く眠れない、何度も寝覚めるなどの睡眠の質の低下につながる問題を改善することが期待できます。

    本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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