
実は光と睡眠の関係で、光によって睡眠の質が下がり、それによって9倍も肥満のリスクが高くなってしまうことが分かっています。寝る前にスマホやパソコンを見ちゃいけないとか、部屋を暗くして寝た方が良いとかありますが、睡眠のメカニズムに光はどう関係して、どうして人は眠くなるのかを理解することがまずは大事です。
私たちの脳には色々な部位があり、その部位が情報を伝達し合うことで起きたり、眠ったりしています。睡眠にとって特に大事なのは脳の奥の視床下部の中にある視交叉上核という1から 2mmほどの大きさの組織です。視交叉上核は両目の視神経が交わる場所の少し上にあり、体内時計と言われるサーカディアンリズムを生み出しています。
体内時計であるサーカディアンリズムは、24時間周期で睡眠と覚醒を繰り返すリズムのことで、光による明暗や出勤時間などの社会生活、食事や睡眠環境などで調整されています。その中でも1番強力な効果を持つのが光です。人間を光も時計もない真っ暗な洞窟の中で生活させると人は大体25時間周期で生活するようになります。人間の本来のリズムは25時間であり、サーカディアンリズムによって24時間周期で起きたり眠ったりするということになります。
朝日を浴びると夜寝むり易くなるのは、朝光を浴びてから14時間後くらいに睡眠ホルモンのメラトニンが作られるからです。人が眠くなる理由に疲れによる脳と体を休ませて、体の機能を一定の状態に保とうとするホメオスタシスと言われる働きによるものと、その日の疲れにはあまり関係なく一定の時間になると眠くなるというサーカディアンリズムによるものがあります。
サーカディアンリズムには視交叉上核がとても大きく関係していて、目で光を感じた14から16時間後くらいに視交叉上核が松果体と言われる脳の真ん中にある部位にシグナルを送ります。そして睡眠ホルモンのメラトニンを作ることで眠くなります。しかし夕方から夜の間に両目に光を浴びることで視交叉上核が朝や昼間と勘違いしてメラトニンの生成が遅れたり、分泌が止まったりしてしまいます。つまり夜にスマホやパソコンを見ちゃいけないのは、夜に強い光を目に浴びることで視交叉上核が混乱してしまうからです。
例えば、19時から22時までブルーライトカットのスマホでゲームをしたグループと、ブルーライトをカットしないスマホでゲームをしたグループを比べた実験では、ブルーライトをカットしないスマホを使ったグループのメラトニン分泌が止まり、分泌量が上がるまで時間がかかったという結果が出ています。
睡眠と肥満の3つの関係
睡眠不足だと誘惑に負けやすくなる
私たちの意思力は無限にあるわけではく、限界がある意思の力は忙しい時や悩みを抱えている時、また寝不足の時にはその力が消耗してしまいます。ダイエットという強い意志を必要とする目的を達成するためには、忙しい時期を避けたり、悩み事などのストレスが少ない状態を作ること、そしてしっかりと睡眠を取ることがとても大切です。
寝不足で意思の力が弱まるのは、欲望をコントロールしたり、目標を立てて計画的に実行するなど冷静な判断をして行動するには、脳の前頭前皮質という部分が大きく関わっています。睡眠不足によって脳への血流の低下が起こり、前頭前皮質の機能が低下してしまいます。
意思決定や自己コントロールに必要な前頭前皮質や頭頂葉の血流が睡眠不足後は減ってしまっています。つまりダイエットには食べたい衝動を抑えながら目標を立てて計画的に行う実効力が必要ですが、これを成し遂げるには当然、前頭前皮質の力が睡眠不足で弱まってしまいます。
睡眠不足によってホルモンバランスが崩壊
胃から分泌されるグレリンによって食欲が湧き、高肥満ホルモンと言われるレプチンが脂肪細胞から分泌されて食欲を抑制します。しかし睡眠不足になるとグレリンが増えて、レプチンが減少します。例えば2日間で4時間しか寝ていない状態だと血中のグレリンが28%増加し、レプチンが18%減少して、空腹感や食欲も23%増加することが分かっています。
また、シカゴ大学の研究では睡眠不足が4日続いた後では糖尿病や新血管疾患などを悪化させる血中の遊離脂肪酸が15から30%を上昇し、脂肪をもっと摂りたいという欲望が強まるためによりジャンクフードを食べたくなってしまうことが分かっています。
その他にも、アメリカのピッツバーグ大学で高校生245人を対象に、年齢、性別、人種、BMIと独立して睡眠とインスリン抵抗性との関係を検討した研究では、睡眠時間が短いことでインスリン抵抗性指数が高くなることも明らかになっています。インスリン抵抗性が上がることは肥満になりやすくなることでもあります。因みに6時間睡眠の人が、一晩に1 時間睡眠時間を増やすだけでインスリン抵抗性が9%改善するという報告もあります。
睡眠時間が短いと活動時間が増えてエネルギー消費して痩せると思っている人もいますが、実はその反対で寝不足によってどんどん太りやすい体へと変わってしまいます。アメリカのコロンビア大学が2005年に行った30から60歳の男女5000人を対象に調べた研究によると、平均7から9時間の睡眠時間の人に比べて4時間以下の睡眠の人の肥満率は 73%も高く、5時間睡眠の人でも肥満率は50%高いことが分かっています。
寝不足で基礎代謝が落ちる
基礎代謝は、内臓を動かした、呼吸をしたり、体温調節したり、生きているだけで消費するカロリーのことです。基礎代謝量は1日のカロリー消費の中でも半分以上を占めており、1日の全消費カロリーの 7割を占める基礎代謝量に大きく関わっているのが成長ホルモンです。成長ホルモンは新陳代謝を行うだけでなく、体温を上げたり、中性脂肪を分解して筋肉の修復もしてくれます。
この成長ホルモンの7から8割は、眠り始めの3時間に分泌され、この3時間を逃すと成長ホルモンはほとんど分泌されず、結果的に代謝が落ちてしまいます。つまり睡眠不足になると意志力が弱くなり、余計なものを食べ、ホルモンバランスが崩れて太りやすくなり、さらに代謝も落ちてどんどん太りやすくなります。そしてそこに光が大きく関わっており、9倍太りやすくなることになります。
実際に衛生写真から80カ国の中で最もよる明るい国を選んで、WHOが出した肥満率と人口照明との関係を調査した研究があります。ちなみに生活レベルの差も考慮し、裕福差、近代化レベル、食料の消費量など肥満に関わる別の要素を調整して研究は行われました。その結果、女性で72%から73%、男性で67から68%肥満率が増加し、夜間照明が最高レベルの国は最低レベルの国と比べて肥満率が9倍も上昇することが分かっています。
日本はもちろん夜間照明最高のグループに入っており、これまでにも動物実験では夜明るいと太る現象は確認されていましたが、人間で夜間の人口照明と肥満の関係が研究されたのは、この研究が初めてです。その後の研究で同じ国の人間同士でも明るい部屋で寝る人は、暗い部屋で寝る人に比べて肥満率が33%上昇するなど太りやすい傾向にあり、夜間の人工照明はジャンクフードと同じくらい危険だということが分かっています。
さらに目を閉じた状態で通過する光の割合は5から10%あり、アメリカのノースウエスタン大学医学部が20代の健康な男女20人を対象にした睡眠状態の観察研究では、寝室の光は目を閉じていてもまぶを通して目から入り、交換神経が優位になって睡眠中の心拍数や血圧が上昇し、インスリン抵抗性が増えて血糖値に影響を与えるという結果になっています。このように夜間の人口照明は光害とも言われるくらい私たちの健康にとって害があるものが明らかになっています。
睡眠の質を下げない人工照明との付き合い方
夜間にメラトニンの分泌を妨げず、作業に支障をきたさせないために必要な照度は100 から200ルクスの、本は読めるけど字を書いたり、細かい作業をするにはちょっと足りないくらいの明るさです。また赤や黄色といった色温度が低い暖色系は、青白い蛍光灯に比べてメラトニンの分泌を制限しません。夕方から夜にかけての就寝前には、なるべく200ルクスくらいの照度で、オレンジ系統の照明を使うとメラトニンの合成が抑制されずに深い眠りにつくことができます。さらに就寝時間の30分くらい前から寝室の照明は、地下駐車場の通路よりちょっと暗めの30ルクスまで照明を落とすとより効果的です。
また、寝る時は部屋の中を真っ暗にするのではなく、睡眠の深さと就寝中の照明の影響を調べた結果、照度が0.3 ルクスで睡眠深度が最高になり、30ルクスと0ルクスの真っ暗闇では同じくらい眠りが浅くなることが分かっています。この結果から睡眠中は0.3から1ルクスがベストと言われています。ちなみにトイレの中の照明も3から5ルクスと、かろうじて物が見える薄ぐらい程度にしておくと睡眠の質の改善になります。
ブルーライトを避ける
いくら部屋の暖色系の照明に変えて照度を落としてもブルーライトを見ていたら意味がありません。どうしてもスマホやパソコンを見たい場合は、ブルーライトをカットするメガネを使うと効果があります。ヒューストン大学の研究では、午後6時くらいからブルーライトをブロックするメガネをかける生活を2週間してもらい、睡眠の質を調べたところ、メガネをかける前のメラトニンの分泌量が平均16.1pgだったのに対し、ブルーライト軽減メガをかけた後では25.5pgと約58%も上昇しています。ちなみに実験では睡眠の質が上がったことはもちろん、睡眠に入る時間も10分以上早くなり、認知テストの結果までアップしています。
シーツや寝室の色を変える
私たちの目にはオプシンという青緑赤の光の色を捉えるタンパク質があり、そのおかげで赤から紫まで色を感じることができます。このオプシンが皮膚にもあることが分かっており、目隠しをしていても赤い部屋と青い部屋では脈や血圧に変化が出たという結果もあります。私たちは無意識のうちに肌で色を感じており、実際にイギリスで2000世帯の寝室の色と睡眠時間を調べた調査では、睡眠時間が最も長かった部屋の色は青、次にクリームイエロー、緑の順だということが分かっています。逆に睡眠時間が最も短いのが紫、茶、灰色の順で、青と紫の間では2時間もの睡眠時間の差がありました。そのため中間色の緑は1年を通して寝室に適した色だと言えます。
緑は目のピントが自然に合うため目の筋肉を弛緩 させて緊張を解きほぐし、気分の安定につながります。ちなみに紫はインスピレーションの色と言われていて、脳を刺激する色です。また青と赤のように退避する色は、人を落ち着かない気分にさせます。茶色も人を孤立した気分にさせて、これらの色のシーツを選ぶと悪夢をよく見ると言われています。
また、緑と言えば観葉植物を室内に置くことも良いです。植物は蒸散というプロセスを通じて定期的に水分を放出し、この水分が周囲の空気に加わり、室内の湿度を一定に保つ効果があります。適度な湿度は肌にとって重要で、乾燥が皮膚の老化やシワなどを引き起こす場合があります。湿度が適正に保たれるとこれらの問題が 防がれ、肌が柔らかく、健康的な状態を維持しやすくなります。
また、観葉植物の緑色は心理的に平和な気持ちや安心感を与えます。緑色はリラクゼーションと安心感を促進する色で、ストレスホルモンのレベルを低下させる効果があります。このように観葉植物はただ美しいだけでなく、心地よい環境を作り出します。このような環境は心理的ストレスの軽減はもちろん、良い気分や高い活力につながり、ポジティブな心の状態は身体の機能にも良い影響を与え、免疫システムの強化にもつながります。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。