
私たちの身体は食事によってつくられており、食べているものを変えることでいくらでも心と体の調子を整えることができます。何を食べるのかは自分でコントロールできるものであり、食事は全ての土台となる最も重要なものです。
鉄不足でエネルギー不足
私たちの細胞でエネルギーがつくられる時に呼吸から取り込んだ酸素が使われます。酸素は血液中のヘモグロビンという物質と結びついて全身の細胞に届けられます。ヘモグロビンは血液を赤くする赤血球の主成分で、全身の細胞に酸素を届けるヘモグロビンの材料が「鉄」です。つまり鉄が不足すれば、全身の細胞に届けられるはずの酸素が不足することになります。すると当然、細胞の活動が減少し、エネルギーの産生量が落ちます。
このような鉄不足になった場合、よく見られる症状として朝起きるのが辛い、疲労感、顔色が青白い、ニキビ、湿疹、冷え性で足がむくみやすい、胃の不快感、立ちくらみやめまい、頭痛、月経不順で生理の出血量が多いなどが挙げられます。
このような鉄不足を解消するためには、鉄を豊富に含むものを積極的に食べることです。鉄は動物性から植物性まで様々な食品に含まれますが、その鉄の種類にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。
ヘム鉄は動物性の食品に多く含まれる鉄で、非ヘム鉄は植物性の食品に含まれる鉄です。そしてヘム鉄の方が非ヘム鉄よりも5倍ほど吸収効率がいいと言われています。鉄を大量に含む動物性食品としてはレバーやカツオなどの赤身肉、チヂミなどの貝類があります。
ただし、これらの食品を大量に取ったからといって必ずしも全てが体に吸収されるわけではありません。鉄はビタミンCを一緒に取ることで吸収効率が高まることが知られているため、ビタミンCが豊富な食物を一緒に摂るように心がけましょう。
ミトコンドリアを増やす「タウリン」
私たちの細胞には、大量のエネルギーを作り出す工場であるミトコンドリアが存在します。この工場を稼働させるために必要な栄養素が鉄で、ミトコンドリア内でエネルギーを産生する仕組みをクエン酸回路と言います。しかしクエン酸回路が一度に産生できるエネルギーの量が限られています。
そのため工場(ミトコンドリア)そのものの数を増やすことが大切になりますが、それを可能にする栄養素が「タウリン」です。タウリンを積極的に摂取して、ミトコンドリアを増やすことで、クエン酸回路の稼働率もアップし、エネルギー産生量は増大します。このタウリンはイカやタコの刺身、スルメ、ブロッコリースプラウトに多く含まれています。
こうして体中に栄養素が行き渡ることで、最初に変化が出てくるのがお肌です。栄養学においては、肌は栄養のバロメーターと言われています。栄養が不足すると、心臓や肺などの生命の維持に不可欠な臓器に栄養を優先的に行き渡るようにするため、肌の健康は非常に優先順位が低いとも言えます。
逆に肌の健康が良ければ全身の栄養状態が良いことを意味するということになります。このように肌は体の栄養が足りているかどうかを映し出す鏡でもあるため、ヘム鉄とビタミンC、そしてタウリンをしっかり摂ることで肌は確実に美しくなります。
健康と幸せに不可欠なホルモン
体の健康と同じく、心の健康も大切です。 特に幸福感は正しい食事によって簡単に得ることができます。なぜなら私たちの心の幸せは、あくまでホルモンという化学物質が決めているためです。そしてこのホルモンは毎日食べている食事に大きく左右されます。
私たちの幸福感は、ドーパミン、セロトニン、オキシトシン、エンドルフィンの4つのホルモンによってつくられています。これらを「幸せホルモン」と呼び、私たちが食べたものから作られ、また食べ方によっても分泌量が変わってきます。
ドーパミンは別名「歓喜のホルモン」や「意欲のホルモン」と呼ばれ、セロトニンは「精神安定ホルモン」、オキシトシンは「愛情ホルモン」、エンドルフィンは「多幸ホルモン」とも呼ばれています。これら4つのホルモンがバランスよく分泌され、全身に行き渡ることが重要です。
アンチエイジングに最適な食べ物
タンパク質
アンチエイジングに極めて重要な栄養素がタンパク質です。タンパク質をプロテインと言い、その語源は古代ギリシャの言葉「プロティオス」であり、最も重要なものという意味があります。
現代人の多くがタンパク質不足に陥っていると言われ、タンパク質が不足すると、肌や髪などの材料が不足するためこれらの調子が悪くなります。タンパク質が豊富に含まれている食材の代表は、赤身肉、レバーなどの肉類、卵、豆類、魚介類などです。特に赤身肉やレバーはタンパク質を補給できるだけでなく、鉄分も補給できるため、シミに非常に効果的です。なんとなく顔がくすんでいる、顔色が悪い、最近シミが増えてきた方は、おそらく鉄分が足りていません。例えば出産後にシミが増えた気がする方は、出産によって鉄分不足が起きているからと考えられます。またビタミンCよりもシミに効くのは鉄分です。
サーモン、エビ、イクラなどの魚介類には、タンパク質が豊富なことに加え、アスタキサンチンというアンチエイジングに効果的な成分が含まれています。このアスタキサンチンは強い抗酸化作用を持ち、シワの予防にも効果的です。そして卵はタンパク質豊富な優秀な食材です。卵の食べ方のポイントは、茹で過ぎず、焼き過ぎないことです。加熱すると卵のタンパク質の有効量が落ちてしまうことがわかっているため、半熟や半生状態で食べることをお勧めします。
納豆味噌汁
納豆はタンパク質が豊富で、イソフラボンというポリフェノールが豊富に含まれています。イソフラボンは女性の更年期対策として用いられていますが、イソフラボンが女性ホルモンであるエストロゲンと似た構造を持っているためです。イソフラボンは、エストロゲンが不足すればその作用を代替してくれ、逆に過剰になった場合にはその作用を減らしてくれます。つまり更年期障害や月経前症候群の方にもイソフラボンは積極的に摂るべきものです。
この納豆を味噌汁に入れることでさらに効果的に栄養を摂ることができます。味噌にはビタミン、ミネラル、有益な植物性化合物だけではなく、必須アミノ酸を豊富に含んでいるためタンパク質の供給源となってくれます。そのほかにも、食べ物の消化吸収能力を向上させてくれる、免疫力を高めてくれる、消化器系のトラブルを改善する、腸内環境を整えてくれるなど、日本が世界に誇るスーパーフードです。
とろろ
アンチエイジングに欠かせないホルモンはDHEAで、別名若返りホルモンと呼ばれています。DHEAは思春期に急激に増加し、20歳頃をピークに徐々に減少し、70歳でピーク時の20%程になります。DHEAの効果は、ストレスを緩和し、筋力を維持して代謝を高める、体脂肪を減らす、免疫力を高めて炎症を抑え腫瘍を予防する、動脈硬化や脂質異常症を予防するなどが挙げられます。
DHEAを効果的に増やす方法が山芋などの粘り気のある芋類を食べることです。長芋や自然薯といった山芋をすりおろした「とろろ」を食べることでDHEAをしっかり摂ることができます。
抗酸化ドレッシング
活性酸素が体を酸化させて老化や病気を引き起こします。酸化とは体のサビのようなもので、例えば活性酸素が体内に多くあると、酸化によってエストロゲンの作用が弱くなり女性の老化を早めることが分かっています。つまりタンパク質の摂取だけでなく、活性酸素を減らして酸化を防ぐための栄養素も十分摂る必要があります。
もちろん私たちの体には活性酸素を消去する仕組みが備わっています。活性酸素にも種類があり、その中で最も毒性が強いのがヒドロキシラジカルです。それを消去するのがグルタチオンという酵素で、しっかり働いてもらうためにはシステインというアミノ酸が必要です。このシステインが多く含まれている食材が、タマネギ、ニンニクです。これらをすりおろし、亜麻仁油やえごま油と醤油を加えて抗酸化ドレッシングをつくり、野菜にかけて食べることをお勧めします。
メンタルに最適な食べ物
タンパク質不足はトリプトファン不足
心の不調の原因にタンパク質不足があると指摘されています。髪や皮膚、筋肉、骨だけでなく、ホルモンや酵素免疫に関わる抗体でさえその材料はタンパク質です。また脳内神経伝達物質をつくる大元の栄養素もタンパク質です。
なぜタンパク質が不足すると心の不調になるのかは、それはセロトニンが不足するからです。例えばうつの原因はセロトニン不足であると考えられています。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸を材料に脳で作られるため、トリプトファンが足りなければ十分なセロトニンは作られません。トリプトファンはアミノ酸であり、結局タンパク質がなければ十分に作られないのです。因みにトリプトファンは睡眠ホルモンのメラトニンの材料にもなります。
トリプトファンは、大豆製品や卵、肉類、カツオ、マグロ、秋刀魚などの赤みの魚、ナッツ類に多く含まれています。
コレステロール不足でセロトニン不足
肉類などに含まれるコレステロール値が高いことは健康に悪いと言われていましたが、欧米人に比べて日本人はコレステロールが低すぎるというが問題になっています。それを受け2015年に厚生労働省はコレステロールの食事での摂取制限を撤廃しています。
コレステロール値が私たちの心に大きな影響を与えていることがわかっており、細胞を守る細胞膜やホルモンをつくる材料になるだけでなく、神経細胞や脳細胞もコレステロールを多く含んでおり、健康に欠かせない必要なものです。私たちの体にあるコレステロールの1/3は脳にあり、脳に必要なコレステロールが低下すれば脳の活動も低下して心の不調につながっていることが分かっています。さらにコレステロールはセロトニンを脳まで運搬するのに一役買っており、コレストレールが低下するとセロトニン不足につながり心の不調を引き起こします。
また肉類に多く含まれる鉄分が不足すると、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニン、メラトニンなどの脳内神経伝達物質の合成を低下させてしまうことも分かっています。つまり鉄が不足するとメンタルの不調につながります。特に女性は肉類などから鉄分を意識して補給する必要があります。肉には肉の良さがあり、野菜には野菜の良さがあるので、この2つ合わせてはじめてバランスの良い栄養素が摂取できます。
ビタミンB6不足でGABA不足
ビタインB6は鉄分に匹敵するぐらい脳内神経伝達物質を合成するために重要な栄養素です。セロトニン、ドーパミン、GABAを合成するためにもビタミンB6が必要になります。特にGABAは、y-アミノ酪酸とも呼ばれメンタルの健康に重要な栄養素です。ビタミンB6が豊富に含まれている食材として、ニンニク、とうがらし、ゴマなどが挙げられます。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。