
昨今の最新遺伝子研究の中で、腸内細菌と病気・老化との関係が次々と明らかになっています。その中で腸内細菌は体質、性格などに左右する全身の司令塔の役割があることが分かっています。心の不安、高血圧、肥満、糖尿病、アレルギー、感染症、認知症、肝臓病、子宮内膜症などまで、腸内細菌との密接な関係があります。
私たち現代人は、高脂肪食(食生活の欧米化)、食物繊維不足、抗生物質、食物添加物、下剤、ストレスの増大、運動不足などの影響で腸内(細菌)フローラが乱れから、腸内の慢性炎症に悩まされ、それらが病気の発生要因や悪化要因になっています。
腸には人体に存在する免疫細胞のおよそ7割が集中しており、ウイルスやがん細胞から私たちの体を守ってくれています。それだけでなく腸と脳、腸と心には繋がりがあり、「脳腸相関」という言葉があるように、腸はあらゆる臓器には密接な関係があります。
腸内フローラの改善
腸内フローラの改善は肉体的な健康だけでなく、精神的な健康にも大きく影響しています。腸内細菌をうまく育てることで、心身の健康を保ち、健康寿命が決まり、人生の質が決まると言っても良いでしょう。心も体もすべては「腸」次第なのです。
この腸内フローラを整えるためには、食生活の改善が必要になります。もちろん食物繊維を多くとったり、ヨーグルトを食べたりすることは大切ですが、食事の内容と同じくらい大切なのが、食事のタイミングです。
まず、腸内フローラ改善のためにまず避けたいのが朝食を抜くことです。その理由は、排便のベストタイミングを逃してしまうからです。食事を摂ると大腸が大きく収縮して胃結腸反射が起こりますが、この反射が起こりやすいのが朝食時なのです。そのため朝食を抜くと、この反射が起こりにくくなり胃の蠕動活動が滞りがちになり、便秘から腸内フローラが乱れ、様々な体調不良や病気を引き起こす原因となります。そのため少量でも良いので必ず朝食は摂るようにしましょう。
しかし、忙しく朝食を食べる時間がない方、空腹健康法を実践されている方にオススメなのが「朝一杯の炭酸水」です。空腹になった胃に炭酸水を飲むと、その重さで胃が下がり、胃の下と通る「横行結腸」を刺激することができます。この刺激によって腸の蠕動運動を促すことができます。さらに炭酸水には二酸化炭素の気泡が多く含まれており、この気泡が蠕動運動を促してくれます。
また、夕食は就寝の3時間前までに済ませましょう。腸のゴールデンタイムは夜10時から2時までで、その時間に深い眠りにつければ、「副交感神経」優位になり腸が活発化して善玉菌が悪玉菌を駆逐して、腸内フローラが良好な状態に回復します。
そして、食事は多品目を摂ることが健康に良いのは、栄養バランスだけでなく、腸内で育つ細菌の種類に影響するからです。偏った食生活をしてしまうと、同じような腸内細菌しか育たちません。このように腸内細菌が偏り、乱れた状態を「ディス・バイオーシス」という腸管粘膜のバリア機能や免疫力が低下する原因になります。
健康的な腸内フローラを育てるために必要な食品をまとめましたので、ぜひ意識的に摂って下さい。
水溶性食物繊維 | 海藻、コンニャク、もち麦に多く含まれ、便を柔らかく性質があり、便通を良くしてくれます。特にごぼうには水溶性、食物生繊維の両方が多く含まれているのでオススメです。 |
発酵食品 | ヨーグルト、味噌、納豆など。善玉菌のエサになるのみならず、腸内を弱酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。 |
オリゴ糖 | バナナ、玉ねぎ、はちみつ、納豆や絹ごし豆腐に多く含まれ、善玉菌の中でも「ビフィズス菌」や「乳酸菌」のエサになります。 |
オメガ3系脂肪酸 | 青魚や亜麻仁油に多く含まれ、腸の炎症を鎮め、善玉菌が増えやすい環境を整えてくれます。 |
これらの4大栄養素をバランス良く摂るためには、和食です。和食には、水溶性食物繊維が豊富な根菜や海藻、納豆やぬか漬けといった発酵食品、オメガ3脂肪酸を多く含む青魚があります。また日本では古くから砂糖の代わりとしてオリゴ糖を含むハチミツが調味料として用いられてきました。つまり普段から和食を摂っていれば、意識しなくても腸を良好な状態にできていているはずです。
「腸」を強化・修復する「短鎖脂肪酸」
近年の腸内細菌の研究で、私たちの健康や病気は腸内細菌による影響が大きいことが分かっています。つまりどのような腸内細菌が働いてくれるかによって私たちの健康は決まります。
その中で、腸内細菌が食物繊維やレジスタントスターチを処理する過程でつくられる「短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)」は、エネルギーや大腸の粘膜の炎症を抑える効果があります。また大切な役割として、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン、アドレナリンなど)の濃度をコントロールすることも分かっており、精神の安定にも大きく関わっています。
なぜ、腸で生まれる物質が脳内で合成される物質に関与するのかは、例えばストレスを受けると、脳から腸へ情報が伝達されてお腹が痛くなるのと同様に、腸から脳への伝達が短鎖脂肪酸によって行われるからです。つまり腸内細菌がしっかり短鎖脂肪酸を合成してくれなければ、感情や情緒が不安定になってしまいます。
また、腸内には体全体の70〜80%の免疫システム、免疫細胞が配置されています。体にとっての毒素は吸収されずに体外へ排出されます。この吸収するのか排出するのかの選別作業を腸内細菌と免疫細胞が共同で行っています。その時に炎症を抑える腸の防御システムを強化・修復するのが短鎖脂肪酸です。
このようにエネルギー、腸内環境の悪化を抑える、免疫力、メンタルの維持に深く関わるのが短鎖脂肪酸です。
だたし、腸内環境が乱れていれば、短鎖脂肪酸がつくられても吸収されないのであれば意味がありません。故に短鎖脂肪酸の便中の濃度が腸内環境の指標になり、短鎖脂肪酸が多く排出されるほど腸内細菌の多様性がないとも言えます。
便が柔らかい、または下痢である方は、短鎖脂肪酸の排泄量が多い傾向があります。つまり便秘の方より腸内環境が悪く、全身の炎症反応が高い可能性があります。便中の短鎖脂肪酸濃度が高い方は、腸内細菌内の悪玉菌の比率が上がり、肥満や心血管疾患のリスクが高まります。
睡眠の乱れも「腸」にある
理想的な腸内環境は、多様な腸内細菌がある状態です。バランス良い食事を心がけることで、腸内細菌の多様性もつくられます。
最近の研究で、睡眠の乱れと腸内細菌の組成の間に明確な関連があることが分かりました。腸内細菌の多様性が高い人ほど睡眠の質が高く、多様性が低い人は、睡眠までの中途覚醒までの時間が短い、つまり長く眠れないとう結果になりました。慢性的な睡眠不足が腸内環境の悪化を促進する可能性が示唆されています。
寝つきを良くし質の良い睡眠を得るための簡単な工夫は、寝る前に自律神経をリセットする深呼吸を10回行うことです。昼間優位になった交感神経から副交感神経が優位な状態をつくるために、唯一意識的にコントロールできることが深呼吸だからです。
また、1日3食によって休むことなく消化活動を続ける胃腸に、間欠的ファスティングを行うこともおすすめします。間欠的ファスティングは食べて良い8時間と食べてはいけない16時間に分けることで、腸内の掃除の働き(MMC:空腹期強収縮群))を促進できるからです。掃除がなければ腸内の環境が悪くなることは当たり前のことです。
これらも面倒臭いと思った方には、朝一番で白湯(可能であればレモン水)を摂取しましょう。朝起きた時に失われた水分を500ml程度摂ることで、脱水状態になっている体を潤すことが大切です。
腸内環境を整える美容鍼灸
このように腸の不調が、メンタルへの影響だけでなく、アレルギーや様々な病気の原因にいます。健康的な腸内フローラを育てることで、腸内環境が整い、健康な体を維持することができます。
また、鍼灸治療すると、多くのお客様が施術直後から腸が働き出し、その動きが活発になると感じられています。このように鍼灸治療は胃腸の活動を促進することができます。ぜひ食生活の見直しと鍼灸治療を併用して、より健康で質の高い生活を手に入れて頂きたいと思っております。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。