頭の鍼で慢性腰痛にアプローチ

    頭の鍼で慢性腰痛にアプローチ

    日本整形外科学会の調査によると腰痛に悩まされている人は、日本全国に3000万人もいるとされています。ある統計では40代以上では、2人に1人が腰痛を持っていることが分かっており、日本人の80%が生涯で1度は腰痛を経験すると言われています。

    腰痛は放置しておくと様々な問題を引き起こして、例えば腰をかばって歩くため膝まで悪くなる、睡眠の質が下がる、さらには腰椎の重篤な病気に発展するなどが挙げられます。特に腰痛でおかしな歩き方が癖になることで膝に余計な負担がかかるようになり、その結果、膝の軟骨が削れて膝に痛みが出るようになります。

    そうなると痛い膝をかばい、おかしな姿勢になりさらに腰痛が悪化するという負のスパイラルに突入します。そして腰痛が悪化すれはさらに膝の痛みまで悪化し、出かけるのが億劫になって引きこもりがちになり、脳に届く刺激が減り、認知機能の低下してしまうかもしれません。

    またヘルニアによって下半身の自律神経が圧迫されることによって頻尿になってしまう方も多くいます。ただしこのような重めの症状は、全体の15%ほどで残りの85%は非特異的腰痛と言い、整形外科でレントゲン検査をしても原因が特定できないものばかりです。

    非特異的腰痛の原因は筋肉、神経、関節

    非特異的腰痛の原因は筋肉、神経、関節の3つが関係しています。なぜこれら3つを原因とした腰痛が医学的に原因不明になるのかは、レントゲンで映すことができないからです。レントゲンで映るのは骨と水だけで、筋肉や神経は 映りません。また肩や膝に炎症が起きている場合は、関節もレントゲンで映ることがありますが、腰椎で炎症が起きることは稀で非特異的腰痛の原因となる関節はレントゲンで映らないと考えるのが一般的です。

    腰周り筋肉を鍛えるヒップリフト

    これら3つの原因のうち1つ目の筋肉の問題を解決してくれるのが、インナー マッスルのエクササイズです。原因の分からない腰痛を予防するための方法が、インナーマッスルを鍛えるということです。非特異的腰痛の最大の原因は、骨盤内臓器の血行不良が挙げられます。つまりお腹の中にある内蔵が肩こりのように凝ってしまっていることが原因です。

    骨盤の中には男性であれば前立線、女性であれば子宮など血流が豊富な大きな 臓器がたくさん存在しています。これらの臓器は生殖器であるため、年を取るとだんだん使わなくなり、使わなくなってしまった臓器は血の巡りが滞るため肩こりと同じように凝り固まって痛みが出てしまうのです。

    子宮や前立線といった骨盤内臓器は、それ自体が痛むことは稀で、そこに繋がっている神経を通して脊髄が痛みを発することがあります。骨盤内臓器の神経は、その真裏にある腰の神経につがっているため、結果的に腰痛という形で痛みが現れることがあります。つまり腰痛を和らげるためにインナーマッスルを鍛えるのは、筋力アップではなく血流を改善し骨盤内臓器をほぐしてあげるのが目的です。

    インナーマッスルの鍛え方

    1. まずは仰向けに横になり膝を立てます
    2. その状態のまま息を吸いながらお尻をリフトアップします
    3. お尻を上げ 切ったらそこで体勢を維持し息を吐きながらお尻の穴をギュッと閉めます。この時にお腹の奥の方で収縮している筋肉がインナーマッスルです
    4. 息を吐き切ったらゆっくりとお尻の穴を緩め、息を吸いながらお尻を地面まで下ろします

    これを1日10回やるだけで骨盤内臓器の血流がアップし、コリがほぐれていく ことでしょう。また、このトレーニングは腰痛を改善するだけでなく骨盤内臓器を元気にして、エストロゲンやテストステロンといった若返りホルモンを分泌する効果もあります。

    神経の圧迫を解消する膝抱え

    2つ目の神経の問題を取り除く方法が、脊髄神経の圧迫を解消する膝抱えです。私たちの背骨は、たくさんのパーツがだるま落としのように重なってできており、これらの脊髄のパーツ1つ1つの間から神経が生えてくるという解剖構造をしています。

    年を取ると重力によってだんだん背のパーツが下へと落ちていき、それによって背骨の間から出ている神経が圧迫されてしまいます。これが酷くなった状態が脊柱管狭窄症です。これに至るまでの軽い神経の圧迫程度であれば日々のエクササイズによって圧迫を解除することが可能です。

    当然、神経が背骨の後ろを通っていることは前屈の姿勢になれば神経の通り道が広がって圧迫が解除されることになります。つまり膝抱えによって意図的に前屈の状態を作り出すことによって背骨の後ろにスペースができ、圧迫された神経へのダメージが和らぎます。この膝抱えもまた寝たままできる簡単なエクササイズで、仰向けに寝て膝を抱えてそのままの姿勢でゆっくりと呼吸するだけです。

    ただしこれをやっても腰痛が改善しなかったり、逆に悪化してしまうという人は椎間板ヘルニアの可能性があるため、このエクササイズによってむしろ悪化してしまう可能性があります。そのため膝抱えで痛みが悪化してしまった人は、 すぐに止めて整形外科に相談してみることが必要でしょう。

    背筋を鍛えて腰痛が改善する

    背筋は背骨を支える支柱です。中高年の腰痛の多くは、この背骨を維持する力がなくなってしまうことが原因とされています。背筋を強化するのは 背骨を安定した位置に保つために重要です。背筋が弱ると僅かな体の傾きでも椎間板に大きな負荷が集中します。

    背骨の間に挟まってクッションの役割をしているのが椎間板ですが、椎間板は年を取るとどんどん水分が失われて薄くなってしまいます。そんな時に背骨を 支えてくれるのは背筋だけです。背筋は背骨のブロックをまっすぐ積み重ねたまま、外から支えてくれる役割があるため、背筋が弱ってしまうとこの積み重ねが維持できなくなって椎間板が潰されてしまいます。それによって椎間板ヘルニアを始めとする腰痛の原因になってしまうことが知られています。

    研究では、脊柱起立筋が強い高齢者ほど椎間板変性の程度が軽く、腰通スコアも低いことが報告されています。また腰痛持ちの方の多くは、日常生活で背筋が十分に使えておらず、逆に腰の奥の小さな筋肉に負荷が集中してしまいがちです。背筋は、私たちの姿勢を面で支える筋肉です。面積が広いほど1点にかかる負荷は分散されます。しかし背筋が弱い人は、この分散ができず骨盤内の小さな筋肉に負荷が集中してしまいます。それによって血流が悪くなって腰痛が悪化してしまいます。

    関節を原因とした腰痛を取り除く

    私たちが関節の痛みと呼ぶもののほとんどが、骨の痛みか靭帯の痛みのどちらかです。なぜならば関節を構成している軟骨自体には痛覚がないため、痛みを感じません。腰痛と並び非常に多い関節の痛みが膝の痛みです。そして、こちらは膝軟骨が擦り減ることによる骨の痛みであることがほとんどです。

    一方で腰の骨には、椎間板というクッションがあるため軟骨が擦り減って骨が痛くなることはありません。そのため関節を原因とした腰痛は腰の周りにあるたくさんの靭帯の痛みであると考えることができるでしょう。例えば代表的な腰痛の1つにぎっくり腰がありますが、これがまさに靭帯の損傷による痛みに他なりません。

    靭帯は筋肉と骨の付着部ことなので、ぎっくり腰のような急性の靭帯損傷はじっと横になって炎症が治まるのを待つことが大切になります。しかし慢性的な腰痛は、逆にじっとしているとどんどん靭帯が固まって痛みが悪化してしまいます。そのため定期的にストレッチをすることで靭帯を伸ばし、柔らかくしてあげる必要があるのです。

    実は腰回りの骨には、多くの筋肉が付着しており、靭帯にも様々なものがあります。その1つ1つの靭帯をストレッチしようと思うと何時間もかかってしまいます。そのため腰の靭帯のストレッチは、猫のポーズによって全ての靭帯を丸々伸ばすことが可能です。猫のポーズはヨガで、キャットアンドカウとも呼ばれるストレッチで、背中から腰までを一気にほぐしてくれる効果があります。

    1. まずは4つんばいになり、両腕の間からおへそを除くように背中を丸めます。この時できる限りおへそを高い位置に持ってくるということを意識しましょう
    2. この状態でしっかりと息を吐きながら10から15秒保持します。この時、腰の背中側の靭帯が伸びています
    3. 今度は逆に両手を前へ滑らせ、胸を地面にくっつけるように体を沈めていきます。寝起きでストレッチしている猫のようなイメージです。
    4. この状態で再び息を吐きながら10 から15秒保持します。この時は先ほどとは逆に腰のお腹側の靭帯が伸びています。

    この猫のポーズを繰り返すことで徐々に腰回りの靭帯がほぐれます。このストレッチを習慣化することで関節を原因とした非特異的腰痛を和らげることができるでしょう。さらに深く呼吸することで自律神経が整うというメリットもあります。

    横向き寝で、腰痛やヘルニアが改善する

    40代以降にもなれば、多くの人が腰痛に悩まされます。そのように腰に痛みを抱えている人にとって、どの姿勢で寝るかは日常生活の質を大きく左右します。結論から言うと、腰痛の軽減に最も効果的な寝る姿勢は横向きです。青向きに寝た場合、腰とマットレスの間に空間ができてしまいます。それによって腰の骨である腰椎の自然なカーブが支えられずに腰が常時浮いてしまうことになります。

    私たちの背骨には重力の負担を逃すために自然なカーブがあります。このカーブが浮いてしまうことによって、腰に不自然な緊張が加わり、朝起きた時に腰痛が悪化しているケースも少なくありません。実際、研究でも腰痛を抱える患者には、仰向きよりも横向きの姿勢の方が腰への負担が少ないことが分かっています。

    一方で、横向きになることで背骨が自然なS字カーブを維持しやすくなります。 それによって背骨全体が整います。これは特に適切な枕とマットレスを使用した場合に顕著であって、骨盤や背骨が一直線に綺麗なカーブを描くことで、関節や筋肉にかかる圧力が均等に分散されます。また、この時に膝の間に枕を挟むことで、さらに腰痛予防効果がアップします。

    そのため横向きの姿勢で両膝の間に小さな枕を挟んでみましょう。それによって骨盤のねじれが解除され、腰の筋肉や人体のストレスが軽減されることが分かっています。

    実際、カリフォルニア大学の研究によると、膝の間に枕などのサポートを入れることで腰のねじれを防ぎ、椎間板ヘルニアや座骨神経痛を緩和してくれることが分かっています。ちなみに腰痛持ちの人が絶対にやってはいけないのが、うつ伏せ寝です。うつ伏せになると背骨が逆反りしてしまうことになります。これによって腰椎ヘルニアのリスクが高まってしまいます。

    交感神経が優位で慢性腰痛

    現代人の多くが悩む首肩こり、慢性腰痛はストレスなどによって交感神経が優位になりすぎるのが原因とも言われています。また筋肉のこりは、運動神経や交感神経の興奮によるものと考えられています。

    鍼灸の効果は、特に痛み・こり・しびれの早期根本治療が期待できることです。鍼灸刺激は血行を促進し、刺鍼によって固くなっていた筋肉の緊張がほぐれて柔らかくなります。また痛みや疲労の原因となる発痛物質を老廃物として排出する作用もあり、筋疲労の回復や浮腫(むくみ)を改善します。また鍼によって筋肉が緩むのは、交感神経優位の状態を抑えることができるからです。

    ただし、痛み・こり・しびれの多くの原因は、ひとつの部位の筋肉だけが原因になっていることは少ないため、局所的な治療(発痛点)だけでなく原因点を深く探っていかなければいけません。この原因点を考える上で大事なことが体の動きを診ることです。

    身体の動きを診る(運動学的視点)

    身体の動きを診るとは、単に動かして痛いという単純な見方ではありません。なぜなら動きは様々な筋肉によってつくり出されており、ひとつだけの動きではないからです。さらに上半身の動きが下半身の動きにもつながっている場合もあります。しかしながらこれらの連続した動作は、脳が反復した動作を記憶することで無意識に行っている筋肉の動きであり、その動きの起点となる部分に「ツボ」が存在しています。

    動かして痛い場合は、「ツボ」に異常が生じており、多くの場合に違和感を感じます。それが所謂、こりの状態であり、筋肉の動きの要である「ツボ」が正常に動いていない結果であるとも言えます。

    また、肩こりには肩こりのツボ(発痛点)に刺鍼すれば良いと思われるかもしれませんが、多くの場合は肩に原因点はありません。つまり肩こりを起こす原因は肩ではなく、その先の手や腕にあることが多くあります。

    肩こりが酷い人は、腕の曲げる部分にあるツボを押すと痛いなど、問題のある動作のツボ(原因点)に刺鍼すると動きが正常化します。もちろん肩であれば、肩に刺鍼することで痛みは治まりますが、この作用は一時的なものです。なぜなら局所的に筋肉の緊張を緩め、血行が良くなることで発痛物質が流されたとしても、問題のある動作のツボ(原因点)を改善しなければ、動き自体は改善されていないため、再び発痛物質が溜まるからです。

    ツボと経絡の流れ

    東洋医学には「経絡」という概念があり、経絡とは「気血が体内を巡る流通路」と考えられています。 例えば「電車の線路」でイメージすると、線路=経絡、駅=ツボです。この関係を見極めて気の流れに対してアプローチしていきます。

    実際は、経絡上にある筋肉や関節をイメージするのですが、いずれにせよ重要なのは「ツボ」ではなくて「経絡」です。つまり経絡上にあるのがツボであり、ツボを刺激することで対応する経絡の問題が改善するということです。そしてこの経絡の概念を考えるメリットは、内臓を含めた全身に波及した効果を見込めることです。

    腰の痛みを引き起こす原因

    腰痛の原因は様々ですが、原因が特定できるものは僅か15%と言われており、残り85%は、レントゲンなどの検査をしても原因が特定できていません。腰痛の代表的なものは、椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭などですが、過剰なストレスによって本来体が持つ「自己治癒能力」が発揮できなかったり、治っているのに頭が痛みの記憶をし続けることで痛みが続いたりすることがあります。

    特定できる15%の腰痛の原因には、大きく分けて①腰椎を直接障害するもの、②腰椎ではなく、臓器の周囲にある神経を刺激するもの、の2つに分けられます。このような場合は、骨への細菌感染やがんの骨転移といった命にかかわる危険な病気も含まれるため “たかが腰痛”と考えずに、早めに医師の診断を受けましょう。

    一方で、原因がはっきりしない腰痛には、冷えなどの身体的な影響以外にも、ストレス、神経障害などが複雑に関係していることが多くあります。これらの要因が複雑に合わさり、体をますます動かさなくなると、ストレスから、痛みを抑制する脳のシステムが機能しなくなります。それによって神経が過敏になり、さらに腰痛を感じるようになり、そしてますます動かさなくなるという悪循環を生み出します。

    多くの人が、ありとあらゆる治療や腰痛の名医と言われる先生方に治療してもらっても、一時的には痛みが緩和されるものの、再び振り返すケースのほとんどに、ストレスなどの心身症による影響が関わっていると考えられています。

    姿勢が悪いから痛い!?

    バルブリスト大学病院の研究では、整体やマッサージを受けて、腰痛が治ったと思う人いますが、実際は違う理由で治っていることが明らかになっています。姿勢の悪さは痛みの原因ではなく症状です。姿勢が悪いから痛いのではなく、痛みを気にするから姿勢が悪くなります。その観点から整体やマッサージで言われる6つの誤解が指摘されています。

    例えば、背骨が横に逸れてるから、右の骨盤の近くに負荷がかかって、右肩が痛いでしょうと言われると信じてしまいます。しかし背骨が左右に曲がってるかどうかと痛みは基本的には関係ありません。ただし事故やケガ、ヘルニアなどは除きます。

    また、肩甲骨が動くのが大事だから肩甲骨はがしが良いと言うのがありますが、肩甲骨がスムーズに動くかどうかも体の痛みとは関係ありません。もちろん肩甲骨がスムーズに動くのは悪いことではありません。

    さらに良く言われるのが、左右の足の長さの違いです。これも研究によると左右の足の長さが同じかどうかは痛みと関係ありません。また股関節などがちゃんと動くかどうかも関係ありません。これに加えて体幹が弱いから、トレーニングして体幹を鍛えないと背骨が曲がったり、筋肉でアシストする力がなくなり姿勢が悪くなるということも関係ありません。これらの要素が痛みを作り出すことを示した証拠は現在のところ見つかっていません。

    姿勢を改善しなくても痛みは治る

    レイファンカルロ大学の研究では、姿勢を改善しなくても痛みは治ることが分かっています。2007年に行われた研究では、頭痛の痛みに悩む患者のためにカイロプラクティックやマッサージ、姿勢を矯正するエクササイズやってもらいました。その上で3週間後と1ヶ月後に、どれぐらい痛みが変わったかを調査しました。この結果、確かに効果は出ており、治療を受けた患者は痛みを感じる回数は減り、その強さも減ったと報告されています。

    結局、首に負担が掛かり、首の神経と脳と繋がっているから頭痛になると思われるかも知れません。しかし研究では、確かに治療受けた患者は頭痛の回数が減り、その強さも減りました。ところが治療を受けた患者は姿勢が改善したわけではなかったのです。つまり姿勢矯正の治療を受けた結果、痛みは減りましたが姿勢は直ってなかったのです。

    姿勢の治療を受けたグループは、確かに痛みは改善していましたが、姿勢は何の変化もなかった、つまりプラシーボ効果であったことを研究チームは結論付けています。また最も重要なことは、患者に自分は痛み改善すると期待を持たせたことだろうと結論付けています。

    姿勢の改善、マッサージ、ストレッチのエクササイズは、これをやったから自分の痛みは治るだろうというメンタル的な要因が大きいことが分かります。だから人によって、その治療法の効果が違う理由になることが分かります。

    「脳」が慢性腰痛の原因

    慢性腰痛で悩まれている方、マッサージしても、ストレッチしても良くならない、またすぐ振り返すなど、実がその原因が腰そのものにあるのではなく、脳にある場合が少なくないことがわかっています。それらの多くは、怒りから生じたり、過剰なストレスから生じることがあります。また脳が原因の慢性痛治療には鍼灸が有効であることが脳科学で明らかになっています。

    明治国際医療大学伊藤教授(鍼灸師)の発表によると、慢性腰痛に悩む10人の内、7人に腰回りに痛みを起こす筋肉や関節が見つかり、そこで鍼治療をすることで4人が改善し、残り3人は腰への治療だけでは効果がなかったとしています。

    この発表のポイントは、残り3人には鍼灸治療が有効ではなかったということです。実は、先述したように慢性腰痛に悩む人は痛みを抑制する脳のシステムが働かず、痛みを起こす身体的な要因がないのに痛みを感じたり、もしくは痛みを強く感じてしまうケースがあることが知られるようになったことです。

    そこで、この3人に頭や手足を刺鍼し、脳の働きの改善を狙う鍼治療をスタートさせたところ、一か月後には、3人の腰痛は大きく改善しています。

    脳科学での「頭の鍼の効果」

    慢性腰痛などの慢性痛に悩まれる患者への頭や手足への鍼治療によって、症状が改善するメカニズムの解明が進んでいます。

    米ハーバード大学のジャン准教授は、慢性痛患者が鍼治療を受けた時の脳の活動をMRIで分析しました。その結果、痛みが改善した患者の脳に、痛みを抑制する「PAG」と呼ばれる部位に変化が確認されました。つまり鍼治療によって、痛みを抑制する脳のシステム「PAG」と痛みに関わる脳の様々なネットワークが回復する働きがあることがあると示されています。

    また、このように頭だけでなくて手足に刺鍼する効果は、鍼灸では良く知られた効果です。痛みを感じる箇所への刺鍼は、筋肉の緊張緩和や鎮痛作用に対し、痛みから離れた箇所、つまり経絡の流れを考えたツボへの刺鍼によって身体の働きのバランスを整えることができます。

    ちなみに今までは、ストレスによる自律神経の乱れのメカニズムは、過度なストレスを受け、自律神経が乱れて、心身の不調に繋がると考えられていました。しかし実はストレスを受けると、体が無意識に身を守るために自律神経(交感神経)を興奮させる準備をして、そのため心身の不調を感じるということが脳科学の研究から分かっています。またストレスが続くといつまでも体は身を守ろうとして自律神経を興奮させる警戒態勢を取り続け、その結果心身の不調が癖づくとも考えられています。

    この癖によって、不要な警戒態勢が体に力みを生じさせ、首肩、背中、腰、お腹などの緊張になります。この緊張を緩和するためにツボに刺鍼することで身体の警戒態勢を解き、交感神経の興奮状態のバランスを戻してあげることで自律神経症状を改善させることができるのが鍼灸治療です。

    普段の生活の中で、腰痛が出始めたとき、もちろん肉体的な疲れもありますが、精神的な疲れがないかどうかチェックして、心も体もしっかり休めるということも必要になります。また怒りやイライラなどの負のエネルギーも腰への影響が大きくなるため、脳への過剰なストレスがないかも考える必要があります。

    脳の痛みの記憶を書き換える 

    慢性腰痛などの痛みが改善されていても、脳が慢性的な痛み・こり・しびれのイメージを記憶したままになってしまい、身体の機能に対して痛み・こり・しびれを感じ続けることがあります。

    一方で、脳が錯覚している状態であれば、いくら原因点への刺鍼によって動作が正常になっても、脳のイメージのままに身体の状態を維持しようとして再発してしまいます。そのため、脳が誤認し続けないように、原因点に刺鍼を繰り返すことで脳のイメージを書き換えていく必要があります。脳のイメージの書き換えは、慢性化した期間、症状の重さ、体質などによって施術回数は異なります。いずれにせよ、原因点となるツボに刺鍼して、動作を正常化して再発しないように脳のイメージを書き換えていく必要があります。

    睡眠不足で腰痛や頭痛が酷くなる

    現代人の多くが悩む原因不明の腰痛や頭痛は、睡眠不足によって普段気にならない痛みに過敏になり、痛みを感じるという研究があります。カリフォルニア大学などの研究によると、十分な睡眠と睡眠不足の場合での痛みの感じ方を調べた結果、後者の方々は少しの痛みでも不快感を感じる結果となっています。つまり睡眠不足は脳の痛みに対する感覚を高めるということが示唆されています。

    もちろん何かの原因があって痛みが生じることがありますが、睡眠不足で脳が敏感になって痛みを感じるという可能性があります。実際に感覚的にデータだけでなく、脳をスキャンして不快感を感じるエリアが126%も活性化していたというデータもあります。さらに後に行われた観察研究でも、同じような結果となっています。

    原因不明の慢性腰痛や頭痛は、もしかしたら自分たちできることはまずは睡眠の質を上げることかもしれないということです。頭の鍼は自律神経の乱れを整え、スムーズな睡眠と質の高い睡眠を得るためにもおすすめできる方法です。

    慢性腰痛を湿布(冷やして?)で治す

    整形外科に通い慢性腰痛で湿布を処方されている方もいらっしゃると思います。湿布は痛め止めの薬(消炎鎮痛剤)で、気楽に貼れるため薬という感覚で使っている人はあまり多くありません。

    湿布を貼っているときは症状が楽になりますが、実は腰痛を早く治すためには湿布を使用するのは避けた方が良いです。消炎鎮痛剤として使われているアスピリン、インドメタシン、ケトプロフェンの成分は、鎮痛消炎作用の他に、体内で分泌される生理活性物質のプロスタグラジンを抑制する作用があります。

    プロスタグランジンは組織内に分泌されて血流を増やす物質です。例えば筋肉痛や打ち身などで患部に血流障害が起きると、このプロスタグランジンの作用により血流が回復するのですが、同時に治癒反応である痛み、熱、腫れ、かゆみが起きます。

    腰痛の主な原因は、腰の筋力低下や精神的なストレスによる血流障害である場合は多く、ここに湿布を貼るとプロスタグランジンの働きが抑制されてしまいます。つまり一時的には治ったように感じますが、湿布を貼る度に血流障害を繰り返して、痛みの原因が取り除かれないまま、腰痛が治ることなく慢性化してしまいます。

    さらにはプロスタグランジンの抑制は、体の冷えにつながり、胃痛、腹痛、膝痛などの別な痛みを起こしてしまう副作用が起こりかねません。

    湿布は、吸収率100%の経皮吸収であり、口から摂取する消炎鎮痛剤以上に副作用が強く現れる可能があります。また捻挫や打撲をした際に患部に痛みや腫れから熱が生じますが、アイシングや冷却スプレーを安易に使うと、血流障害を起こしてしまいます。

    腫れや熱は負傷した部位を治そうとして、体がそこに血液を集中させるために起こる現象なので、アイシングなどは回復しようとしている状態を冷やして止めようとするため、痛みを慢性化させたり、さらなる関節痛や怪我につながる可能性があります。

    怪我は冷やさない

    東洋医学では捻挫や打撲などの怪我を「血が滞っている状態」と考えます。そのため、お灸で温めて血行を良くしたり、血液の流れを促すツボなどが用いられます。一方でスポーツ先進国のアメリカでは、怪我を冷やす応急処置の方法(RICE処置とはRest(安静)・Icing(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上))が1970年代末に提唱されて日本でも広く普及しました。

    しかし、近年このRICE処置の効果を否定するような研究や事例が数多く報告されています。例えば、神戸大学大学院荒川准教授の研究では、アイシングを行うと筋肉の再生が遅れることが確認されています。アイシングによる血流の低下によって、筋肉の再生に必要なマクロファージという細胞の働きに影響が出ていると考えられています。

    そのため、多くのドクターが「ケガの直後は冷やし、その後、温める」というケアが推奨されています。冷やすことで痛みを緩和して、出血や炎症を抑え、その後温めて血行を良くして、患部の治癒を促進することが大切です。アイシングはあくまで「応急処置」なので、大きなケガや痛みや内出血が止まらない場合は、病院での診察・治療を受けてください。

    一方で、慢性肩こり・腰痛などは、痛みが起こっている部位の血流を良くするため、基本的に温めます。また疲労(重だるさ・むくみなど)も同じく、血流を促進させて、筋肉に蓄積した老廃物などを解消させます。

    慢性腰痛は温めて筋肉をほぐす

    当院導入の高周波加温治療器(ラジオ波)を体に流すことで、体内から熱を発生させ、怪我の痛みや治癒促進、コンディショニングを整える、自律神経を整えるなどの効果が得られます。

    特に、腰痛の原因の一つとして、腰背部の筋肉の硬さが関与することが分かっています。つまり、腰のまわりの筋肉の硬い人ほど腰痛になりやすいということです。この腰部痛に関与する筋肉に対して加温することで筋組織の硬さ、血流改善の効果がみられるという研究結果が発表されています。

    慢性腰痛には血流改善

    腰痛バンドなどのコルセットを装着して過ごすことを習慣にしている人が増えていますが、腰や背中、股関節の動きが制限されて血流障害を起こすことがあります。

    そもそも腰痛の原因の1つが血流障害であるため、コルセットで締め付けることで血流の悪化にさらに追い討ちをかけることがあります。そのため血流を確保するためにも、腰痛になっても動かせる範囲で少しずつ体を動かして血流が滞るのを防ぎましょう。

    腰痛の注意点

    腰痛をお持ちの方で危険な疾患があり、病院に行かれた方が良いケースがあります。特に20歳以下と55歳以上の方に多い傾向があります。55歳以上の方は圧迫骨折の可能性、20歳以下であればすべり症が挙げられます。圧迫骨折の場合は、叩打痛や掌圧痛はもちろんのこと、ベットからの立ち上がりで痛みが出たとか、歩いている時に痛みのない場合(安静時痛)もあります。

    また、時間や活動性に関係のない腰痛として、体重減少が見られるような場合(がんの既往がある)、胸部痛(腹部大動脈瘤)、広範囲に及ぶ神経症状(馬尾症候群)、構築性脊髄変形、発熱(化膿性脊髄炎などの感染症)などの疾患が隠れている場合は病院に行きましょう。

    慢性腰痛に効くツボ

    慢性痛の予防や改善には、日常的にツボ押しなどのセルフケアが大変効果的です。腰痛の人にオススメのツボは以下の2つ。

    腎愈(じんゆ):ウエストの一番くびれた部分の、背骨から指2本分横にずらしたところ

    大腸愈(だいちょうゆ):ウエストの高さ、同じく背骨から親指1.5本分横にずらしたところ

    腰痛の人にオススメのツボ

    次に腰痛だけでなく慢性痛に広く役立つツボです。ストレスからくる体のこわばりや痛みを和らげるのに特に効果が高いツボ。

    頭維(ずい):額の髪の生え際から親指半分ほど奥

    慢性痛に広く役立つツボ

    ※ツボは、気持ち良い強さを感じる程度で押してください。

    指でゆっくり5秒ほど押し、そしてゆっくり指を離す、これを5セットほど繰り返します。押しすぎには注意してください。

    ご自身のお悩みによってケアする部位も変わってきますので、気になる点はカウンセリング時に鍼灸師にご相談ください。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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