「頭の鍼」で睡眠負債の解消

    「頭の鍼」で睡眠負債の解消

    寝なかった分、週末に寝れば良いってわけではなく、睡眠不足が続くと睡眠負債と言って、睡眠不足は実は借金のように積み重なっていきます。1日だけ寝られなかったら1日だけの負債で済みますが、2週間寝られなかったらそれは2週間分の負債が溜まり、1日しっかり眠っただけでは睡眠負債は返済できません。例えば8時間寝ないといけない人が6時間しか眠れていなかったら、その分の睡眠負債がどんどん貯まっていきます。

    睡眠負債の現状

    この大きな負債が溜まっていく睡眠負債とは、慢性的な睡眠不足の状態が蓄積されて心身へ支障をきしている状態のことを示します。睡眠時間には個人差があり、職種や日中の活動量によって変わりますが、一般的には6.5時間から7 時間程度とされています。経済開発機構OECDの調査によるとアメリカ、イギリス、フランスを初めとする多くの先進国、そして同じアジアの国、中国では1日の平均睡眠時間が8時間を超えている一方、日本は7 時間22分と最も短くなっています。

    また、厚生労働省の調査によると40代男性の睡眠時間は11.3%が5時間未満、5時間以上6時間未満が37.2%、そして40代女性は5時間未満が10.6%、そして5時間以上6時間未満が41.8%と40代の男女半数が6時間以下の睡眠時間でした。また睡眠で休養があまり取れていないと答えた人の割合も40代が30.9%となっていて、20代から50代までの中で最も多くなっています。

    日本人の睡眠不足による経済損失は約15兆円とも言われ、睡眠の質を調査した内容では、眠りが浅いと答えた人は全体の44%に登り、その内17%の人は不眠 症の経験があると答えています。睡眠時間が5時間を切る日が続くと、脳はチューハイを数杯飲んだ時と同じくらい機能が低下してしまいます。

    これだけにとまらず免疫力の低下も確認されており、5万6953人の女性を対象にした調査によると、睡眠時間が5時間以下の人は、8時間前後の人たちに比べて肺炎になるリスクが1.39倍、風邪のリスク2.5倍 から3倍、乳がんのリスクが1.62倍、男性では前立線がんのリスクが2.08倍になるという報告も上がっています。

    睡眠不足による影響は、様々な悪影響があり、脂肪や糖の代謝が悪くなり、交感神経の緊張が続き、血圧も上がり、睡眠時間が6時間以下の人は肥満、糖尿病、心臓病の有病率の上昇、さらにうつ病、事故、自殺のリスク上昇が挙げられます。4419人の日本人男性を調査した自治医科大学の研究では睡眠時間が6 時間以下の人は、7から8時間の人に比べて死亡率が2.4倍高くなるという報告まで出ています。

    睡眠負債の体への影響

    睡眠不足になると疲れやすく体がだるくなり、なかなか起きれない、やる気が出なくなります。また2003年に睡眠不足がパフォーマンスにどのような影響を与えるかを調べた実験(パソコンの画面かボタンが光るとすぐにボタンを押すという簡単な集中力が必要な実験)では、反応の正確性と押すまでの速さを測定しました。全員8時間ぐっすりと眠った後、グループ1は72時間、つまり3日間ずっと起きているグループ、グループ2は毎晩4時間だけ寝るグループ、 3は毎晩6時間寝るグループ4は、毎晩8時間眠れると分けて計測しました。

    毎晩8時間眠ったグループ4では、パフォーマンスに何の問題もありませんでしたが、3日間徹夜したグループ1では、24時間後にミスが5倍になりました。そして毎晩4時間寝たグループ2と毎晩6時間寝たグループ3では、3日間完徹したグループ1と同じくらいのパフォーマンスの低下が見られ、ミスが5倍に増えました。そしてグループ3の6時間睡眠では、10日後にグループ1と同じレベルまでパフォーマンスが低下したことが分かっています。

    徹夜したグループは24時間後に、8時間睡眠より4 時間少ないグループでは、4時間×6日間で24時間、8時間睡眠より2時間少ないグループ3では2時間×10日間で20 時間、どのグループもほぼ同じ時間分の睡眠負債でパフォーマンスが同じように落ちるという結果になりました。

    睡眠不足になるとカナダのウェスタン大学での研究で睡眠不足後の脳をMRIで検査して脳の血流を調べた研究では、同じ人を使って通常の睡眠後と睡眠不足後の認知テストを受けている最中の脳内の状態を比べた結果、後者では血流の流れが歩くなり、意思決定や問題解決、記憶で重要として知られている前頭葉と頭頂葉の活動が睡眠不足後は減ってしまうと考えられています。そのため認知力や判断力が低下し、ネガティブな感情や衝動に走りやすいということになると考えられています。

    睡眠中に脳のお掃除

    私たちが眠くなるのは起きている間に分泌されるアデノシンという物質が関係しています。このアデノシンが脳に蓄積されて、私たちは眠気を感じ、眠くなります。そしてアミロイドβと共に寝ている間にアデノシンは掃除されますが、睡眠の質が悪かったり、睡眠時間が取れないとアデノシンが脳から完全に取り除かれず、翌日も残ったままになってしまいます。そして次の日も睡眠不足でアデノシが溜まり、また寝不足でアデノシンが溜まっていくという負のスパイラルに陥って、これが心の病に繋がります。

    アデノシンは、私たちのやる気を引き出したり、快感や多幸感、運動や学習、感情、意欲、記憶、理性、理解といったことに影響を及ぼすドーパミンの分泌を抑えてしまう効果があります。実際にドーパミン欠乏状態になると、うつ病無気力、集中力の低下ストレス障害、不安障害、適応障害の症状が出ることが分かっていて、これは睡眠不足の症状とも見事に一致しています。さらにドーパミンが出ないと不眠にもなりやすく、寝不足、睡眠負債の蓄積、不眠の悪化、さらに寝不足というように眠れないスパイラルに入ってしまいます。

    大切になってくるのが睡眠時間よりも睡眠の質です。当然睡眠時間もきちんと取った方が良く、ハーバード大学の調査では7時間から8時間の睡眠時間がベストということが分かっています。また睡眠の質を上げることで短い時間でアデノシンやアミロイドベータの脳のゴミを処理できることも分かっているため、睡眠の質を上げることは睡眠時間と同じように大切です。

    マイクロスリープ

    ベッドに入って目を閉じたら次の瞬間寝ている人は、もしかしたら気絶しているかも知れません。この場合の気絶は、睡眠負債が溜まることによって脳の血流が阻害されて、一時的または突然の意識障害が起こる状態を言います。一時的とはいえ、意識消失を起こしている状態であり、もちろん気絶したことは本人は覚えていません。そして呼びかけてもなかなか起きないという特徴があります。

    そして気絶した状態だと起きた時、頭がボっとしている、手足がしびれている、寝てから何回も目が覚める、朝起きてから3時間くらいでひどく眠気に襲われるなどの状態が挙げられます。睡眠負債のない健康な人だと普通は布団に入ってから10分から20分くらいは寝るまでに時間がかかると言われています。

    また、質の悪い睡眠が続いて睡眠負債が大きくなっていると精神的にも肉体的にも疲労が溜まり、活動していない時に強い眠気に襲われます。電車の吊り革に捕まって立ったまま寝てしまって膝がガクッと落ちた人を見たことありませんか。日常で体を動かさない時、例えば会議中とか電車の中など、刺激がなくなった途端眠くなって寝てしまう状態では、睡眠不足に陥っているサインです。その 状態は眠りに落ちるというよりも一瞬だけ意識が無くなるマイクロスリープという現象です。

    マイクロスリープが起こると数秒から数分間脳が外からの情報を取り入れなくなり、視覚情報だけでなく全ての近がシャットアウトされ、全く反応しないと いう危険な状態です。本人は起きているつもりですが、このような状態になると作業や思考力の低下を招き、作業中のミスやトラブルの原因になります。ちなみに眠気を感じたら10から20分の仮眠を取ることがマイクロスリープの予防には効果的です。

    睡眠負債を解消する

    朝起て3から4時間後という午前中の時間は、脳が最も活発に働く時です。この朝の時間に眠くなるのは、睡眠負債が溜まっていると考えられます。朝7時にきる人だったら10時や11時頃、この頃に眠くなる人は睡眠負債が溜まっているかも知れません。

    また、睡眠負債が借金であるというイメージから休日に少しでも日頃の負債を返済したい、たくさん寝て日頃の睡眠不足を補っておきたいという人は多いですが、睡眠がお金と大きく違うところは貯蓄できないことです。また一気に返済できないこともできません。そして休日に2時間以上寝てしまうことは、それ自体が睡眠不足のサインです。これは別の睡眠不足を引き起こしてしまいます。

    時差ボケは、時間枠が違う外国へ旅行に行った時に体内時計が狂い、夜なのに眠れなかったり、昼間なのにぐったり疲れてしまったりという現象のことです。休日に余分に寝ることが時差ボケになってしまうのは、体内時計は24時間の睡眠と覚醒のリズムで体温や血圧などの自立神経ホルモンの分泌等の生理活動に関わっているからです。つまり週末や休日に2時間余分に寝てしまうということは、その平日のリズムを崩してしまうことになります。この休日に2時間余分に寝て体内時計が狂ってしまう現象を「社会的時差ボケ」と呼びます。

    1年中時差ボケを経験している国際線の客室乗務員を対象とした研究によると、脳の学習と記憶に関する部が実際小さくなっていることが分かっています。これは時差ボケのストレスで脳の一部が破壊されたためと見られています。

    また、社会的時差ボケになりやすい人は、がんや2型糖尿病などのリスクが平均よりもかなり高くなることが分かっています。例えば平日に6時間溜まった睡眠負債を土日で一気に3時間ずつ寝て返済しようとすることは社会的時差ボケを招き、逆効果になることから避けるべきです。スタンフォード大学医学部精神科西野教授によると1日40分の睡眠負債を取り戻すのには約3週間かかるとのこと。

    明治薬科大学の駒田准教授によると、休日に平日の睡眠不足を一気に解消しようとするのではなく、平日に30分早く寝て睡眠時間を増やすようにすることが推奨されています。つまり睡眠はコツコツと返済していかないといけません。どうしても早く寝ることが難しい場合は、休日も平日と同じ時間に起きて夜の睡眠に影響を与えない範囲で午後3時までに1から2時間程度を目安として昼寝をすることを駒田准教授は提案しています。

    また、体内時計が狂ってしまったら屋外に出て太陽の光を浴びると体内時計がリセットされます。眠くなるホルモンのメラトニンは太陽光を浴びてから14時間後に再分泌され、朝日を浴びることは体内時計をリセットして夜眠るためにとても大事です。

    甘いものをやたら欲しくなる

    睡眠不足だと太りやすくなるのは、睡眠が食欲をコントロールするホルモンと関わりがあると考えられているからです。アメリカのコロンビア大学が2005年に行った30から60歳の男女5000人を対象に調べた研究によると、平均7から9時間の睡眠時間の人に比べて、4時間以下の睡眠の人の肥満率は73%も高いことが分かっています。

    スタンフォード大学の調査によると睡眠時間が8時間の人に比べて5 時間しか寝ていない人は、食欲が湧くホルモングレリンの量が15%多く、食欲を抑えるホルモンレプチンの量が15%少ないという結果が出ています。つまり起きている時間が長いとその分、私たちの体は甘いものや脂肪を沢山確保するように促して、それらを少しでも多く貯めようとしてしまいます。

    一方で、よく寝ることで基礎代謝を上げることができます。基礎代謝は内臓を動かしたり、呼吸をしたり、生きているだけで消費するカロリーのことです。私たちの基礎代謝量を上げてくれるのは成長ホルモンという就寝してから3時間経たないと分泌されないホルモンです。これが少ないと基礎代謝量が上がらず太りやすくなってしまいます。

    睡眠のための環境を整える

    快適な睡眠のための基本は、寝る時には部屋を暗くすること、そして静かな環境を作ることが大切です。部屋を暗くするのは寝る時だけではなく、夕方から少しずつ照明を落として暗くしていくようにすることがお勧めされています。メラトニンの分泌を活発にさせるために、スマートフォンやタブレットなどのブルーライトも寝る1 から2時間前には見てはいけません。また一般的には18から22度のちょっと肌寒いくらいの室温が最適とされています。

    また、フレグラントを寝室に使うことも効果的です。睡眠のために一番おすすめなのがラベンダーです。ラベンダーは昔から神経を落ち着かせたり、痛みを和らげたりして睡眠に導入する作用があると言われています。代替医療研究によるとラベンダーの香りを嗅ぐことで脳波にリラックスした時に現れるα波が見られることが分かっています。またラベンダーは神経伝達物質のGABAを刺激し、メラトニン分泌を助ける働きがあることも分かっています。

    ミネソタで79人の大学生を対象に行われた睡眠の研究では、ラベンダーの香りを嗅ぐことが脳の神経細胞に作用し、睡眠の質が向上することが証明されています。また質の良いラベンダーのエッセンシャルオイルを染み込ませたハンカチやラベンダーのポプリをベッドサイドに置くと睡眠薬を飲んだのと同じ効果が得られます。一方で温かいカモミールティーも寝る前に飲むと良いと言われています。カモミールは抗酸化作用があるフラボノイドを持ち、精神を落ち着かせる働きがあります。

    睡眠の質を上げる

    睡眠の質を上げるためには、まずは換気をきちんとすることです。臨床研究で室内の二酸化炭素のレベルが1000ppmの濃度に達すると脳が軽い血状態になり、パフォーマンスが下がると言われています。実際に米国環境健康科学研究所が発表した内容によると、CO2濃度レベルが600ppmから1000ppmに増加 すると、人のパフォーマンスや意思決定力は約20%低下し、1400ppmでの平均 低下率は50%、さらに2500ppmでは低下率は65%となることが分かっています。そして換気していない締め切った部屋で寝ていると4000ppmまで上昇してしまうことが実験で明らかになっています。

    東京消防長の調べでも3000ppmを超えると頭痛やめまい、ひどい時には吐き気を起こし、6000ppmを超えると意識を失うこともあります。睡眠中の 4000ppmは危険レベルと言っていいほど二酸化炭素が上昇していることになります。

    具体的に換気する方法は、例えば6畳の部屋なら窓とドアの2箇所を開けて風通しを良くすれば、5分くらいで換気ができます。実際にデンマーク工科大学が行った研究では、換気をすることで目覚めが良くなり、睡眠の質を計測した結果でも改善している結果になり、さらに気分の向上、集中力アップ、思考力テストの得点上昇などの報告も上がっています。

    【本コラムの監修】

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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