鍼灸で依存から脱却

    鍼灸で依存から脱却

    私たちの脳は、毎日膨大な量の電気信号を処理している他、様々なホルモンによって情報伝達を行っています。しかしあまりにも酷使しすぎると様々な悪影響が出てきてしまいます。特に現代人の多くが陥っているのがドーパミンの過剰放出です。脳がドーパミン中毒になると、依存性の高い行動が止められなくなります。

    ドーパミン依存

    血液などの液体成分によって運ばれ、体の様々な場所で作用する生理活性物質をホルモンと言います。例えば幸せホルモンのセロトニンは、私たちの脳で働くことによって、その名の通り幸せな感情を作り出してくれます。セロトニン以外にもオキシトシン、ドーパミンの3つがあります。セロトニンは嬉しかったり、楽しかったりするポジティブな感情を、オキシトシンは安心したり、落ち着いたりするような幸福感を、そしてドーパミンはワクワクしたり、興奮するといった感情を生み出します。

    しかし少量であれば幸福感を生み出してくれるセロトニンもあまりにも放出されすぎるとセロトニン症候群という症状を発症してしまいます。この症状は、セロトニンを増やす作用のある抗うつ剤のオーバードーズによって引き起こされます。その中でも今現代人の多くが罹患しているのがドーパミン中毒です。

    ドーパミンが血中に放出されて、それが脳のドーパミンの受容体にくっつくと強い幸福感を感じるということが知られています。その有名な例としてコカインなどの麻薬が挙げられます。しかし現代社会には脳のドーパミンを増やし、私たちを簡単に依存させてしまうような合法的なからくりがたくさん存在しています。

    例えば、子供のボタンやスイッチへの依存症です。子供ってエレベーターのスイッチをよく押したがりますが、自制心が未熟な子供は欲望に忠実であり、エレベーターのスイッチを押しまくる行為には実はドーパミン依存があります。

    脳科学研究では、私たちがボタンを押すなどの行為を行った際に予想外のフィードバックが返された時に最も強くドーパミンが放出されるということが分かりました。ボタンやスイッチを押すということは自然界にはなく、本能的にその意外性を感じ、そのフィードバックによって多くのドーパミンが放出されるというメカニズムがあります。私たちは大人になるとこういったスイッチを押すことにも慣れてきます。つまりフィードバックが予想の範囲内になり、ドーパミンが放出されなくなり、ある種の慣れが訪れてしまいます。

    しかし世の中には、このドーパミン依存を逆手にとって魅了してきたのがスロット(ギャンブル)です。さらに現代社会は、ボタンやスイッチのフィードバックを予想外のものにするためのツールであるスマホがあります。スマホが普及してきてから、ネット依存が大きくクローズアップされていますが、物理的な環境に置かれたスイッチと違い、画面の中のスイッチはフィードバックを無限に新しいものに更新していくことができます。

    ネットショッピング依存

    スマホの普及によってボタンやスイッチの依存だけではない、ネットショッピング依存症という脅威に晒されています。昔から買い物依存症は存在していましたが、買い物依存症のメカニズムはお金を浪費することでストレスが発散され、そのストレスから解放される気持ち良さから依存してしまうと言われていました。しかし最近ではネットショップで大量の買い物をすると、ドーパミンが大量に放出されていることが脳科学の研究から明らかになっています。

    超正常刺激の罠

    脳に悪影響を与えてしまうドーパミン依存の原因として、昨今の神経学会で注目を浴びているのが「超正常刺激」という言葉です。超正常刺激とは、現実にはありえないにも関わらず、私たちの本能をくすぐるような刺激のことです。この超正常刺激で最も代表的なものが同人誌などのアニメキャラです。

    ご存知の通り女性のキャラであれば、胸やお尻などが強烈にデフォルメされ強調されています。一方で男性のキャラは髪型がデフォルメされ鉛筆のような細身で表現されています。また顔を可愛く描くために異常なほどに目を大きくするというのも超正常刺激を利用した作画法の一つです。

    このようにデフォルメされたキャラクターが現実にいると非常に強い違和感を覚えます。超正常刺激というのは本来であれば私たちの本能をくすぐるはずがないにも関わらず、私たちの本能をくすぐるという大変不思議なものです。このようなアニメなど超正常刺激は私たちの脳でドーパミンを過剰に放出させます。

    他にも身近なところではジャンクフードがあります。例えばメロンソーダは、美しい色合いの飲み物は自然界には存在しないにも関わらず、なぜか私たちの 購買力を誘い飲みたくなってしまう魔力があります。このような得体の知れない自然界には存在しないジャンクフードもまた超正常刺激の一つであると言えます。

    もちろん、自然界に存在しないものをつくることは、常にクリエイティブなことであり人類の歴史を形作ってきた文化的発展そのものです。しかし現実に存在しないような刺激は、私たちの脳を混乱させドーパミン依存させやすい性質があるということも非常に重要な点です。

    運動依存

    日本ではまだあまり知られていませんが、ヨーロッパやアメリカなどの諸外国で徐々に問題視され始めている依存が運動依存症です。欧米諸国で運動依存症が生まれた背景には、ウェアラブルデバイスの普及があります。ウェアラブルデバイスはスマートウォッチをはじめとして、身につけておくことによって心拍数や代謝など様々な情報を読み取ってくれます。しかしこのような健康的なはずのウェアラブルデバイスが脳のドーパミン依存を生んでしまう原因になっており、それはそのゲーム性にあると考えられています。

    毎日の運動記録を統計化してくれたり、同じアプリを使っている人同士を走った距離を、ランキング形式で表示されるものまであります。

    いずれにせよ健康的な運動習慣につながったということであれば素晴らしいことですが、日本ではこのような運動アプリによって中毒を始めとするマイナスの症状が出たという話はまだあまり耳にしません。しかし欧米ではそのような運動依存症も今問題になりつつあるというのは頭の隅に止めておいても良いかもしれません。

    糖質依存(エモーショナルイーティング)

    過剰なストレスやイライラ、不満が原因でお腹が空いていないのに食べてしまうのは、エモーショナルイーティングという症状です。これはストレスや不安を和らげるためにお腹が空いていないのに食べてしまうという状態で、人は何かに集中している時に幸福感を感じるため、食事が手軽に集中することができる活動の1つだからです。

    人は欲を満たしている時に集中することができ、通常の作業や他の物事よりも食事というのはより集中しやすいものです。何か一つのことに集中すると余計なことを考えないで済むため、例えばストレスや不満を抱えている人は、何もしていない時にイライラが募ったり、余計なことばかり考えてしまい、さらにイライラしてしまいます。こうした状況から抜け出したくて何か集中する対象が食べることにつながってしまいます。

    また、より欲求を満たしやすい糖質の多いもの、脂質が多いものを食べたくなるというのもエモーショナルイーティングの特徴です。

    また、仕事のストレスや人間関係のストレスがないにも関わらず、ついつい食べ過ぎてしまう人は睡眠時間が足りていない可能性もあります。なぜなら睡眠時間が足りていないと、体内のホルモン調整が働かず、食欲を増進するホルモンが過剰に分泌するからです。このように体内のホルモンバランスが崩れによって食欲が過剰になっている人が多くいらっしゃいます。

    鍼灸でストレスを軽減

    ストレスの軽減効果については、過去様々な実験が行われています。多くの研究で慢性的なストレス疾患に効果が科学的に確認されています。例えば2015年Medical News Todayで発表された内容では、ジョージタウン大学病院の研究者によって、鍼灸が慢性ストレス疾患に効くことが確認されています。

    研究リーダーは、鍼灸が人のストレスや痛みだけでなく、潜在的にうつ病にも効果があること示し、鍼灸(足三里への鍼灸の施術)がHPA(視床下部-下垂体-副腎系)に作用し、ストレスホルモンを減少するのと同じ作用があることを確認しています。

    足三里(あしさんり):膝の下の外側のくぼみから、指4本分下がったところ

    足三里(あしさんり)

    情報依存

    例えば1日の大半をメールやLINEの返信、 SNSをひたすら巡回したり、またテレビのニュース番組に釘付けになったり、こういった情報をひたすら頭に入れ続ける作業は情報処理に溺れている状態と言えます。ついつい目にする情報の時間にばかりに時間を割いてしまって、本当に大切なことに時間を使うことができなくなっています。

    これらの背景には、不安に依存することが挙げられています。そもそも人は不安に依存する生き物だということが分かっています。つまり人は本能的にネガティブな情報を追い求めてしまう生き物であり、これをネガティビティバイアスと言います。なぜなら人が本能的に危険なものに注意を向けることによって、その危険を回避してきた歴史があり、そのことが原因だと言われています。

    古来であれば、私たちが知り得る情報というのは自分自身に関係がある情報で、身の回りの情報や危険に対して注意を向けることができていれば、生命の危険から逃げることができていました。

    しかし、現代は身の回りの事とは関係ない情報や自分とは全く無関係の情報がテレビやネットからたくさん入ってきます。そういった私たち自身に関係ない情報のネガティブな部分にばかりに囚われてしまうという性質があり、調べれば調べるほどどんどん不安になり、さらに調べずにはいられないようになります。つまりネガティブな情報というのは依存性があり、一度調べ始めたら、さらに情報を調べないと気が済まないようになり、自分が知らないところでとんでもないことが起きているんじゃないかと言う風に考えて、さらにテレビやネットが見たくなります。あなたが仕入れている無数の情報は、時間を浪費させるばかりか不安な気持ちを増幅させるだけのものであり、それをしっかりと認識する必要があります。

    アルコール依存

    依存の中でもアルコール依存症は、再発を繰り返すことが特徴であり、日本でも社会問題化しています。過去には酒は百薬の長とも言われた時もありましたが、数々の研究で少量であっても百害あって一利なしと結論付けられています(有名なのが2018年の英ケンブリッジ大学の研究)。

    これまでの研究では、ラットに慢性的にアルコールを摂取させると、視床下部のβエンドルフィンニューロンの活性が低下することが分かっています。この視床下部のβエンドルフィンの活性の低下が、アルコール依存による不快感やうつ状態の原因となることが指摘されています。またアルコール摂取を止めると、ドーパミン量の低下が起こり、これが否定的な感情などの根本原因と考えられており、飲酒行動の再発を引き起こすとされています。

    鍼灸でアルコール依存から脱却

    鍼灸治療によって、ドーパミン放出量を正常化させることができ、アルコール依存性の症状緩和の可能性が示唆されています。アルコール依存から離脱すると、βエンドルフィン、内因性オピオイドの量が低くなり、GABAニューロンが抑制されなくなることでドーパミンニューロン活動が低下します。その結果として不快感や不安などの症状が生じます。しかし鍼灸によってβエンドルフィン量を正常化し、オピオイド受容体を活性化することが分かっており、ドーパミン量を回復させることで依存からの脱却を促すのではないかと考えられています。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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