首肩こりの原因は深層筋

    首肩こりの原因は深層筋

    筋肉は何層にも重なっており、皮膚の表面近くの「表層筋」と骨や関節近くの体の深部にある「深層筋」があります。それぞれ役割があり、体を動かす動作を担うのが表層筋、体のバランスを保ったり、ある姿勢を保持させるのが深層筋です。

    こりから生じる痛みやしびれの根本原因の多くが深層筋にあります。なぜなら深層筋は表層筋に比べて緊張しやすく、こり固まりやすい上に疲労しやすいという特徴があるからです。深層筋は表層筋により常に圧迫を受けている状態なので、血液循環が滞りやすく、老廃物や疲労の蓄積が慢性化しやすい筋肉です。さらに無理な姿勢が続くことで筋肉が常に緊張して、拘縮状態になり、いったん損傷してしまうと回復しにくい筋肉です。

    筋肉の緊張や疲労によって痛みやしびれを感じると、体は無意識にかばうような動きなり、常にアンバランスな力によって負担がかかり、さらに炎症を慢性化させてしまうことになります。

    体の柔軟性と寿命の関係

    体が柔らかい人ほど長生きする傾向があることが分かっています。体が硬いとは、関節の動く範囲が狭いことであり、例えば前屈しても指先が床に届かない、肩を後ろに回すと痛みを感じるなどの状態のことです。人は年齢を重ねるにつれて体の柔軟性は自然に低下し、筋肉や靭帯の弾力性が失われて関節周囲の組織が固くなります。そして体の柔軟性は、日常生活の質に大きく影響します。普段何気なく行っている動作も柔軟性が低下すると困難になるため、普段から意識して体を動かすことが重要です。

    2024年8月に発表された研究論文で体の柔軟性と寿命の間に明確な関連があることが示されました。これはスタンフォード大学とハーバード大学の共同チームが行った研究で、46歳から65歳の3139人を対象に、平均13年間に渡って定期的に健康状態をチェックしました。特にこの年齢層は加齢による体の変化が顕著に現れ始める時期であり、また生活習慣病のリスクも高まる年代でもあります。

    柔軟性の測定は、フレクシーテストが行われ、各関節の稼働域を客観的に評価し、0から4点のスケールで点数化されました。具体的には、足首、膝、股関節、体幹、手首、肘、肩の7つの関節の柔軟性を測定しています。

    その結果、柔軟性が高い人ほど13年後の生存率が高かくなりました。具体的には、柔軟性スコアが最も高い群は、最も低い群と比べて全死因による死亡リスクが23%も低くなりました。特にこの関連性が年齢性別BMI、喫煙習慣、運動量などの要因を調整しても変わらなかったことだが挙げられます。

    このように柔軟性が高いと長生きできるのかは、研究チームはいくつかの仮説を立てています。その1つは柔軟性の高さが全身の血流の良さを示している可能性があることです。当然、血流が良いと様々な病気のリスクが下がります。他には柔軟性の高さが日常的な運動習慣や活動的なライフスタイルを反映している可能性があることが挙げられています。

    また柔軟性スコアが最も高い群は、新血管疾患による死亡リスクが31%減、癌による死亡リスクが18%も低くなりました。これは柔軟性の高さが全身の炎症レベルの低さと関連している可能性を示唆しています。慢性的な炎症は新血管疾患や癌など多くの慢性疾患のリスク因子に当たるからです。また女性は男性よりも平均して35%、高い関節の稼働域を持っていることが分かっています。これは女性ホルモンの影響や筋肉量の違いなどが要因として考えられています。

    さらに柔軟性と死亡率の関係では、柔軟性の高い人は死亡率も低い傾向にあり、特に女性でその傾向が顕著でした。具体的には、柔軟性の高い女性はそうでない女性と比べて4.7倍も死亡率が低い結果が出ています。これは柔軟性の高さが日常的な身体活動量の多さを反映している可能性があり、身体活動量が多ければ当然死亡率も低くなります。

    この研究はあくまで観察研究のため、柔軟性を高めれば必ず長生きできるわけではありませんが、健康的な生活の1つの指標にはなるでしょう。

    体が硬くなるメカニズム

    主な要因は、加齢、運動不足、そしてストレスです。加齢によりコラーゲンやエラスチンの生成が減少します。これらは筋肉や靭帯の弾力性を保つ重要なタンパク質です。そしてデスクワークなど同じ姿勢を長時間続ける生活習慣は、筋肉を短縮させ、体の硬直化を促進します。

    そしてストレスも体の硬さに関係しており、慢性的なストレスは筋肉の緊張を高めて、特に肩、背中の筋肉が緊張しやすくなり、それが体の硬さに繋がります。例えば2022年の研究では、慢性的なストレスがコルチゾールとホルモンの分泌を増加させ、これが筋肉や結合組織の柔軟性を低下させることが分かっています。さらに最近の研究では、体の硬さと炎症反応の関連も指摘されており、慢性的な炎症は筋膜や関節周囲の組織を固くする可能性が示唆されています。

    体の硬さと健康の関係

    体の硬さと健康の関係には、大きく分けて4つの健康に弊害があります。それは怪我のリスク増加、日常動作の制限、姿勢の悪化、そして血行不良と体調不良です。

    体が急な動きや予期せぬ状況での体の対応力が低下するため、転倒や捻挫などの怪我のリスクが高まります。2023年の研究では、体の硬さと日常生活動作(ADL)の関連性が明らかになっています。また柔軟性の低下は、姿勢の悪化につながり、特に肩や股関節が硬くなると猫背や腰痛などの問題が生じやすくなります。

    これは全身の健康に影響を与えます。血行不良と体調不良は、当然体が硬いと血行も悪くなりやすく、これが様々な体調不良の原因となります。例えば冷え症、むくみ、疲労感の増加など全身の健康状態に悪影響を及ぼします。2024年の大規模研究では、体の硬さと慢性疾患のリスクに明確な相関関係が見られ、特に新血管疾患や糖尿病のリスクが高まることが分かっています。

    ストレッチの方法

    まずは全身ストレッチの基本は、ストレッチは体を温めてから行うのが効果的です。ゆっくりと呼吸を整えながら無理のない範囲で各部を伸ばしていきますが、まず肩回りのストレッチをしましょう。肩を前後に回したり、腕を伸ばして反対の手で引っ張ったりしましょう。そして股関節のストレッチも重要で、座った状態で足を開いて前屈したり、立った状態で腿上げを行ったり、様々な方向に動かすことが大切です。

    研究では、毎日5分の股関節ストレッチを3ヶ月続けただけで、柔軟性が30%向上したって結果が出ています。他にも背中と腰のストレッチも重要で、猫のポーズで四つん這いになって背中を丸めたり、反らしたりすれば、猫背や腰痛予防に効果的です。研究では1日10分のストレッチを3ヶ月続けただけで柔軟性が平均20%向上した結果が出ています。さらに長期追跡調査では、1日10分のストレッチを1年続けた群は、そうでない群と比べて5年後の死亡リスクが15%低かったことも分かっています。

    鍼治療で深層筋アプローチ

    深層筋は、身体の深部にある筋肉のため通常のマッサージなどでこりをほぐすことはできません。またマッサージすることで筋肉をさらに損傷させてしまう可能性もあります。そのため深層筋へピンポイントでアプローチできる鍼が効果的です。

    首への鍼治療

    首のこりを引き起こす深層筋が、頭蓋骨と首の骨をつなぐ後頭下筋群(こうとうかきんぐん)です。特にスマホやパソコンなどでうつむき姿勢によって、筋肉に負担がかかることで首のこりが起こります。後頭下筋群には、小後頭直筋、大後頭直筋、上頭斜筋、下頭斜筋の4つがあります。これらの筋肉のこりが、頭痛や肩のこりを引き起こす原因にもなります。

    後頭下筋群

    現代生活では、首に負担がかかりやすく、首こりが慢性的に続く症状(首の筋肉の過緊張)を「首こり病」と呼びます。首の重さや痛みだけでなく、頭痛、めまい、吐き気、胃腸障害、自律神経の乱れなど多義にわたる症状を誘発します。これらの症状は検査してもはっきりしないことが多く、不定愁訴のひとつと考えられています。

    肩への鍼治療

    肩こりには、原因ははっきりせず、症状としては現れている「本態性肩こり」と、医学の各領域で説明できる「症候性肩こり」があります。前者は、過労、ストレス、睡眠不足、冷え、運動不足、姿勢の悪さなど、筋肉の緊張、血流不足、筋肉内に疲労物質の蓄積などです。後者は、肩関節の疾患(五十肩、肩関節外傷など)、胸郭出口症候群(女性に多い)、顎関節症、慢性扁桃腺炎、心身症などがあります。

    また、肩こりは男性より女性が感じやすいと言われており、筋肉が細い(白筋、赤筋)ことや、筋肉の柔軟性が高く靭帯や関節が伸び、筋肉や脊柱に負担がかかりやすいからと言われています。さらに近年では、子供の肩こりも増え、スマホ、パソコンなどによる無理な姿勢、睡眠や運動不足の増加が背景にあると言われています。

    肩こりに関係する表層の筋肉が僧帽筋(そうぼうきん)です。この筋肉は、首すじから両肩、肩甲骨を菱形に覆っている筋肉です。僧帽筋以外にも、頭半棘筋、頭・頚板状筋、肩甲挙筋、棘上筋、小菱形筋、大菱形筋があります。

    僧帽筋

    後頭部と頚との境目や頚と肩の付け根、肩甲骨周辺の筋肉の凝っている部分などに鍼治療をしていきます。また自律神経と整えるため、頚から背中にかけての背骨沿い、お腹周りのツボを選んで治療していきます。

    鍼灸で肩甲骨をほぐす

    肩甲骨周辺の筋肉は逆三角形をしており、首、股関節と同じく肩甲骨は体の要であり、この中でひとつでも歪みが生じるとこりに繋がります。肩甲骨は骨盤と同じく大きな骨と繋がっていないため、こりやすく固まりやすい性質があります。このこりは下半身の硬さから分かり、例えば開脚して前に前屈するときに内腿やふくろはぎが痛い場合には、肩や肩甲骨もこっている状態です。

    鍼灸によって血流を促進すると、血液中の老廃物や疲労物質が排出されてこりが緩和します。また筋肉に必要な栄養素が末端まで巡り筋肉の疲労が解消されていきます。この肩甲骨周辺の筋肉が柔らかくなると呼吸も深くなり、自律神経も整う効果も期待できます。

    肩甲骨のこりを取るツボ

    膏肓(こうこう):肩甲骨の内側

    天宗(てんそう):肩甲骨のちょうど真ん中あたり

    肩甲骨のコリを取るツボ

    四十肩、五十肩(肩関節周囲炎)の鍼治療

    40代から60代にかけて起こる肩の痛み(肩関節の炎症)が四十肩、五十肩(肩関節周囲炎)です。肩周りの痛みや腕が上がらなくなる症状は徐々にあらわれ、肩を上げる筋肉と骨とを結びつける「腱板」や、骨と骨とを結びつける「靭帯」に炎症が見られるのですが、原因ははっきりと分かっていません。

    痛みは寒冷や夜間に強くなる傾向があります。痛みはかなり強く、安静にしていても痛みがあります。原因は冷えや血行不良で疲労物質が蓄積し、これが刺激になることでこりや炎症を悪化、慢性化すると考えられています。痛みがなくなったからと、そのまま放っておかれて腕の可動範囲が狭くなる方も多くいらっしゃいますので早めの治療をオススメします。

    温熱治療器やお灸などの温熱治療と鍼治療を組み合わせた施術が四十肩、五十肩の中心治療になります。温熱治療では、従来では難しかった深部組織(軸筋群、付属筋群、骨・関節など)までアプローチが可能で、損傷部位の痛みや腫脹・炎症を緩和することができます。また継続的に施術することで、首肩こり、五十肩(肩関節周囲炎)、慢性腰痛などの様々な疾患の治療に効果的で、早期の徐痛や組織の改善、可動域の改善、疲労回復を促します。

    腰部への鍼治療

    腰部の深層筋は大腰筋と腸骨筋(腸腰筋)です。腰痛の原因は色々ありますが、多くの場合は血管が圧迫されることで血流が滞り、酸素が不足して筋肉が硬直してさらに血管を圧迫するという悪循環が根本原因です。

    腸腰筋

    腰痛でお尻に痛みがあれば腸骨筋が収縮し、腰全体にだるさを感じれば大腰筋が収縮しています。このように深部の筋肉の痛みが、体の痛みとして感じられます。当院では6寸鍼を使い、直接大腰筋にアプローチして、腰痛を根本的に治療します。

    首こりと自律神経の乱れ

    自律神経の乱れによって、頭重、不眠、動悸、息苦しさ、発汗など様々な身体的な症状があらわれます。特に女性の更年期には自律神経失調症にかかりやすいと言われています。自律神経失調症は、交感神経もしくは副交感神経が過剰に働くことで、疲労倦怠感、偏頭痛、筋緊張性頭痛、不眠、冷え、便秘、下痢、寝汗、耳鳴り、不安感、イライラ、気分が晴れない等、様々な身体的な症状を引き起こします。

    このような自律神経の乱れからくる不定愁訴は、首のこりが原因になることが分かっています。不定愁訴は、自覚症状があっても、なかなか他の人に理解してもらいにいため、落ち込んだり、悩んでいる方が少なくありません。そのため心の問題として扱われてしまうケースもあります。

    あちこちの診療科をめぐったあげく、心の問題だとして、最後にはメンタルクリニックを紹介される方も少なくありません。このような際には、首こり(頚筋症候群)を疑ってみることをオススメします。鍼灸治療は交感神経・副交感神経のバランスを整え、自律神経失調による症状を改善します。

    Unidentified Tsu Bo(UTB:未確認のツボ)

    森ノ宮医療大学鍋田教授は、肩こりに対して口の中を刺激するという研究を行なっています。その結果、未確認のツボが、上の奥歯の歯茎にあることが分かっています。それを確認するきっかけとなったのが、肩に痛みがある人の虫歯治療後になぜか痛みが治まるという報告が多数あったからです。

    報告によると歯茎を刺激すると肩の僧帽筋の硬さに変化が現れ、刺激前は2.05m/sだったのに対し、刺激後は1.9m/sと柔らかくなっていることが確認されています。また肩こりの自覚症状も合わせて軽減していることが分かっています。ただしこのツボはWHOが定めるツボ(361)には該当がありません。またそれがなぜ起こるのか、その仕組みについても分かっていません。

    実は、これ以外にも数千のツボがあると言われており、それらを阿是穴(あぜけつ)と呼び、個別の名前はありませんが特定の症状と関係とあるツボとされています。

    その他の鍼灸の効果

    その他の鍼灸の効果として代表的なものが、刺鍼刺激による鎮痛作用です。鍼の刺激によって鎮痛作用のホルモンが分泌されるため、痛みを抑える効果があります。また痛みを伝える脳の神経経路をブロックすることもできるため、痛みの緩和が期待できます。

    さらに鍼の刺激によってセロトニンなどのリラックス・ホルモンの分泌が促進され、乱れた自律神経のバランスが整い、交感神経・副交感神経の切り替えもスムーズになります。また自律神経が調節している内蔵や血流も改善されるため、身体全体の機能回復が期待できます。

    このように鍼灸治療は、運動器疾患(腰痛や肩の痛みなど)、神経疾患に効果がありますが、その他にも様々な疾患に効果が期待できます。WHO(世界保健機構)が鍼灸適応疾患として以下を挙げていますのでご参考にしてください。

    鍼灸の効果

    ココナッツウォーターで首肩こりを解消

    ハワイではココナッツウォーターは、天国の雫とも呼ばれ、健康や若々しさを維持するために不可欠な食材として親しまれています。そして最近、ココナッツウォーターにプロスタグランジンの生成を阻害するという抗酸化作用があるということが分かってきています。

    プロスタグランジンとは、非常に強い生理活性作用を持つ炎症物質の一つであり、その強力な生理活性作用から病院で処方される薬としても用いられています。

    風邪を引くと熱が出ますが、プロスタグランジンは免疫細胞を活性化させるための発熱を促す作用があります。一方でプロスタグランジンには、発痛作用があります。その作用が首肩こりや腰痛といった慢性的な痛みを生じさせる原因とも考えられています。

    そのプロスタグランジンを抑制する効果が、ココナッツウォーターが持つ抗炎症物質である「Lアルギニン」です。Lアルギニンはアミノ酸の一種であり、体内に吸収されると一酸化窒素に変換されます。そしてこの一酸化窒素は、血管拡張作用があり、血管が拡張すると血圧が下がり血行が良くなることで、体の細胞の隅々まで栄養が届くようになります。すると血行が滞っていた組織に酸素や栄養が届くため、痛みやコリの原因が解消され、細胞が若返る効果が期待できます。またLアルギニンは、お肌の角質層を保護してくれる作用があり、さらに最近では、悪玉コレステロールの値を低下させるという効果も注目されています。

    【本コラムの監修】

    恵比寿院長

    HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

    ・経歴
    大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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