こころ・からだ・自律神経

こころ・からだ・自律神経

自律神経が乱れれば、すべてが乱れます。人の苦しみの根源をずっと掘り下げていくと、必ずそこに行きつきます。病気も、失敗も、人間関係の破綻も、突き詰めれば一つの場所に根を張っています。それが自律神経の乱れです。

あなたは今、何かに悩んでいないでしょうか。仕事がうまくいかない。体の調子が重い。人との縁が切れた。将来が見えない。朝目が覚めても気力が湧かない。そういったことで、心が重くなっていないでしょうか。

もしそうなら、その苦しみの正体は、実は一つです。自律神経が本来あるべき姿から外れてしまっている。ただそれだけのことなのです。裏を返せば、自律神経さえ正しく整えば、その苦しみは根っこから消えていきます。

これは、気休めの言葉ではありません。自然の仕組みから導き出された、揺るぎない事実です。人の幸不幸は、才能でも、環境でも、運命でもない。自律神経の状態だけが決め手です。なぜそれがすべてに関わるのか。そしてどうすれば整えられるのか。

人の「こころ」と「からだ」を繋ぐ自律神経

その理解にはまず、人という存在を正確に理解する必要があります。世間の多くの人は、自分というものを肉体だと思っています。この目に見える体こそが自分だと、そう信じて疑いません。だからこそ、体が痛めば自分が苦しいとなりますし、体が老いれば自分が衰えたとなります。

しかし、それは大きな勘違いです。人は肉体ではありません。人は生命です。そして生命というものは、肉体という器を使って、この世に現れているに過ぎません。本体は生命であって、肉体はその乗り物に過ぎないのです。これを正確に理解していないと、自律神経の話も分からなくなります。

生命は二つのものから成り立っています。一つは「こころ」、もう一つは「からだ」です。しかし、この心と体をつなぎ、互いに連絡させているものがあります。それが自律神経系統です。

自律神経というのは、ただ痛みを感じたり、命令を伝えたりするだけのものではありません。心が体に及ぼす影響を、そして体が心に及ぼす影響を、すべて仲立ちしているのが自律神経なのです。だから、自律神経が乱れれば心と体の連絡が来なくなります。

心が出した命令が体に正確に届かなくなる。体の状態が心に誤った信号を送り込む。その結果として、あらゆることが狂い始めます。これが、自律神経が乱れればすべてが乱れるということの本質です。

また人の体では自律神経が心臓を動かし、血液を循環させ、内臓を働かせ、体温を調整し、免疫を保っています。そういった、自分では意識してコントロールできない体の根本的な働きを司っているのも自律神経です。

この自律神経が乱れると、体のあらゆる機能が狂い始めます。消化が悪くなる。睡眠が浅くなる。疲れが取れなくなる。心臓がドキドキする。頭が重くなる。肩が凝る。そのくせ医者に見てもらっても、どこも悪くないと言われる。そういう経験をした人もいるでしょう。それが自律神経の乱れです。

自律神経と感情の関係

そして、この自律神経を最も強く揺さぶるものが何かと言うと、感情です。怒りを感じれば自律神経は即座に反応します。恐れを抱けば体全体がそれに応じて変化します。悲しみに沈めば内臓の働きが鈍ります。憎しみを心に宿せば、血液の質そのものが変わってきます。

これは、比喩ではなく実際に起きる生理的な変化です。感情が動くたびに、神経を通じて体が変化します。その変化が積み重なれば、体の根本から狂ってきます。わたしはこれを、感情の毒と呼んでいます。

人は、感情の毒を体の中に蓄積しながら生きています。腹を立てるたびに体の中に毒が生まれる。心配するたびに体の中に毒が生まれる。恨むたびに、嘆くたびに毒が積み重なっていく。そしてある時、その毒が体を蝕み始めます。それが病気の正体の一つです。

しかし、さらに深刻なのは、自律神経の乱れが思考に影響することです。神経が乱れた状態というのは、心が常に揺さぶられている状態です。その揺さぶられた心で物事を考えれば、当然ながら判断が鈍ります。水面が波立っていれば水底が見えないでしょう。

穏やかな水面であれば、水底まで透き通って見えます。心も全く同じです。自律神経が乱れ、感情が荒れ立った状態で考えた結論は、必ずと言っていいほど誤りを含みます。怒っている時に下した決断を、後で冷静になってから振り返ってみてください。大抵の場合、なぜあんなことを言ったのか、なぜあんな行動を取ったのかと、後悔することになるでしょう。それが、自律神経の乱れが思考に与える影響です。

さらに、自律神経が乱れた状態が続くと、人間は悲観に傾いていきます。同じ出来事でも、自律神経が整った人は可能性を見ます。自律神経が乱れた人は脅威を見ます。冗談ではなく、皆さんも経験があるはずです。

体が疲れきっている時、気分が沈んでいる時、何でもないことが恐ろしく見えたり、解決できそうなことが不可能に思えたりします。それは、あなたの能力が下がったわけではありません。自律神経の状態が変わったから、世界の見え方が変わっただけです。

しかし、恐ろしいのは、人というのは、今の自分の見え方を世界の真実だと信じてしまうことです。自律神経が乱れて悲観的に見えている景色を、これが現実だと思い込んでしまう。だから出口が見えない。だから諦める。その諦めも、実はすべて自律神経の乱れが作り出した幻なのです。

人の可能性とは

人は、生まれながらに驚くべき力をうちに秘めています。自然の力が、そのまま宿っているのが人という存在です。その力は本来、何者にも乱されることなく、堂々と輝いているはずのものです。

ところが、多くの人はその力に気づかないまま生きています。そして、外の世界からやってくるあらゆる刺激に、こころをそのまま引き渡してしまいます。誰かに悪口を言われれば自律神経がそれに反応して乱れる。天気が悪ければ自律神経がそれに引きずられて沈む。仕事で一つ失敗すれば自律神経がそれに飲み込まれて萎縮する。

つまり、外の世界が心を操り、自律神経が心を操り、心が体を操っている状態です。これでは、自分の人生を自分で生きていることになりません。外の世界に操られた人形のように生きていることになります。これが、人の苦しみの正体です。これこそが、自律神経の乱れがもたらす最も根本的な問題です。

では、どうすればいいのか。答えは明確です。心を外の世界の刺激から守ること。そして心を常に静かな状態に保つこと。これだけです。

自律神経を整える方法

まず第一に、自律神経を整えるということが、意識的にできるんだということを知ってください。多くの人は、感情や自律神経の乱れというものをどうにもならないものだと思っています。腹が立つのは仕方ない。不安になるのは当然だ。怒りや悲しみは自然に湧いてくるものだからコントロールなんてできないと。しかし、それは大きな誤解です。

人には理性という素晴らしい能力が備わっています。感情が湧いた時、それに無条件に従うのではなく、一瞬立ち止まって、この感情を受け入れるかどうかを選択できます。これが人だけに与えられた特権です。

動物は、刺激があれば反射的に反応します。犬に餌をちらつかせれば唾液が出る。危険が迫れば逃げる。それは本能です。意思ではありません。だが人は違います。刺激と反応の間に選択の余地があります。怒りが湧いた時、この怒りに従うか、それとも静まるまで待つかを自分で選べます。これを使いこなすことが、こころつまり自律神経を整える第一歩です。

呼吸で自律神経を整える

では、具体的にどうやって自律神経を整えるか。まず呼吸です。人の呼吸と神経は深く結びついています。緊張すれば呼吸は浅く早くなる。恐れを感じれば息が止まる。怒れば呼吸が乱れる。これは皆さんも知っているでしょう。

しかし、逆もまた真実なのです。呼吸を整えれば自律神経が整います。意識的にゆっくりと深く呼吸すれば、乱れかけた自律神経が静まっていきます。これは、呼吸と自律神経が双方向に影響し合っているからです。

感情が乱れた時、まず呼吸を整える。深く吸ってゆっくり吐く。これをただ繰り返すだけで、荒れ狂った感情の波が次第に静まってきます。

姿勢で自律神経を整える

次に姿勢です。これも、馬鹿にしてはいけません。姿勢と自律神経は切り離せません。背骨の中には脊髄が通っており、脊髄は全身の神経と直結しています。背筋を丸めてうなだれれば自律神経の流れが詰まる。背筋をすっと伸ばして胸を開けば自律神経の流れが滑らかになる。

落ち込んでいる人の姿勢を見てみてください。肩が落ちて、背中が曲がって、視線が下を向いています。あれは、気持ちが落ちているから姿勢が崩れているのではなく、崩れた姿勢がさらに心を乱し、気持ちを落としているのです。だから逆をやる。

気持ちが沈んだ時、まず姿勢を正す。背筋を伸ばし、顎を引き、胸を開く。その姿勢を保ちながら深く呼吸する。これだけで、沈んでいた気持ちが変わってきます。わたしはこれを、積極的な姿勢と呼んでいます。姿勢から積極性を作り出す。心が姿勢を作るのではなく、姿勢が心を作る。この順番を間違えてはいけません。

心の持ち方で自律神経を整える

そして何よりも大切なのが、心の持ち方です。自律神経を整えるための根本は、心の持ち方を変えることにあります。わたしが言う心の持ち方というのは、物事をどのように受け取るかということです。

人は同じ出来事でも、受け取り方によって天国にも地獄にもなります。雨が降ったとしましょう。農家の人間には恵みの雨かもしれません。山に遊びに行く予定だった人間にとっては恨めしい雨かもしれません。雨そのものは同じですが、受け取り方が違います。

そんな自己欺瞞を教えているのではありません。わたしが言いたいのは、同じ現実に直面した時、それを心が乱れる材料として受け取るか、心を鍛える機会として受け取るか、その選択ができるということです。

失敗した。それは事実です。これは、何も目をつぶって悪いことを良いことだと思えという話ではありません。だが、その事実を「自分はダメな人間だ」という心を乱す材料にするのか、「この失敗から何を学べるか」という心を鍛える機会にするのか。その選択がその後の人生を分けていきます。

ここで「積極」という言葉について話したいと思います。わたしは生涯を通じて、積極的に生きようと言い続けてきました。しかし、多くの人がこの言葉を誤解しています。積極的というのは、元気に振る舞うことでも、強気に行動することでも、前向きな言葉を並べることでもありません。

積極的というのは、人の本来の力を、外の世界の刺激に乱されることなく、そのまま発揮している状態のことです。つまり、心が整っている状態そのものが、積極的な状態なのです。

水に例えて話しましょう。高い山から流れる滝を見てください。水は本来、力強く澄んでいます。しかし途中の川が汚れていれば、その先の水も濁ります。人の生命力も同じです。自然から与えられた生命力は、本来無限に強く清らかなものです。しかし心という川が、滞り汚れていれば、その力も歪んで現れてきます。

だから、積極的に生きるとは、心という川を常に清らかに保ち、生命本来の力を歪みなく発揮することなのです。消極的な人間というのは、意思が弱いわけでも、才能がないわけでも、性格が悪いわけでもありません。ただ自律神経が乱れているから、本来持っているはずの力が発揮できていないだけなのです。

瞑想時間で自律神経を整える

自律神経を整える方法として、呼吸と姿勢と言葉の話をしました。もう一つ、これは絶対に外せない方法があります。それが瞑想時間を持つことです。毎朝静かな場所で背筋を伸ばして座り、心を沈める。目は半眼にして呼吸を整える。ただ静かに存在する。これを毎日欠かさず続けます。

最初は心が落ち着きません。雑念が次々と湧いてきます。それで構いません。湧いてきた雑念を追いかけるのではなく、波が引くように静まるのを待つ。これを繰り返すうちに、心は次第に静かになっていきます。

これを、毎日続けることが肝心です。一週間だけやって効果がないというのは、一日歩いただけで目的地につかないと嘆くようなものです。毎日繰り返すことで、自律神経に静けさが刻み込まれていきます。平時に静けさを訓練しておくことで、いざ嵐が来た時にも自律神経が乱されにくくなります。

武道の稽古と同じです。平時にこそ稽古をするから、いざという時に体が正しく動きます。自律神経も同じで、平時に整える訓練をするから、いざという時に乱れにくくなります。

言葉の力と自律神経

この積極の概念を理解すると、もう一つ大切なことが分かってきます。それは、言葉の力です。自律神経と言葉は、恐ろしいほど深く結びついています。人は一日中、自分自身に語りかけ続けています。どうせ自分にはできない。またうまくいかないに決まっている。自分は不運だ。体が弱い。頭が悪い。そういった言葉を無意識のうちに心の中で繰り返している人間が、いかに多いことか。

その言葉が、自律神経に直接影響を与えているのです。どうせできないと繰り返すたびに、自律神経はその方向に萎縮していきます。自分は不幸だと繰り返すたびに、自律神経はその方向で体を作り上げていきます。これは比喩ではなく、生理的な現実です。

人の体は、心の命令を受けて動いています。そして言葉は、心への最も直接的な命令です。できないという言葉は、できない体を作れという命令になります。不健康だという言葉は、不健康な体になれという命令になります。だからわたしは、否定的な言葉を口にしてはいけないと言い続けてきました。これは道徳の話ではありません。自律神経と言葉の生理的な関係の話です。

自分自身に語りかける言葉を、まず積極的なものに変えてみましょう。自分はできる。自分は健康だ。自分には力がある。最初はそう思えなくても構いません。言葉が先で、自律神経が後からついてきます。

自律神経が乱れる3つの原因

自律神経が乱れる原因は、大きく分けて3つあります。一つ目は、感情の乱れです。怒り、恐れ、悲しみ、嫉妬、憎しみ、こういった負の感情が自律神経を直撃します。これは誰でも分かるでしょう。感情が荒れれば体も心も乱れます。

二つ目は、思考の歪みです。悲観的な解釈、自己否定、過去への後悔、未来への不安、こういった思考のパターンが慢性的に自律神経を乱していきます。感情ほど激しくはないが、じわじわと張るだけに、むしろ厄介かもしれません。

三つ目は、体の疲弊です。睡眠不足、過労、不摂生。これらが体の側から自律神経を乱していきます。心と体は双方向に影響し合っているから、体が壊れれば自律神経も乱れ、自律神経が乱れれば体も壊れます。

この三つが互いに絡み合って、自律神経の乱れを作り出しています。だから、一つを整えれば他の二つも連鎖して整ってきます。感情を整えれば思考も体も楽になる。思考を整えれば感情も体も落ち着く。体を整えれば感情も思考も清らかになる。これが好循環です。そしてこの逆が、今多くの人が陥っている悪循環です。

怒りと自律神経の乱れ

心の乱れについて話す時、どうしても避けて通れないのが、怒りの問題です。怒りというのは、人が経験する感情の中で、最も神経を激しく傷つけるものの一つです。怒りが湧いた時の体の変化を考えてみましょう。

心臓は激しく打ち、血圧は上がり、筋肉は緊張し、消化活動は止まり、血液には様々な物質が放出されます。これだけの変化が体の中で起きているのです。それが一度や二度ならば、体はまだ回復できます。しかし、怒りを繰り返し習慣的に起こすようになれば、自律神経はその状態を当たり前の状態として記憶し始めます。

常に興奮した状態、常に警戒した状態、それが当たり前になってしまう。そういう人間は、体の中では常に戦争が起きているようなものです。怒りというのは、自分があるべきだと思うものと、現実がずれている時に生まれます。つまり、怒りは自分の価値観への執着から生まれているのです。そう理解できた時、怒りとの関係が変わります。

怒りが湧いても、「ああ、今自分は何かに執着しているんだな」と気づける。気づいた瞬間に、怒りの勢いは弱まります。炎に気づけば水をかけることができます。気づかなければ、ただ燃え広がるだけです。怒りを完全に消せとは言いません。感情は人の一部です。しかし、怒りに支配されることと、怒りを感じながらも制御することは、天と地ほど違います。後者を目指してください。

恐れと自律神経の乱れ

もう一つ、深刻に心を乱すものが、恐れです。現代でも、いや、わたしが生きたこの時代でも、人々を最も苦しめてきたのは恐れではないかと思います。死への恐れ、病への恐れ、貧困への恐れ、他者への恐れ、失敗への恐れ、孤独への恐れ、こういった恐れが、人の心を慢性的に蝕んでいきます。

恐れている間、人は本来持っているはずの力の何割も使えない状態に置かれています。恐れは自律神経に「危機だ、逃げろ」という信号を送り続けます。自律神経はその信号に応えて、体を戦闘体制に置き続けます。だが実際には、戦うわけでも逃げるわけでもないから、その緊張はただ体と心を疲弊させるだけになります。

恐れというのは、現実の脅威に対する反応ではなく、想像上の脅威に対する反応であることが多いのです。まだ起きてもいないことを恐れている。起きるかどうかも分からないことを、あたかも確実に起きるかのように想像して、その想像に心を乱されている。人の苦しみの多くは、この想像の恐れによって作られているのです。

しかし本当の危機というのは、恐れを感じている余裕もないくらい突然やってくるものだということです。逆に、怖い怖いと慢性的に感じているものは、ほとんどの場合、まだ来てもいない何かへの想像です。想像を現実と混同してはいけません。今この瞬間、目の前にある現実だけを見ましょう。想像の恐れに心を乱されるな。これが、恐れと戦う基本です。

心配と自律神経の乱れ

次に、心配という問題を話したいと思います。怒りと恐れは誰もが分かりやすいものです。しかし、心配というのは、もっと巧妙に自律神経を蝕みます。心配するのは悪いことではないと思っている人が多い。むしろ心配するのは物事を真剣に考えている証拠だと思っている人さえいます。しかし、心配と真剣に考えることは全く別のものです。

真剣に考えるというのは、問題を解決するために思考を集中させることです。これは心を整え、力を集中させる積極的な行為です。心配するというのは、問題の悪い側面を繰り返し想像して、何も解決しないまま神経を消耗させることです。これは自律神経を乱し、力を散らす消極的な行為です。

見分け方はこうです。自分の思考は問題を解決する方向に向いているか、それとも問題の恐ろしさを増幅する方向に向いているか。前者が真剣な思考、後者が心配です。

心配しても問題は解決しません。これは当たり前のことのようで、実践できている人は少ないものです。心配した分だけ問題が解決するなら、どれだけ心配しても構いません。しかし心配は何も解決しません。ただ心を消耗させるだけです。

だからわたしは言います。解決できることは解決の行動を取る。解決できないことは心を乱すだけだから手放す。この二つの判断だけで、心配による自律神経の消耗を大幅に減らすことができます。

他人との比較について

心を乱す大きな原因の一つに、他人との比較があります。あの人は自分より出世した。あの人は自分より豊かだ。あの人は自分より健康だ。こういった比較を繰り返すたびに、自律神経は静かな嫉妬や焦りや劣等感にさらされます。

比較というのは、自分の外に評価の基準を置くことです。外に基準を置けば、外の世界次第で自分の価値が変動することになります。これほど心が乱れやすい状態はありません。なぜなら、外の世界は常に変化し続けるから、基準が絶えず動き続けるからです。

本来の基準は、内にあります。自分が昨日の自分より少しでも成長しているか。自分が自然から与えられた命を、精一杯使い切っているか。自分の生命力を最大限に発揮しているか。これが本来の基準です。この基準で生きれば、他人の成功は脅威ではなく刺激になります。他人の幸福は妬みではなく喜びになります。これが心の整った人の他者との関わり方です。

加齢と自律神経の関係

わたしが長年接してきた多くの人の中に、年を重ねるにつれ心の乱れが激しくなる人がいました。体の衰えを嘆き、若い頃との比較に苦しみ、死の恐れに縛られ、ますます自律神経を乱し、ますます体が衰えていく。まさに悪循環です。

しかし、同じ年齢でも老いを恐れず、今ある命を精一杯燃やしている人間がいます。そういう人間は、年を重ねるほど凄みが増していきます。心が整い、生命力が隅々まで満ちているから、老いた体でも若者には出せない光を放っています。人の価値は、体の年齢ではなく、自律神経の状態で決まります。

年を重ねることは、心を整える機会を多く積み上げることです。若い時代の嵐を乗り越えてきた経験が、心に深みと強靭さを与えていきます。だから、年を重ねることを恐れないでください。自分の心を磨くことに集中すれば、年を重ねるほど本物の豊かさに近づいていけます。

自律神経を整える目的

自律神経を整えるということの最終的な目的は何か。それは、自然の摂理と一体になることです。難しい話のように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。植物を見てください。種を一粒土に埋めれば、水と光と土の養分を受けて、勝手に芽を出し、茎を伸ばし、花を咲かせ、実をつけます。誰も命令していないのに、その生命力は力強く働き続けます。

人も同じ力を宿しています。心臓は自動的に動き続け、体の傷は自動的に治る。病気になれば体は自然に回復しようとする。これはすべて、人の体に宿っている自然治癒力が働いているからです。

自律神経が整っている時、この力がそのまま人を通じて流れます。その時、人は本来持っているはずの力を完全に発揮できます。健康も、知恵も、創造力も、人を引きつける力も、すべてが最高の状態になります。心が乱れている時、この生命力の流れが滞ります。

どれだけ才能があっても、どれだけ努力しても、心が乱れていれば本来の力は発揮できません。線が詰まっていれば、どれだけ水源に水があっても蛇口から水は出てこないのと同じです。だから、心を整えることは、才能を磨くことよりも、努力することよりも先に来る最重要事項なのです。

人の心というのは、自然の力を受け取るアンテナのようなものです。アンテナがまっすぐ整って正しい方向に向いている時、自然からの信号を明確に受け取ることができます。その信号が、直感として、ひらめきとして、力として人に届きます。

しかしアンテナが歪み、方向が狂っていれば、信号は届きません。あるいは歪んだ信号が届きます。歪んだ信号は判断を誤らせ、力を削ぎ、間違った方向に人を導きます。自律神経を整えるとは、アンテナを正しい状態に保つことです。これができている時、人は、いわゆる「ゾーンに入った」状態になります。

思考が冴え渡り、体は軽く、何をやってもうまくいく感覚。これはたまたま運が良いのではなく、心が整い、自然の力と一体になっているからです。逆に、何をやってもうまくいかない、どこか歯車が狂っていると感じる時は、アンテナが乱れているサインです。そういう時に、さらに焦って行動を増やしても逆効果です。まずアンテナを整えることが先です。

自律神経と使命感

自律神経が整ってくると、人には使命感というものが自然と芽生えてきます。心が乱れている時、人の視野は極端に狭くなります。自分の不安、自分の痛み、自分の損得、それしか見えなくなる。まるでトンネルの中にいるようで、前後左右が見えません。

心が整ってくると視野が広がります。自分の外にあるものが見えてくる。他者の苦しみが見えてくる。社会の問題が見えてくる。自分に何ができるかという問いが、自然と心に浮かんでくる。これが、使命感の芽です。

真に豊かな人生とは、何かを手に入れることではなく、何かを与えることの中にあると。これは、綺麗事で言っているのではありません。自律神経が整い、生命力が満ちてくると、自然とそういう状態になっていくという、自然の摂理の話です。

器が満ちれば自然と溢れ出す。溢れ出したものが周りの人を潤す。それがまた自分に帰ってくる。これが、豊かな生の循環です。自律神経が乱れ、生命力が滞っていると、何も溢れ出しません。与えることができない。与えられないから孤立する。孤立するから、さらに心が乱れます。

自律神経が整えば見方が変わる

自律神経が整えば、かつては荒れ狂っていた感情が、静かな水面のように安定します。些細なことで揺さぶられていた心が、嵐の中でも静けさを保てるようになります。

そして、その心の変化が外の世界にも現れ始めます。人との縁が変わります。思わぬ機会が舞い込むようになります。体の調子が整い、物事の判断が冴えてきます。これは、外の何かが変わったのではありません。

それは心が変わったから、同じ世界が違って見え始めただけです。いや、正確に言えば、見え方が変わったことで行動が変わり、その行動が縁を変え、現実が変わっていったのです。心を整えることが人生を変えことができます。

ただし、心を整えるということは、感情を持たない冷たい人間になることではありません。これを勘違いする人が時々います。わたしが目指しているのは、感情の豊かな人です。喜びを深く感じ、美しいものに心を震わせ、人の痛みに寄り添える。そういう豊かな感受性を持った人です。

違いは、感情に飲み込まれるか、感じながら制御するかです。川の激流に飛び込んで流されるのと、川岸に立って川の流れを眺めるのは全く違います。川岸に立てば、川の美しさも激しさもよく見えます。飲み込まれてしまえば、美しさも見えず、ただ溺れるだけです。

感情も同じです。感情を感じながら、それに流されない。これが、心の整った状態です。喜ぶべきことには心から喜び、悲しむべきことには真に悲しむ。しかしその喜びも悲しみも、心を根底から乱すことなく、ただ感じて、また静けさに戻る。こういう状態を目指してください。これは一朝一夕には難しいものです。しかし不可能ではありません。一歩ずつ、毎日の実践の積み重ねで、必ず近づけます。

自律神経が整えばすべてが整う

わたしが伝えたかったことは、実にシンプルです。自律神経が乱れればすべてが乱れる。自律神経が整えばすべてが整う。これだけです。体の健康も、仕事の成果も、人との縁も、人生の幸福も、その全ての根っこに自律神経の状態があります。自律神経を整えることが、あらゆる問題の根本治療になります。

そのために何をするか。毎朝の瞑想時間で心を沈める。呼吸を整えることを習慣にする。姿勢を正すことを意識する。否定的な言葉を排除し、積極的な言葉を使う。感情に飲み込まれず、感じながら制御する。他人との比較をやめ、内なる基準で生きる。一度に全てをやろうとしなくていい。まず一つを選んで続けてみることです。

たった一つの実践を積み重ねていくと、心が少しずつ整い始めます。自律神経が整い始めると、世界の見え方が変わります。見え方が変われば行動が変わります。行動が変われば現実が変わります。これが自然の法則です。

あなたの中にある自然の力は、今もここにあります。どんな状況にあっても、どんなに傷ついていても、その力は消えていません。ただ自律神経という蓋が詰まっているせいで、流れ出していないだけです。蓋を開けてやってください。自律神経を整えてやってください。

そうすれば、あなたの中に眠っている力が、必ず流れ出してきます。人は誰でも、自然の力を宿した存在です。その力を信じ、心を整え、本来の自分を生きてください。それが、わたしのあなたへの願いです。

「運命は心ひとつの置きどころ」中村天風

心身一如(心と体は一つであると考えること)

東洋医学の根本には、自然哲学の思想があります。古くは人の体を「小宇宙」とし、「大宇宙」の自然現象によって支配されるものとして考え、自然に抗するのではなく、むしろ順応することが大切だとしています。

病気は外因性のものばかりではなく、内因性(精神的)のものがたくさんあります。例えば不安や動揺が心のストレスとなり、そのストレスが身体の変調を来たし、そして様々な疾患を引き起こすようなことはよく知られています。このように病気の原因に人の心が大きく関与しており、感情のバランスが崩れると臓器の働きに悪影響を及ぼします。

心を良くすることによって体がよくなり、体を良くすることによって心もよくなる。このような心身全体の調和・向上こそが治療の目標になります。つまり東洋医学は「からだ」の調整だけでなく、「こころ」を調整することを重要視します。このような「心身一如(しんしんいちにょ)」という考え方が軸となっているのが東洋医学です。

【本コラムの監修】

恵比寿院長

HARRNY 院長/鍼灸師 菊地明子

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。

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