
耳の中には、リラックス効果が得られる副交感神経を優位にする迷走神経があります。そのため耳を刺激することで緊張した身体をほぐし、不調を改善することができます。
耳ツボの歴史
耳は身体の縮図として太古より治療に用いられており、耳外(じがい)を単にひとつの臓器ではなく、身体の縮図であると考えます。耳ツボ療法の歴史は古く、中国最古の医学書『皇帝内径(こうていたいけい)』に「耳鍼法(じしんほう)」として記されています。
一方で西洋医学では、ポール・ノジェ博士が1956年に「耳は胎児の形で人体を投影している」と学会で発表、体系化し、その後アメリカやヨーロッパではオリキュロメディソン(オリキュロセラピー)と呼ばれていました。その後、中国では少し遅れを取って、耳鍼療法として1958年に体系化されました。このように東洋医学でも西洋医学でも耳ツボ療法は体系化されています。そしてWHO(世界保健機構)でも、耳ツボは350の病症に対し有効的だと認定されています。
全身のツボ(経穴)の数は、WHO(世界保健機関)が認定しているのが361個ですが、左右対のツボを含めると約670~700個、さらに非定型な「奇穴」を含めると2000以上とも言われています。その中で、WHO(世界保健機関)が認定している361個のツボの内、約110個は耳に集中しています。またそれら以外にも片耳だけで約200以上ものツボが広がっており、両耳を合わせると約400以上、体の大部分のツボが耳に集約しています。
これらは全身の器官、皮膚などは経絡を通じて耳介と密接に連携しており、その耳の形は逆さになった胎児に似ており、耳の各部位が全身の臓器や器官に対応する「反射区」であるという東洋医学の考え方があります。例えば、耳たぶには頭に関するツボが広がっており、内側には内臓系のツボが反射区として点在します。

耳への刺激でストレス解消
耳への刺激で自律神経を整えることができるのは、医学的に根拠があります。この自律神経には、日中の活動時に優位になる「交感神経」、夜にリラックスして眠りに付く時に優位になるのが「副交感神経」です。
医学的には、副交感神経の代表的な神経が脳神経の10番目にあたる迷走神経で、脳神経中最大の分布領域を持っており、腹部の内臓まで分布しています。そして耳に関連するものとしては外耳道後下壁、耳介などに知覚枝を出しています。耳への刺激でリラックスできるのは、この迷走神経刺激に関連があります。
そもそも神経系は、脳や脊髄の中枢神経系と、そこから全身の各部分に隅々に伸びる末梢神経系に分類されます。中枢神経は、末梢神経から届けられる情報を受け取り、どのように対応するかを判断し、指令を出す、私たちの身体の司令塔的な役割を果たしています。
一方で末梢神経は、脳からは12対の脳神経が、脊髄からは31対の脊髄神経が全身に伸びて、知覚や運動を支配しています。そして脳神経の一つに迷走神経があります。脳神経は、ほとんどが頭部から肩を中心に支配しているのですが、迷走神経だけがお腹まで達しています。迷走神経は、外耳道にもあります。その未梢神経は、その働きによって体性神経と自律神経とに分けられます。
体性神経とは、身体の働きに関わる神経で、感覚神経と運動神経の2種類があります。感覚神経は、見たり、聞いたり、触れたり、嗅いだり、味わったりした情報を脳に伝え、運動神経は筋肉を動かすなど、脳から出る動作の指令を伝えます。
そして、耳と関係のあるのが自律神経です。自律神経の中に交感神経と副交感神経があります。交感神経は、朝起きてから、私達の体を活性化させるアクセル役の神経です。一方で家に帰り、お風呂に入ったり、ベッドに入ってホッとするときは、身体をリラックスさせるブレーキ役の副交感神経が優位になっています。
この交感神経と副交感神経は、私たちの意志に関係なく勝手に入れ替わります。この交感神経と副交感神経のバランスが乱れると、自律神経の乱れから身体に不調が出ることがあります。そして自律神経を構成している副交感神経は、ほとんど迷走神経のことを指していると言えます。
生理学的には、副交感神経は体の重要な神経であるので、耳を刺激することは、副交感神経を優位にして自律神経の調節をしてあげることでもあるのです。その他に迷走神経が司るのは、舌の知覚や動作、口・顎の動作、候や声帯の動作、心臓の心拍、胃腸の蠕動運動、発汗作用などがあります。
例えば緊張で交感神経の働きが高まっているときに、耳を触り、副交感神経を刺激してリラックスすることで、心拍数が落ち着いたり、緊張の汗が引いたり、といったことにつながります。
耳という器官は、聞くという役割のほかにも、身体の縮図とも言えるツボが密集している場所であり、耳の中には、迷走神経が通っており、耳かきは迷走神経刺激となるということがお分かると思います。
耳ツボで体の不調を知る方法
実は、すべてのツボがいつも同じ場所にあるとは限りません。体調によってツボの場所や反応が変わることもあります。また左右の耳の位置や形は均等でないことが多く、同じ人であっても左右でツボの位置が違うことは珍しくありません。
耳ツボに限らず、体のツボを押すときは、視診、触診、脈診などで確認しながら行います。体の不調とつながるツボは、触ると痛みを感じたり、硬かったり、赤みが出ていたり、膨れていたりすることがあります。こうした感触の変化を不調のサインとして捉えていきます。
一方でツボの位置を知っていたとしても、不調の原因がわからなければ、どのツボを押してよいのか判断がつきにくいでしょう。例えば同じ症状でも、ストレスが原因なのか、老化が原因なのかによってアプローチするツボが変わってきます。このときに役立つのが「陰陽五行論」です。
陰陽五行論
陰陽は、昼と夜、暑さと寒さ、動と静、男と女のように、正反対でありながら補い合い、バランスを取ることで世界が成り立つという考え方です。これらの考え方を医学に応用したものに「東洋医学」がり、そのほかには「風水」「四柱推命」などがあります。
私たちの体や心も、この陰陽のバランスによって健康が保たれており、「陽」が強すぎても弱すぎても、「陰」が強すぎても弱すぎても体調を崩してしまうと考えます。例えば、太陽(陽)がずっと出ていれば体は疲労し、夜(陰)ばかりが続けば元気がなくなります。この「陰陽」と「五行」の要素を組み合わせることで、心と体の状態や不調の原因を細かく捉えて、アプローチするツボを判断していきます。
一方の陰陽五行論の「五行」は、自然界のすべてのものを「木・火・土・金・水(もっかどっごんすい)」の5つに分けて考えます。「木・火・土・金・水」は、季節や体の部位、色や感情など、さまざまな要素とつながっており、その中でも体の生理機能や感情と深くつながる五臓(肝・心・脾・肺・腎)があります。
五臓は、西洋医学の肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓などの内臓とは異なり、「臓腑(ぞうふ)」と呼ばれ、体の生理機能や感情とも深くつながっています。この五臓は、体のはたらきや心の動きを司る5つの柱であり、自然や感情ともつながり、心身のバランスを整える要になっています。この五臓を理解するで、不調の原因を探る手がかりになり、より的確な耳・体・心のケアを行うことができます。
五臓の特徴
| 肝 | 気をスムーズに流し、目や筋肉のはたらきに関わる。 東洋医学では、怒りすぎは肝に負担がかかるとされている。 |
| 心 | 血を全身に送るポンプのような役割を担う。 精神や意識にも関係している。 |
| 脾 | 食べ物から栄養を吸収し、体をつくる役割を担う。思い悩みは脾を弱らせるといわれている。 |
| 肺 | 呼吸を整え、皮膚や免疫にも関わる。 悲しみは肺を弱らせるといわれている。 |
| 腎 | 生命力の源を蓄えるエネルギータンク。 成長や老化、骨や耳にも関わる。 |
相生(そうしょう)と相克(そうこく)
五行には、補う力「相生」と抑制する力「相克」があります。東洋思想において、木・火・土・金・水の5つの要素が影響し合う関係の中、「相生」は助ける・生み出す関係、「相克」は抑制し合う・打ち消し合う関係を表しています。これらの関係がちょうど良いバランスを保って調和することで、自然界や人体のバランスが保たれていると考えます。
具体的に診ると「相生」は、育て、高める関係があり、木は火を、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を高めます。例えば「木」が弱っていることが原因で不調が起こっている場合は、「水」を補うことで不調が回復すると考えます。一方「強すぎるものを抑える」「調整し合う」という関係性が「相克」です。「相克」は、木は土を、土は水を、水は火を、火は金(金属)を、金は木を抑えます。

これらから、ツボで症状にアプローチする際、不調の原因を特定した後、「相生」でサポートするのか、「相克」で鎮めるのか、体のバランスを整える方法を考えます。
東洋医学の古典『黄帝八十一難経』
東洋医学の古典『黄帝八十一難経』の「六十九難」には、「弱っているときは補って強すぎるときは抜いて、弱くも強くもないときは経絡によって治療する」と記されています。これは、ある臓が弱っている場合は、その母(五行相生関係で一つ手前の臓腑つ後の臓腑)の力を抜くことが治療するという意味になります。つまり、まずは補う治療を行い、そのあとに抜く治療をします。
また、「臓腑が弱くも強すぎもしないときに経絡で治療する」というのは、その状態ではその臓のみに問題があるだけで、ほかの臓腑には問題はないということになります。つまり、その経絡自体に原因があるので、その経絡に属するツボ(経穴)を使って治療します。このように治療や施術をするには必ず順番やルールがあります。
例えば、「土(脾)」が弱って食欲がない状態であれば、その母である「火(心)」を補えば良いことになります。またイライラしすぎる症状があり、明らかに「木(肝)」が強くなっている場合は、まずはその子である「火(心)」を抑えることになりますが、相克関係から「土(脾)」が抑え込まれて弱まっていれば、「土(脾)」を補ってから、バランスを取るために「木(肝)」の働きを抑えることになります。
つまり、「腰」が弱っている場合は、母と自分の両方を補えばいいので「心」と「脚」にアプローチすれば良いですし、例えば「肝」が強くなっていて「腰」が弱っていることを確認できた場合は「肝」と「心」と「腰」にあたる3つのポイントにアプローチすれば良いのです。
東洋医学で診る「耳」
東洋医学では、耳は「腎」に対応しています。五行の構成要素は「木火土金水」で、それに対応する五臓が、肝臓、心臓、脾臓、肺臓、腎臓、六腑が胆嚢、胃、大腸、膀胱、心包です。
そして東洋医学の腎は、西洋医学で言う副腎も含まれていると考えると分かりやすいと思います。同じく東洋医学の脾臓は、西洋医学の膵臓のことも表していると考えたほうが良いでしょう。
また解剖学の進歩とともに、自律神経の存在も細かいことがはっきりと分かってきており、膀胱経の経絡は、脊柱の横にある交感神経節を含めた神経線維の位置とほぼ一致、つまり経絡の点で膀胱経が自律神経と繋がっています。
例えば、精神的ストレスが溜まりすぎたときに、耳の迷走神経への刺激によって、落ち着きを取り戻し、バランスが取れることにも繋がることが分かります。
一方で腎は、東洋医学では陰中の陰にあたります。反対に陽中の陽が心となり、水と火の関係によって、火があまりに燃え広がりすぎたときに水で消すことができます。これを五行思想においては、水が火を消し止める「水剋火(すいこくか)」という相剋(そうこく)の関係と言います。これは対立し、互いの力を抑制・消滅させる関係性となり、過剰な熱を冷ます制御やバランス調整の役割を果たす側面もあります。
そして腎は、方位では北を表し、季節は冬、寒さ、色は黒に対応します。そのため腎を元気づける食べものには、大豆、栗、豚肉などがあります。また立ち仕事をしすぎると、腎、骨が影響を受けると考えます。
心が安定する耳つぼ
不安、気分は「心」に関連することなので、五行の「心(しん)」の耳つぼが挙げられます。心は「心が強くなる」反面、喜びすぎる(楽しみすぎる)と、傷めてしまうという特性があります。
このように「喜」が過ぎることを「過悦(かえつ)」といい、これも心を痛めることになります。つまり心地良い状況でも、過ぎればまた毒にになり得ることを示し、そのバランスが大切になります。一方で嫌なことを避けて楽はかりしていると、心(心臓)の不調につながります。何れにせよ、不安感があったり、気分が落ち込みやすかったりするときは、心(しん)のツボにアプローチしましょう。

ちなみに東洋医学の五行は、それぞれ感情との結びつきがあると考えます(怒→肝、喜→心、思(想)→脾、悲・憂→肺、驚・怒→腎)。この「怒・喜・思・憂・悲・恐・驚」の7つを「七情」といい、それぞれ対応している臓腑が傷んでいると、それらの感情が強く出やすくなります。また逆に、それらの感情が強すぎると、対応している臓腑を傷めてしまいます。
また、東洋医学の「心」が最も影響を受けやすい季節が夏です。暑さで汗をかいて心が消耗し、不眠やだるさが出やすい夏は、自然界の「火」が最も強くなる季節と考えます。心は血の流れや精神活動を担うため、暑さや陽気で体がオーバーワークになると眠れない・不安になる・動悸がするなどの不調が出やすくなります。さらに夜間の暑さによる睡眠不足は、自律神経とホルモンバランスを乱し、イライラや集中力低下を招きます。耳つぼで「心」を落ち着かせることで、夏特有の「寝苦しさ」や「イライラ」にアブローチできます。
耳エステとは
耳の中には、迷走神経という神経があります。迷走神経とは、副交感神経の代表的な神経で、副交感神経が優位になるときはリラックスしている状態のため、耳エステで迷走神経を刺激することは、身体をリラックスさせることになります。
ちなみに耳介の中にある耳の穴から、鼓膜までを外耳道と言い、そこにはアポクリン腺があります。アポクリン腺は、脇の下や乳首と同じく、迷走神経が繋がっています。つまり耳エステが気持ち良いのは、迷走神経を通じて自律神経を整えるからとも言えます。
そして耳エステとは、耳介に存在するツボを刺激する治療法です。全身の経穴が集中する耳への刺激を行い、身体の不調の改善を目的とする療法です。反射療法(リフレクソロジー)とも呼ばれます。不調な臓器、器官、細胞組織へ働きかけ、自然治癒力を導きだし、緩和していきます。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。



