
よもぎは、ハーブの女王と呼ばれるほど、嗅いで良し、燃やして良しと言われ、昔から薬草として親しまれてきました。よもぎは、キク科よもぎ属の多年草植物で葉の先は尖り、深い切れ込みが入っているのが特徴の野草です。繁殖力が強くて日当たりの良いの野原や道端によく生えていて、春に生えた若芽は食用とし、餅に入れられることから別名「餅草」とも呼ばれています。よもぎは日本在来種ですが元々は中央アジアの乾燥地帯が原産と考えられています。現在はヨーロッパや北アフリカ、中国などの国々、日本では野や山など多くの場所で自生しています。
よもぎの健康効果
よもぎは、古くから切り傷や食当たり、下痢止めなどの薬として利用されてきた薬草です。沖縄では「ふうちばあ」と言って、よもぎを煎じて健胃剤として飲み、よもぎ薬用酒として活用されています。またよもぎを乾燥させて、お灸のもぐさとしても使われてきました。他の国々でも薬草として使われており、中国では古くから漢方薬として、ヨーロッパではリュウマチや不妊に効果がある薬草として使われてきました。このよもぎの種類は非常に多く、200種類以上あり、日本だけでも数十種類もあります。
よもぎの健康効果の1つが消化のサポートです。よもぎなどの苦みのあるハーブは唾液の生成や胃液の増加、食欲増進に役立ち、これら3つの働きで消化を助けます。また最近では、よもぎが炎症性腸疾患の一種のクローン病の治療をサポートする可能性があると示唆されています。
クローン病は、消化管の粘膜で慢性的な炎症を起こす疾患で、腹痛や下痢などといった症状が現れ、難病指定にもなっています。よもぎは、この炎症を軽減して腸の分泌を刺激することによりクローン病患者が腸の痛みを軽減するために使うステロイド薬を減らす作用があると考えられています。またよもぎは、腸内の寄生虫とも戦って駆除もし、食中毒の予防にもなります。
さらに、よもぎには炎症を和らげる効果もあります。関節リウマチや高コレステロール、認知症に至るまで全ての病気は炎症が根本にあり、よもぎに含まれる強力な抗炎症作用のある「アズレン」という成分が痛みや腫れを和らげる働きをしてくれます。またよもぎには、「カマズレン」という抗酸化物質が含まれており、は酸化ストレスで引き起こされる細胞の損傷を軽減したり、遅らせたりする働きをしてくれます。また抗炎症作用と抗酸化作用で肝損傷を軽減することも分かっています。
一方でよもぎには、心を落ち着かせるリラクゼーション効果もあります。よもぎの成分である「アルテミシニン」には、鎮静作用があり神経系をサポートしてくれます。よもぎの中でも特にクソニンジンには、リラックス効果があり、心を落ち着かせてくれます。他にもストレスを和らげたり、集中力を高めたりする働きがあります。
ただし、よもぎにも副作用やリスクはあるので注意が必要です。よもぎは、適切な容量を守れば比較的安全なもので、最長12週間使用しても問題はないとされています。しかし未加工のよもぎには少量でも有毒である向精神性化学物質の「ツジョン」が大量に含まれていることがあります。そのため大量のよもぎを摂取すると筋肉痛や吐き気、めまい、嘔吐、不眠症、胃痙攣、慢性下痢などといった副作用が現れることがあります。
よもぎの「アルテミシニン」
よもぎの種類の中の1つである「クソニンジン」が抗がん剤よりも効果が高いということが分かっています。クソニンジンは、葉がニンジンに似ていて悪臭と言われるほど独特の異臭を放つ植物です。ワシントン大学の生物工学者の研究によると、このよもぎから抽出される「アルテミシニン」と呼ばれる成分が、正常な細胞を無傷のままでがん細胞だけを選択し、現在の化学療法よりも約10 倍効果的にがん細胞を死滅させることができると示されています。
このアルテミシニンは、以前からマラリアの治療薬としても使われていたものです。マラリアは、ハマダラカに刺されることで感染する疾患で、刺されると高熱を出して時に死に至る危険なものです。世界保険機関WHOによれば、2020年の感染者数は2億4100万人、死亡者は62万人以上と推定されています。そしてアルテミシニンを改良した様々な薬が実用化されており、マラリアによる死者を世界中で大幅に減少させています。ちなみにその治療薬の開発に携わった科学者トゥ・ヨウヨウ氏は、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞されており、中国人で初の生理学・医学賞の受賞者となりました。
よもぎの種類はたくさんあり、マラリアの治療薬に使われているものやワシントン大学などの研究で使用していたよもぎは、日本の一般的なよもぎとは異なるものです。ワシントン大学などの研究で使われていたクソニンジンは、「オウカコウ」ことも呼ばれるもので、日本で漢方に用られるよもぎは、「セイコウ」というものです。よもぎの種類の違いでアルテミシニンの含油量が全く違い、アルテミシニンの含有量が最も多いとされるオウカコウを仮にAランクとした場合、日本の一般的なよもぎはFかGランクとなり、かなり少ないです。
ちなみにですが、アルテミシニンはどのよもぎ属でも花の部分に多く含まれていて、次に葉の部分が多く、茎や根にはほとんど含まれていません。日本の一般的なよもぎを乾燥した花100gには約0.1g、乾燥した葉であれば100g中約0.05g含まれています。日本ではよもぎの花を食べる習慣はありませんが、花ごと食べるのが良いでしょう。
よもぎの「カフェロイキニン酸」
よもぎパウダーは、植物のよもぎを粉状にしたもので様々な健康効果があることが知られています。中でもよもぎパウダーの効果として知られているのが認知症の予防効果です。日本人で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳内にアミロイドβというゴミが溜まることで発症すると考えられています。
よもぎに含まれているカフェロイキニン酸という珍しい成分にはアミロイドβが作られるのを防ぐ作用があり、よもぎパウダーを摂取することで脳神経を保護して認知症を予防できる効果が期待できます。
よもぎのメリットとデメリット
よもぎは古くから薬草として利用されてきた植物で、多くの健康効果が期待できます。例えば、抗炎症作用、抗酸化作用、消化促進、免疫力向上、鎮痛作用、リラックス効果、美肌効果、血行促進など、沢山の健康効果があります。
まず抗炎症作用ですが、炎症を抑える効果より関節炎や筋肉痛などの症状を軽減できます。またクロロフィルやフラボノイドなどの抗酸化物質が含まれているので、体内の活性酸素を除去する効果があります。そしてよもぎは消化を助ける効果があり、胃腸の調子を整え、特に食欲不信や消化不良の改善に効果的です。さらにビタミンやミネラルも豊富なため、免疫力を向上させる効果によって風邪や感染症への抵抗力が高まります。
一方で、よもぎには鎮痛作用があり、頭痛や生理痛などの痛みを和らげる効果、そして香りにはリラックス効果があり、ストレスや不安を軽減するのに役立ちます。そして嬉しいのが美肌効果と血行促進です。特にニキビや湿疹の改善に効果があり、よもぎエキスの化粧品も多く販売されています。加えて血行を促進する効果もあり、冷え性やむくみ改善に役立ちます。
このようなメリットがありますが、実はデメリットや注意点があります。代表的なものに、アレルギーが挙げられます。よもぎはキク科の植物であり、キク科アレルギーを持つ人にとってはアレルギー反応を引き起こす恐れがあります。例えば皮膚のかゆみ、発疹、呼吸困難などの症状が現れることがあります。
また、妊娠中や授乳中の女性もよもぎの使用に注意が必要です。特によもぎの大量摂取は避けましょう。なぜなら子宮収縮作用があるため、妊娠中の使用は医師に相談しましょう。他にはよもぎは一部の薬物と相互作用することがあり、特に抗凝固薬や抗血小板薬を服用している人は、よもぎの摂取に注意が必要です。よもぎが血液の凝固を妨げる可能性があるため、出血リスクが高まることがあります。
また、よもぎを過剰に摂取すると腹痛や下痢などの消化器系の不調を引き起こすことがあるので適量を守って摂取しましょう。そして見落としがちなのが環境要因です。よもぎは環境によっては有害物質を吸収することがあり、特に汚染された土壌や水で育ったよもぎは、重金属や農薬を含む可能性があるので、安全な環境で栽培されたよもぎを選ぶこと大事です。
よもぎの使い方
よもぎの使い方には、お茶として飲む、料理に使う、入浴剤、アロマテラピーなどが挙げられます。よもぎ茶は、よもぎの葉を乾燥させてお茶として飲みます。よもぎ茶、消化促進やリラックス効果があり、日常的に飲むことで健康をサポートしてくれます。よもぎ茶の入れ方は簡単で、乾燥したよもぎの葉をティーポットに入れ熱湯を注いで数分間蒸らすだけです。また料理には、よもぎの若を茹でてから細かく刻み餅に混ぜ込めば、独特の香りと風味がある草餅が作れます。
鍼灸では、よもぎの葉を乾燥させて粉末上にし、もぐさとしてお灸に使用します。お灸は温熱療法として血行を促進し、痛みを柔ら効果があります。また入浴剤としては、よもぎの葉を布袋に入れて浴槽に浮かべることでよもぎ風呂を楽しむことができます。リラックス効果や血行促進効果があり、肌のトラブルを改善するのにも役立ちます。
東洋医学で診る、お灸の効果
鍼灸治療では鍼の他にお灸を使う場合もあります。東洋医学の古典「皇帝内径」では、お灸は戦国時代から使われていて、寒い北の方から伝わった治療法だと書かれています。このお灸の原材料は「よもぎ」で、実は遥か昔によもぎだけではなく、桑の葉やイグサなど様々の草を試してきたと言われています。その中で1番効果があったのがよもぎでした。
本草網目では、よもぎについて「よもぎは経絡を疎通することができ、体を温める、体の冷えや湿気を追い払う、気血を巡らせることができ、薬として飲むこともでき、お灸として燃やすこともできる。おへそや膝などを温めて体の表面だけではなく、内側まで温める。」と書かれています。
このお灸の効果には、温通経絡・補中益気・扶陽固脱・消痞散結です。温通経絡は経絡を通して体を温めることで、経絡の中の寒気、湿気、冷えを追い払うことができます。例えば湿気による関節痛、冷えによる生理痛、冷や湿気による胃腸の不調、むくみ、痰、虚弱などによく使います。
補中益気は、体の気を補う、支える効果なので、気が足りなくて胃下垂、子宮下垂、下痢、不正出血、胃腸の冷え、腎虚などに良いです。また扶陽固脱は、陽気を助ける効果で、冷え過ぎ、虚弱、体温が低いと陽気が漏れて体から離脱してしまう場合があるため、お灸はそれらを防ぐ効果があり、陽気が漏れないように固めることができると考えます。そのため寒がり、冷え、低体温の人には良いでしょう。
一方で、消痞散結は気血の滞りを解消することです。婦人科の不調である子宮筋腫、乳腺炎などには良く、特に不調がなくても大推、関元、気海、足三里など日常ケアでよく使うツボにお灸を乗せると不調の予防に繋がります。
このようにお灸は、健康効果がたくさんありますが注意点もあります。まず傷口の上や近くにお灸しないでください。お灸の熱によって傷を悪化させたり、火傷になったりする場合があるので気をつけましょう。そして熱が出ている時は、止めましょう。特に急性な感染症が発症している間はNGで、急性な病気の時は、まず薬を飲んで飲んでから、お灸で体調を整えていくと良いでしょう。
また、疲れた時にお灸をすると、めまいや動機などの反応が出てくる可能性があるため、疲弊している時はお灸しないようしましょう。そして食事後すぐもNGです。できれば30分ほど間隔を開けた方が良いでしょう。またはアルコールを摂取してからのお灸はしないでください。さらにお灸の後30分以内にお風呂は避けましょう。特に冷たいお水は触れない方が良く、またお灸の後にすぐ半身浴やシャワー浴びてしまうとのぼせる可能性があります。
【本コラムの監修】

・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。