階段の上り下りを毎日行うだけで、様々な健康効果が期待できます。例えば、階段の上り下りを数分間行うだけでも、足の筋肉やバランス感覚の改善、心血管疾患リスクの低下などに繋がります。 さらに階段を使うことで、トレーニングジムへ行ったのと同じような運動効果が期待できます。
心血管疾患リスクの低下
階段を上ると起こる体の変化が、心血管疾患リスクの低下です。心血管疾患は、心臓や血管に関連する病気の総称のことで、心筋梗塞や脳卒中、高血圧症、動脈硬化、心不全などが当てはまります。これらの疾患は、血管の損傷や血流の障害によって、引き起こされます。心血管疾患のリスクは、加齢とともに大きくなり、特に40歳を超えるとリスクが高くなると言われています。誰もが歳を取ると血管が硬くなり動脈硬化が進みやすくなるからです。他にもコレステロールが多いこと、高血圧、糖尿病、太り過ぎ、遺伝などがリスク増加として挙げられます。
2023年テュレーン大学の論文によると、38歳から73歳の45万8869人を対象に、階段を利用する頻度や生活習慣を、12.5年追跡したデータを用いて、階段の上り下りと健康状態の関連を調べました。この調査では1日に5階以上の階段(段数で50段以上)を上り下りすることは、階段を全く上がらない人と比較して、心血管疾患リスクが20%低下することが分かりました。
また、階段上り下りを毎日16〜20回行なっている人は、全くしていない人に比べて、冠動脈疾患や虚血性脳卒中などの動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の発症リスクが23%低かったことが分かっています。ちなみに11~15回行っている人でも22%低い結果となりました。
階段の上り下りが心血管疾患のリスクを低下させる理由として、心拍数を上昇させて、心肺機能を高める効果のある有酸素運動になるからと考えられています。
メタボ予防
階段を上ると起こる体の変化が、メタボ予防です。メタボリックシンドロームは、体の中でいくつかの問題が一緒のなってしまうことを言います。主に肥満、高血圧、高血糖、高脂血症などが挙げられます。メタボは、心臓病や脳卒中、糖尿病になりやすくなるので、生活習慣を改善して予防する必要があります。
その生活習慣の改善の一つに階段の上り下りが当てはまります。2021年スターリング大学等の研究では、782人のデータを使用して、自己報告による毎日の階段上り下りと、メタボの関連を調査しました。その結果、階段を毎日上がらない人は、メタボ発生率が1.9倍も高くなりました。
ちなみに、バーミンガム大学が2021年に発表した論文では、運動不足の女性たちを対象に、家の階段を上るグループと、ジムで階段を上るグループに分けて8週間、週5日階段を上ってもらいました。その結果、運動能力、体重、血中脂質が改善し、家でもジムでも同じようなメタボリスク低減効果が確認されています。具体的な内容は、過去の研究を基に、1セットを約200段に設定し、参加者には最初の2週間で1日に2セットこなしてもらい、その後の各2週間ごとに1日のセット数を1回ずつ増やし、7週目と8週目には1日に5セット行ってもらった結果です。また家グループの空腹時血糖値が下がっていることも確認されています。
一方で、2014年マドリード工科大学が行なった実験では、週200分から300分、1日あたり30分から60分程度、階段を上る、早歩きをするなどの軽い運動が、週に3回ジムへ行くのと同じくらいの効果があることが分かっており、体重や体脂肪を減らし、筋力を増大させることができます。
また、マックマスター大学の研究でも、階段の上り下りを1日に10分程度の短い時間だけ行っても、筋肉や血管の健康を改善できることが示されています。 ちなみに、こうした短い時間に集中して行う運動をスプリントインターバルトレーニング(SIT)と言い、集中して行う、休むを短く繰り返すことで様々な健康効果が期待できます。 さらに同研究グループでは、1日に座ったまま過ごす男女24人を対象に、3階分(60段)の階段の上り下りを1日3回行うグループと、行わないグループに分けて比較もしています。 6週間後、階段の上り下りグループは、心肺運動負荷試験の結果が大幅に改善していたことも分かっています。
高血圧の改善
階段を上ると起こる体の変化が、高血圧の改善です。特に50歳以上の方は高血圧になりやすいと言われていて、これは加齢とともに血管の弾力性が低下することが血圧の上昇に繋がるからと考えられています。また性別も血圧に影響を与える要因の一つで、20代から30代の若年期では、女性よりも男性の方が高血圧になるリスクが高くなります。そして40代から50代の中年期になると、その差は縮まり、男女ともに高血圧のリスクが上昇し、60歳以上の高齢期になると、閉経を迎えた後の女性ホルモンの変動が血圧に影響を与えるため、女性の方が高血圧になりやすいと言われています。もちろん遺伝や生活習慣、体重、運動習慣などの要因にも影響されます。
2021年メリーマウント大学が出している論文によると、閉経後、高血圧に悩んでいる女性たちを対象に、階段上りグループと運動をしないグループに分け、階段上りグループには週4日、1セットを192段として、1日に2セットから5セット、合計12週間行なってもらいました。その結果、階段上りグループでは、血管が柔らくなり、収縮期血圧と拡張期血圧が大きく低下しました。この結果を受け、研究者らは、階段上りが閉経や加齢に関連する血管の合併症や筋力の低下を防ぐ、または治療するための効果的な介入方法である可能性を示しています。
認知力のアップ
階段を上ると起こる体の変化が、認知機能のアップです。そもそも運動を行うことは、認知機能や気分に良い影響を与えるという証拠がたくさんあります。2016年コンコルディア大学が行なった研究では、19歳から79歳の健康な人たちを対象に、自分の日常生活における教育や身体活動に関する情報を聞き、参加者の脳をMRIでスキャンしました。その結果、教育と階段を上る回数が、脳を若く保つのに役立つ、2つの大切なポイントであることが分かりました。
具体的な効果としては、1年間勉強するごとに脳が実年齢よりも0.95歳若くなり、毎日階段を1階多く上がることで、脳が実年齢よりも0.58歳若くなることが分かりました。その理由として、階段を上る回数が、脳の側面にある部分と、表面の下の深い部分の大きさ(脳の体積)に良い影響を与えるからと考えられています。側面にある部分は、特に記憶と聞く能力に、表面の下の深い部分は感情、報酬の処理、運動機能の調節に関わっており、これらの領域の健康と機能性を維持あるいは改善すると脳全体の働きを改善することができます。
また、2021年オタゴ大学の論文でも、平均年齢約70歳の28人の高齢者を対象とした小規模実験において、階段上りが認知機能の向上に繋がることが分かっています。
元気の増加
階段を上ると起こる体の変化が、やる気の増加です。2017年ジョージア大学で行われた研究によると、慢性的な睡眠不足を持つ成人女性を対象に、階段上りとカフェイン、プラセボの摂取が元気で活動的な感覚にどう影響するのかを調査しました。具体的には10分間の階段上りと、50mgのカフェインのカプセル、そしてプラセボを摂取してもらいました。その結果、階段上りはカフェインやプラセボと比べて元気ややる気が増すことが分かっています。ちなみに階段を上るスピードはあまり関係ないようです。
バランス感覚の向上
階段を上ると起こる体の変化が、バランス感覚の向上です。バーゼル大学運動科学研究所によると、48人の高齢者を対象に1段ずつ階段を上るグループと、2段ずつ上るグループ、何もしないグループに分け、階段上りを週3セット、8週間に渡って行いました。その結果、2段ずつ上るグループのバランス感覚が有意に増加し、転倒リスクの低減、日常生活の中で感じる負担の軽減に寄与する可能性が示されています。当たり前ですが、バランス感覚がアップすると体のコントロール力もアップするので、体の動きもスムーズになります。
また、2段ずつ上るグループは、休息時と運動時の心拍数や運動強度も改善したことが分かっており、研究者らは全体的なフィットネスの向上、転倒リスクの軽減、日常生活活動中の緊張の軽減に貢献する可能性があると考えています。
寿命が延びる
階段を上ると起こる体の変化が、長寿です。2021年ビーゴ大学等の論文によれば、28万423人のデータを使って、自宅で毎日階段を上っている回数を、なし、1〜5回、6〜10回、11〜15回、16回以上と分けて階段を上る回数と死亡リスクの関連を分析しています。約11年間の追跡調査の結果、毎日家で5回以上階段を上っている人は、階段を全く上がらない人に比べて、早死にリスクが低いことが分かっています。特に1日6〜10回の階段を上る人が最もリスクが低く、この傾向はがん死亡リスクでも同様に確認されています。
【本コラムの監修】
・経歴
大学卒業後、美容の世界に入り、セラピストへ。豊富な美容知識や実務経験を活かし、その後、10年間は大手企業内講師として美容部員やエステシャンの育成、サロン店舗運営のサポートを行う。現在は、セラピスト、エステティシャン、美容カウンセラー、鍼灸師の経歴を活かし、お肌とこころと身体のトータルビューティースタイルを提案。表面だけでなく根本からのケアとして、老けない生活についてのコーチングを行う。